三人称視点
「何故だ、なぜだ!?」
両者が激突してから数十分。
シュクルの顔に、焦りの表情が色濃く出る。
魔術や体術、剣術にと。
互いが互いにトドメを刺さんと言わんばかりに、ここまで強力な技を応酬し合ってきた。
始めはシュクルが押す時間帯が多く、空宙が防戦一方になる場面も見えた。
だが。
「なぜ俺が……こんなやつに押されている!?」
時間が経つごとに、空宙の力はエレマ体から放たれるオーラと共にどんどん増していき、どの技においてもシュクルを上回り始めた。
「ぐっ!?」
白金の粒子で造られた剣がシュクルの右頬を掠める。
「くそがぁ!!」
シュクルは雄叫びを上げながら、すぐに白銀の剣で空宙を襲おうとするも。
「”
「っ!?」
シュクルの動きを先読みしていたかのように、空宙は自身の前に素早く白金の楯を展開し、迫る白銀の剣を防ぐ。
「有り得ぬ、あり得ぬありえぬありえぬぞぉ!!!」
激昂するシュクルは、目にも止まらぬ速さで剣を振り続け、自身を阻む楯を破壊しようと荒れ狂う。
それでも目の前の楯は傷一つ付くことは無く。
「” ボーワホレチェック ” ― 脅威を退け、儚き風よ ―」
「ぐあぁぁぁぁ!!」
空宙が放った白金の風がシュクルのエレマ体に直撃。
シュクルのエレマ体からはメキメキと抉れる音が鳴り、シュクルは遠くへ飛ばされ、地面に激しく身体を打ち付けながら転がり込む。
「がっ……はぁ……はぁ。一体……貴様は何だというのだ!!」
シュクルは地面を這いながら前を向く。
空宙は顔色一つ変えず、白金に煌めく神々しいオーラを放ち続けながら、ゆっくりと歩き、シュクルに近付こうとする。
「お願いだ!! どうか、この国を救ってくれ!」
「あいつを倒してくれ!」
「頑張れ! がんばれぇっ!!」
戦場に、割れんばかりの声援が木霊する。
先ほどまで意識を失っていた兵士達は目を覚まし、皆立ち上がって空宙を応援していた。
「終わりにするぞ」
空宙は再びシュクルに向かい、ダンッと強く地面を蹴り加速する。
* * *
空宙視点
急に何が起きたのか、分からなかった。
暖かい光が包み込んだ途端、気付けば俺は辺り一面真っ白な空間の中にいた。
そして、目の前には知らない女性が立っていた。
”やっと、出られた”
何を言っているのかさっぱりだった。
でも。
”今なら貴方の力になれる”
その女性は、不思議と信用できた。
”まだ、助けたい想いは、ある?”
あるさ。
ずっと……ずっと、眠っていたような、そんな感覚だった。
あの日、大切な人を失ってから、ずっと。
俺の中の何かが壊れ、何も感じなくなった。
何もかもが、どうでもよくなっていた。
この世界がどうなろうと、俺にとっては関係ないと。
ずっと、そう思ってた。
けど。
――もう、いいよ
良いわけが無かった。
”私の手を取って”
まだ、力になれるのなら。
もう二度と、俺の目の前で人が死なないように。
あんな悲しい事がもう、起きないように。
二度と、大事な約束を忘れないように。
この世界を、人を守って。
必ず、帰るよ。
夏奈。
* * *
三人称視点
「これで終わりにしよう、シュクル」
空宙が白金に煌めく剣を構え、マナを集中させる。
「くっそ、くそがあ!!!」
シュクルは怒号を上げると、自身のエレマ体からこれまで以上の禍々しいオーラを放つ。
「終わりだ!!」
「低俗がぁ!」
空宙とシュクルが剣を構えながら、両者共に突進する。
白銀に煌めく剣と、白金に煌めく剣が途轍もない勢いでぶつかった。
その時。
「なっ!」
「っ!」
両者の剣が粉々に散った。
瞬間、ぶつかった反動により両者は諸手を挙げた状態になる。
「っふ、ははははは!」
空宙の剣が砕け散ったのを見たシュクルが笑い声をあげる。
「どうやら貴様の限界はそこらしいな! ならば!!」
「っ!!」
途端にシュクルは空中へと移動し。
「今この瞬間、貴様ごと王都全てを消し去ってやる!!」
王城に向かって、先ほど引き起こした大爆発よりも更に高威力の魔法を発動し始める。
「まずいっ!」
それを見た空宙が血相を変え、シュクルに向かって魔法を放とうとした。 その時。
「ソラさん」
「っ!」
白銀に煌めく女性が空宙に声を掛ける。
「ふ……はははははは!」
空中へと浮遊し、王城に向かって魔法を放とうとするシュクル。
そんなシュクルに対し、地上からは多くの兵士達が絶望の表情の浮かべ、悲痛に叫ぶ。
「いい、いいぞ。まさにこの光景……!」
それを見たシュクルは身体中にゾクゾクと快感が駆け抜け、更に狂気じみた笑みを浮かべる。
「さぁ、人間どもよ、これで……なっ!?」
いざ貯め込んだエネルギーを放出しようとした瞬間、シュクルの視界に何かが飛び込んでくる。
それは、崩れた防壁の中でも僅かに建ち残っていた部分を蹴り、上へ上へと駆け上がる空宙だった。
そして、空宙は飛び、空中でシュクルと一直線上に重なった。
* * *
数十秒前。
「ソラさん」
「っ! なんだ!」
突如、白銀に煌めく女性が慌てる空宙に声を掛ける。
「一つだけ、手が」
「手、だと?」
女性は空宙が落ち着くように、優しく、囁くように話す。
「はい。こうしてワタシが顕現された際に、二つだけ使える力があります。しかし、それは今あるワタシの力を全て変換することで使えるものになります。使ってしまえば、暫くワタシは姿を消し、ソラさんを助けることが出来なくなりますが、それでも良いですか」
女性が空宙の意志を確かめる。
「あぁ。頼む」
空宙は既に覚悟を決めていた。
「分かりました。では」
* * *
空宙とシュクルが空中で一直線上に重なる。
空宙が意を決した表情でシュクルをただ一点に見つめる。
「貴様、まだ邪魔をするかぁ!!」
シュクルが怒り狂う。
「だがもう遅い!!」
その瞬間、シュクルの身体が大きく仰け反り。
「”
前方に構えた両手から王都全てを飲み込むほどの、大きなエネルギー砲を放った。
「これで終わりだぁぁぁあ!!!」
赤黒く禍々しい巨大なエネルギー砲は、中心に沿って渦を巻き、轟音を鳴らしながら空宙に向かって迫る。
空宙は落ち着きながら、懐からある物を取り出す。
”ワタシの力は二つ。一つは全てを創造する力。貴方が願ったあらゆる物、形を顕現します”
根本から刃が折れ、柄だけが残された剣。
それは、アーシャから空宙へと託された物。
「固有技。”
ボロボロになった柄の先から、白金に輝く刀身が造られる。
「はぁぁぁぁ!!!」
空宙はその剣を、自身に迫り来るエネルギー砲に向かって力いっぱい投げる。
そして、アーシャから託された剣がエネルギー砲にぶつかる。
二つの物質が空中で押し合う。
剣先からはぶつかって圧縮されたエネルギーが稲妻となり、地上のあちこちに降り注ぐ。
「足掻くなぁ!!!」
シュクルが最後の一押しにと、自身が放つエネルギー砲の圧を強める。
剣が徐々に押し返されそうになる中。
「これで、最後だ」
空宙が剣に向かって右手を向ける。
「エア・バレット」
空宙の右手からは風の弾丸が勢いよく放たれ。
剣の柄頭の直撃する。
風の弾丸が剣を加速させる。
それは以前、アーシャが空宙を魔物から助けた際に見せたものと同じ光景。
”そして、ワタシのもう一つの力。それは全ての物質を破滅させる力。ワタシの力によって触れられた物質は全て破壊され、無きものとなります”
再び加速を得た剣が、エネルギー砲を分解しながら奥へと進んでいく。
「なぜだ、なぜ消える!!!」
自身が放ったエネルギー砲が剣によって先端から消えていくのをただ見ることしかできないシュクル。
何度も押し返そうとするも、変わらず目の前のエネルギー砲は霧散していく。
シュクルの顔色は、次第に焦燥から恐怖へと変わる。
「っ!!」
とうとう、エネルギー砲全てが剣によって消され。
その剣は勢いを止めることなく。
「がっ!?」
シュクルが着るエレマ体のコアに突き刺さる。
シュクルと空宙の目が合う。
そして。
「固有技」
空宙は。
「”
最後の技を唱えた。
「がぁっ!! はぁ!?」
コアに突き刺さった剣が爆ぜる。
瞬間。
「な……んだ……」
シュクルの身体中に、強い衝撃が襲い。
「ば……か……な」
急速にシュクルの身体がボロボロと、表面から剥がれ始める。
銀色に煌めいていたエレマ体は、枯葉のように朽ちた色となり、足先から崩れ落ちる。
「あの……方から……頂いた……最高傑作が……こんな……」
力を失ったシュクルは空中から地面へと落下し。
「まだ……まだ、やれる……おれは……こん……な……とこ……で」
抵抗虚しく、遂にその姿を消した。
* * *
空宙視点
あぁ、やっと倒せた。
全部、出し切ったからかな。
力が、抜けていく。
……遠くから、みんなが喜ぶ声が聴こえてくる。
今度こそ俺、みんなを守れたのかな。
――守れたよ
……そっか、よかった。
――ありがとう
こちらこそ、ありがとうございます。
アーシャさん。
お世話に、なりました。
――ばいばい