一触即発。
二人から発せられる異様な雰囲気に、集まった人々が危険を感じ、すぐにその場から離れていく。
「お、おい」
そんな中、空宙はすかさず護を止めようと、再び近づこうとするが。
「ソラ、そこどけ」
「っ!」
聞いた者がぞっとするほど、低く、押し籠った声でルーナが威喝する。
「お前はここで殺す」
殺気を放ち、今にも護に襲い掛かろうとするルーナ。
だが。
「殺すだぁ……?」
大人しくやられるつもりもない護は。
「やれるもんなら」
「っ!!」
「やってみろやぁ!」
咄嗟に地面から拾った砂利をルーナの顔面目掛けて投げつける。
「くそっ!」
思わぬ不意打ちに対応出来ず、砂利が眼に入ってしまったルーナ。
片腕で顔を覆い、怯んだ瞬間。
「――っが!?」
顎下に護の拳が直撃する。
そして。
「さっきの」
大きく仰け反るルーナの腹めがけ。
「お返しだよぉ!」
護が強烈な蹴りを喰らわせる。
「ガハッ!」
護の蹴りをモロに受けたルーナは物凄い勢いで後方に飛ばされ、家屋に激突。衝撃で家屋の傍に置かれていた積荷が崩れ落ちる。
「おいっ! なにやって……!」
空宙が護の胸ぐらを掴み叫ぶ。
「あ? だからお前誰だって……お前っ」
「空宙だよ空宙っ! お前、ルーナさんになんてことをっ!」
今は少年の姿へと戻っている空宙に気付かないでいた護。
「盾技っ! ”
「「--っ!?」」
突如、地面から楯の形をした岩石が現れ、二人を襲う。
「危ねっ!」
間一髪の所で躱す空宙と護。
二人が見つめる先には。
「……ぜってぇ、許さねぇ」
額から血を流しながら護を睨み続けるルーナがいた。
「どいとけ、空宙」
「ちょっ! よせって!」
右腕で空宙を無理やり払い、ゆっくりとルーナに近付く護。
「こいつとはどこかでケリつけなきゃと思ってたんだよ」
「何度も何度も……。あたしの神経を逆なでしやがって……」
「こいよ、叩きのめしてやる」
護が握り締めた拳をルーナに見せつけた、その時。
「……いいぜ」
「っ!」
「まずいっ!」
その異変に真っ先に気付いたのは空宙。
「……へぇ。やってみろよ」
対して、目の前の危険を顧みず挑発を繰り返す護。
その間にも、ルーナの身体へ向かって急激にマナが集約され。
「……覚悟しろよ」
怒りに満ちた表情が、狂気的な笑みへと変わる。
「(駄目だっ! 話し合いなんかじゃ止められない!)」
途端に空宙が、二人に向け両手を構える。
「
「チェイン」
一刻を争う中、ルーナと空宙の詠唱が重なる。
その時だった。
「そこまでです!!」
「「「っ!?」」」
叫び声と共に、紅蓮の炎が渦を巻き上げながら三人の中心に一人の少女が現れる。
「チェインバインド!」
続けて、炎とは別方向から濃紫色の鎖が空を切り。
「っ!? ぐぅっ!」
ルーナの身体を一瞬にして縛り上げる。
「な、なんだ?」
突然のことに困惑する護。
そこへ。
「いまだっ! チェインバインド!」
「なっ!? おいっ! 空宙てめぇ!!」
隙を逃さなかった空宙が護に向けて鎖を放ち、捕捉する。
「何事ですか!!」
「っ! これは……どなたか怪我人はいませんかっ!?」
大声を上げながら喧騒の中へ駆け込んできたのはユスティと、明後日にフィヨーツへの出発を控えたローミッドの二人が。
更には。
「騒ぎを聞いて駆けつけてみたと思えば……ルーナの嬢ちゃん、一体何を」
掌から濃紫色の鎖をルーナに向けて放ち続けるアリーの姿があった。
「おいっ! 離せよザフィロの親父っ!!」
鎖に縛られるルーナ。
アリーに対し唸り声を上げながら、地面で激しく抵抗する。
しかし。
「駄目だ。民に危険が及ぶ可能性がある以上、お嬢が冷静になるまではこの鎖は解かん。それに」
ルーナの要求に一切答える様子を見せないアリーは。
「遠くから見てもすぐに気づいたが……。嬢ちゃん、あの技を使おうとしたな」
「っ!」
厳しい目つきをし、ルーナを叱責する。
「だってそれはっ! あいつが」
「問答無用。頭が冷えるまで、暫くこのままだ」
「……くそっ!」
悪態をつくルーナは、同じく空宙によって縛られる護のほうを見る。
「おいっ! てめぇ空宙、一丁前に縛りやがって! 今すぐこの鎖解けっ!」
「駄目だ! エレマ隊員がアレットに住む人たちへ危害を加えることは御法度! 何があったかは知らないがルーナさんを傷つけたことは総隊長も流石にキレるぞっ!」
「っ! ……くそっ!」
ルーナと同様に、激しく抵抗する護だったが、空宙から井後のことを聞かされた途端、渋々その場で大人しくなる。
「ソラ殿」
「っ! ユスティさん」
二人が落ち着いたのを見計らったユスティが、空宙の下へと近づき、声を掛ける。
「一体何があったのですか?」
「それが……きっかけは分かりませんが、俺が宿舎に帰ってきたタイミングで、うちの隊員……岩上が突然吹き飛ばされたのを見て、そこからルーナさんと喧嘩を……」
「そうですか……。申し訳ありませんが、一度御二方には事情を聴取する為、ソラ殿も王城までご同行願えますでしょうか」
ユスティは空宙の手から護の身体へと延びる鎖を確認すると、空宙に対し頭を下げる。
「分かりました」
「お、おいっ!」
空宙はすぐに応諾し、地面に転がる護を抱きかかえる。
「では」
ユスティはアリーがルーナを担ぐ様子を一瞥すると、王城へ向かって歩き始める。
空宙も続いて向かおうとした時。
「ソラさん」
オーロが心配そうな顔をして声を掛ける。
「オーロさん。すみません、うちの仲間が……。この場はお願いします」
空宙はオーロに頭を下げ、急いでユスティの後を追うのだった。