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8.衝突


 一触即発。


 二人から発せられる異様な雰囲気に、集まった人々が危険を感じ、すぐにその場から離れていく。




「お、おい」




 そんな中、空宙はすかさず護を止めようと、再び近づこうとするが。




「ソラ、そこどけ」


「っ!」




 聞いた者がぞっとするほど、低く、押し籠った声でルーナが威喝する。




「お前はここで殺す」




 殺気を放ち、今にも護に襲い掛かろうとするルーナ。




 だが。




「殺すだぁ……?」




 大人しくやられるつもりもない護は。




「やれるもんなら」


「っ!!」


「やってみろやぁ!」




 咄嗟に地面から拾った砂利をルーナの顔面目掛けて投げつける。




「くそっ!」




 思わぬ不意打ちに対応出来ず、砂利が眼に入ってしまったルーナ。


 片腕で顔を覆い、怯んだ瞬間。




「――っが!?」




 顎下に護の拳が直撃する。


 そして。




「さっきの」




 大きく仰け反るルーナの腹めがけ。




「お返しだよぉ!」




 護が強烈な蹴りを喰らわせる。




「ガハッ!」




 護の蹴りをモロに受けたルーナは物凄い勢いで後方に飛ばされ、家屋に激突。衝撃で家屋の傍に置かれていた積荷が崩れ落ちる。




「おいっ! なにやって……!」




 空宙が護の胸ぐらを掴み叫ぶ。




「あ? だからお前誰だって……お前っ」


「空宙だよ空宙っ! お前、ルーナさんになんてことをっ!」




 今は少年の姿へと戻っている空宙に気付かないでいた護。


 ようやくその正体に気付いた時。




「盾技っ! ” לְשַׂחֵקレサヘイク ”! ―弾け-」


「「--っ!?」」




 突如、地面から楯の形をした岩石が現れ、二人を襲う。




「危ねっ!」




 間一髪の所で躱す空宙と護。


 二人が見つめる先には。




「……ぜってぇ、許さねぇ」




 額から血を流しながら護を睨み続けるルーナがいた。




「どいとけ、空宙」


「ちょっ! よせって!」




 右腕で空宙を無理やり払い、ゆっくりとルーナに近付く護。




「こいつとはどこかでケリつけなきゃと思ってたんだよ」


「何度も何度も……。あたしの神経を逆なでしやがって……」


「こいよ、叩きのめしてやる」




 護が握り締めた拳をルーナに見せつけた、その時。




「……いいぜ」


「っ!」




 にわかにルーナの纏う雰囲気が禍々しいものへと変わる。




「まずいっ!」




 その異変に真っ先に気付いたのは空宙。




「……へぇ。やってみろよ」




 対して、目の前の危険を顧みず挑発を繰り返す護。


 その間にも、ルーナの身体へ向かって急激にマナが集約され。




「……覚悟しろよ」




 怒りに満ちた表情が、狂気的な笑みへと変わる。




「(駄目だっ! 話し合いなんかじゃ止められない!)」




 途端に空宙が、二人に向け両手を構える。





「チェイン」




 一刻を争う中、ルーナと空宙の詠唱が重なる。




 その時だった。




「そこまでです!!」


「「「っ!?」」」




 叫び声と共に、紅蓮の炎が渦を巻き上げながら三人の中心に一人の少女が現れる。




「チェインバインド!」




 続けて、炎とは別方向から濃紫色の鎖が空を切り。




「っ!? ぐぅっ!」




 ルーナの身体を一瞬にして縛り上げる。




「な、なんだ?」




 突然のことに困惑する護。


 そこへ。




「いまだっ! チェインバインド!」


「なっ!? おいっ! 空宙てめぇ!!」




 隙を逃さなかった空宙が護に向けて鎖を放ち、捕捉する。




「何事ですか!!」


「っ! これは……どなたか怪我人はいませんかっ!?」




 大声を上げながら喧騒の中へ駆け込んできたのはユスティと、明後日にフィヨーツへの出発を控えたローミッドの二人が。




 更には。




「騒ぎを聞いて駆けつけてみたと思えば……ルーナの嬢ちゃん、一体何を」




 掌から濃紫色の鎖をルーナに向けて放ち続けるアリーの姿があった。




「おいっ! 離せよザフィロの親父っ!!」




 鎖に縛られるルーナ。


 アリーに対し唸り声を上げながら、地面で激しく抵抗する。




 しかし。




「駄目だ。民に危険が及ぶ可能性がある以上、お嬢が冷静になるまではこの鎖は解かん。それに」




 ルーナの要求に一切答える様子を見せないアリーは。




「遠くから見てもすぐに気づいたが……。嬢ちゃん、あの技を使おうとしたな」


「っ!」




 厳しい目つきをし、ルーナを叱責する。




「だってそれはっ! あいつが」


「問答無用。頭が冷えるまで、暫くこのままだ」


「……くそっ!」




 悪態をつくルーナは、同じく空宙によって縛られる護のほうを見る。




「おいっ! てめぇ空宙、一丁前に縛りやがって! 今すぐこの鎖解けっ!」


「駄目だ! エレマ隊員がアレットに住む人たちへ危害を加えることは御法度! 何があったかは知らないがルーナさんを傷つけたことは総隊長も流石にキレるぞっ!」


「っ! ……くそっ!」




 ルーナと同様に、激しく抵抗する護だったが、空宙から井後のことを聞かされた途端、渋々その場で大人しくなる。




「ソラ殿」


「っ! ユスティさん」




 二人が落ち着いたのを見計らったユスティが、空宙の下へと近づき、声を掛ける。




「一体何があったのですか?」


「それが……きっかけは分かりませんが、俺が宿舎に帰ってきたタイミングで、うちの隊員……岩上が突然吹き飛ばされたのを見て、そこからルーナさんと喧嘩を……」


「そうですか……。申し訳ありませんが、一度御二方には事情を聴取する為、ソラ殿も王城までご同行願えますでしょうか」




 ユスティは空宙の手から護の身体へと延びる鎖を確認すると、空宙に対し頭を下げる。




「分かりました」


「お、おいっ!」




 空宙はすぐに応諾し、地面に転がる護を抱きかかえる。




「では」




 ユスティはアリーがルーナを担ぐ様子を一瞥すると、王城へ向かって歩き始める。


 空宙も続いて向かおうとした時。




「ソラさん」




 オーロが心配そうな顔をして声を掛ける。




「オーロさん。すみません、うちの仲間が……。この場はお願いします」




 空宙はオーロに頭を下げ、急いでユスティの後を追うのだった。



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