「夏奈っ!? 夏奈なのか!?」
デバイスが起動され、空間に映し出されたスクリーン内に現れたのは、井後と荒川、そして夏奈。
自分の妹が井後達と一緒にいるなど微塵も思っていなかった空宙は、夏奈の顔を見た瞬間酷く動揺し、慌ててスクリーンに顔を近づける。
「お兄ちゃん、なの……?」
「っ!」
空宙が言葉を失っていると、再び夏奈が戸惑いながら空宙に向かって声を掛ける。
「……あぁ、俺だ」
「っ! そ、そんな……」
空宙からの返事を聞き、声を震わせる夏奈。
「夏奈くん。あの日、君が制御室のメインモニターから見ていたように、今目の前にいる少年……彼が君のお兄さんだ」
「どうして……こんな」
井後からの説明に、両手で口元を覆い涙を流す。
「な、なんで夏奈がここに……。それに」
目の前で泣き啜る夏奈を見る空宙は、妹の顔が窶れ、最後に見た時よりハッキリと、衰弱していることに気付く。
「総隊長」
そして空宙は。
「夏奈に何をしたんですか?」
初めて井後に対し強い怒りを向ける。
「待ってお兄ちゃんっ! これにはわけが」
「良いんだ、夏奈くん」
「っ!」
兄の様子を見た夏奈がすぐに事情を伝えようとするが、それを井後が止める。
「空宙、落ち着いて聞いてほしい」
井後は自身に憎悪の眼差しを向ける空宙の顔をしっかりと見つめると。
「君があの転送事故によって行方不明となってから、私はすぐに部下へ夏奈くんの保護を指示した」
これまでの経緯を話し始めた。
「これについては……。エレマ隊が発足される前から、政府との間で取り決めとなっていた処置だった。”行方不明、もしくは死亡と認定された隊員の家族、近しい親族は速やかに隊で保護するように”と」
「…………」
「部下達がすぐに夏奈くんの居場所へと向かうまでは問題なかった。だが保護する際、詳しい事情も説明せず、手荒な方法で強制的に連れ去り、夏奈くんを深く傷つけてしまった。その結果、彼女は数日もの間、水も食事も摂れない精神状態となり……とうとう脱水症状を引き起こし倒れてしまったのだ」
「っ!」
妹が倒れたという話を耳にした途端、目を見開き勢いよくその場から立ち上がる空宙。
「幸い治療が間に合い、今こうしてこの場にいるが……彼女がこのような状態になってしまったのは、全て私の監督不行き届きによるもの。本当に申し訳ないことをした」
井後は深く、これ以上なく丁寧に、空宙に対し謝罪をする。
しかし。
「それで、許されるとでも御思いですか?」
空宙の中で沸々と湧き上がる怒りは収まらず。
唇の端からは、僅かに血が滲んでいたほどに。
その時。
「待ってお兄ちゃんっ!」
「っ!」
夏奈が空宙を落ち着かせようとする。
「私も……私も最初、お兄ちゃんが死んだって聞いた時は信じられなかったし、凄くショックだった」
「夏奈……」
「一時は本当に死のうとさえ思った……。でも、意識を取り戻した後に井後さんが話してくれたの。”お兄ちゃんは死んでないはず。必ずどこかにいるから、一緒に探そう”って」
「…………」
夏奈の後ろに立つ井後は目を閉じ、ただ静かに、黙って聴き続ける。
「こうしてまたお兄ちゃんと会えたもの、井後さんが私を励ましてくれて……希望をくれたから。だから、井後さんを責めないであげて」
夏奈はじっと空宙を見続ける。
「私からも。この度は、夏奈さんを危険な目に遭わせてしまい、本当に……本当に申し訳ございませんでした」
夏奈の傍にいた荒川も、井後に続いて深く謝罪する。
「…………」
何も言わず、その様子を見る空宙。
胸中に満ちていた憤怒の感情。
だが、夏奈の言葉によりその中で生まれるは、”傍に居てやれなかった”という悔恨の情と、”夏奈を心配させてしまった”という罪悪感。
空宙の表情が、次第に怒りから哀しみへと変わる。
「お願い、お兄ちゃん……」
夏奈が懇願する。
「……分かった。夏奈がそこまでいうなら」
「空宙……」
空宙の言葉に顔を上げる井後。
「総隊長、次からは気をつけてください」
ようやく口を開いた空宙は、井後に対して念入りに忠告する。
「肝に銘じよう」
「承知いたしました」
井後と荒川が、誠意を以って返答する。
「ごめんな、夏奈。心配かけてしまって……。もう大丈夫だから。生きてくれてありがとう」
「お兄ちゃん……」
次に空宙は夏奈の方を向き、これまで心配を掛けてしまったことを謝り、再会できたことに感謝する。
空宙の顔つきが穏やかになる様子を見た夏奈も安心し、漸く再会出来た喜びを噛み締め、笑顔を見せる。
「それで……今回はどうしてこのような手段を使ってまで?」
空宙は一息入れ間を取ると、ユスティを介して連絡を取ってきた意図を改めて尋ねる。
「あぁ。それについては」
井後は空宙からの問いに対して。
「まず、我々エレマ隊と日本政府の間事情から説明しよう」
これまで隠し続けてきた実情を、明かし始めた。