空宙視点
-レグノ王国 王都-
「おい、あれ……」
「あぁ、あの少年……」
修繕中の城壁に囲われた市街。
オレンジ色に統一された屋根を持つ、石造りの建物が街道を中心に左右にひしめき合う街並み。
賑わう露店。
子ども達の笑う声。
活発に街中を走り回る兵士達。
喧騒と雑踏の中、俺は王国城へ向かう為、レンガ道を歩いていた。
一週間前に起きた、魔族による王都への侵攻。
魔族軍大将シュクルの手により一時は背水の陣にまで追い込まれた人族だったが、突如戦場に現れた白金のエレマ体を纏う青年によって撃退。
レグノ王国軍とエレマ部隊は辛くも勝利を手にすることができた。
白金のエレマ体を発現させた俺は、シュクルを倒した後すぐに少年の姿へと戻り意識を失った後、レグノ王国軍に保護され、王立病院に搬送。目が覚めた後は王国軍最重要人物として丁重に扱われることとなった。
幸い、エレマ部隊総隊長である井後義紀さんとも連絡が取れ、俺が掛間空宙であることを認識してもらえて。
――――――そして
今日は二度目となる連絡協議の日。
王国城内にある大会議場へ向かうため、街を歩いていたわけだが。
「すごく……見られてる」
王都の人達が行き来する中、街の治安を守るレグノ王国軍の兵士達が遠くから俺のことをじっと見ていたのだ。
あの戦いの最中、白金のエレマ体を纏った俺によってシュクルが倒された瞬間を多くの兵士が目撃していたわけだが、王国側は軍に対し俺の存在を公にしないよう、すぐに箝口令を敷いた。
魔族側に俺の正体がバレないようにする為の対策だと。
しかし、国を救った英雄を前に兵士達側は声も掛けずにはいられないと、俺の姿を見るや、落ち着かない様子であんなことやこんなことを話している様子だった。
「まぁ、街中で注目を集めて揉みくちゃにされるよりはいいか……」
俺は周りから送られてくる視線に対してため息を吐き、観念しては王城へと再び歩みを進めた。
その時。
「ソラさんっ!」
突然、後ろから聴き慣れた声が俺のことを呼んだ。
「……ん?」
俺はすぐに後ろを振り返ると、そこには。
「っ! オーロさん」
栗色髪に黄金の眼を持つ少女が俺に向かって手を振っていた。
「ソラさんっ! 具合はいかがですか?」
彼女が笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「えぇ、おかげさまで。ここでの暮らしにも慣れてきました」
「良かったです! 戦後まもない為、なにぶん物資や食料は不足したまま、ソラさんには不便を掛けさせますが、困ったことがあれば私もサポートしますので、遠慮なく声を掛けてください」
「ありがとうございます」
俺は彼女の気遣いに礼を言う。
レグノ王国軍召喚士部隊部隊長シェーメ・オーロ。
彼女はこの世界で唯一、俺の身体の状態を把握することが出来る存在。
先日、アーシャさんを弔う為、彼女の護衛の下ディニオ村へと向かった際、彼女から俺の身体のことを聞かされた。
今の俺の身体の中は、マナと電子の流れにエセクと同じ赤黒い物質が混入しているらしく、彼女の話によると、それがエレマ体に不具合を起こしているのではないかとのことだった。
あの時。
”私の名は、ダアト”
銀のエレマ体ではなく、白金のエレマ体が発現した時。
俺の目の前に現れた謎の女性は、あれから一度も姿を見せることはなかった。
あの女性は何者なのか。
何故あの女性が現れた時、エレマ体は再起動し、俺は元の姿に戻れたのか。
「ソラさん?」
「っ!」
考え事に耽っていたその時、隣に並んで歩いていたオーロさんが急に立ち止まって、心配そうな顔をしながら声を掛けてきた。
「どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもありません」
俺は彼女に気を遣わせないよう、微笑みながら返事をする。
「そうですか……。なにかあったら相談してくださいね」
「ありがとうございます」
彼女のお陰もあり、今の俺はこの世界での身分と衣食住も保証され、身体の事と帰れない事以外は不自由なく暮らせている。
「では、いきましょうか」
未だ俺の頭の中には多くの謎が溢れるばかり。
それでも、一歩ずつ。
「はい」
一歩ずつ、前に進んでいこう。
必ず。
必ず帰るから。
「シェーメ・オーロ殿。カケマ・ソラ殿のお通りです」
それまで、もう少しだけ待っててくれ。
夏奈。