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31.やっと

夏奈視点






 -エレマ部隊本部基地内-




 部屋の外が騒がしい。




「……なんだろう?」




 私はベッドから起き上がり、室内用のスリッパを履いた後、静かにドアを開けて部屋の外を覗いた。




「――っ! --――!!」




 誰かの大声が奥の廊下から通り抜け、部屋の前まで響き渡ってきた。




「なにか、あったのかな」




 私はもう少しだけドアを開け、辺りの廊下を見渡した。 すると。




「本当なのか!?」




 遠くから、慌てた様子で走ってくる井後さんの姿があった。




「どうしたんだろう」




 ここ最近、ずっと元気がなかった井後さん。


 何かあったのかと尋ねても、暗い顔をしたまま「大丈夫だ」としか言わなかった。




「井後さ」




 近付いてくる井後さんに声を掛けようとした時。




「はいっ! 確かに彼が現れたんです!」




 私の心臓は。




「掛間空宙がっ!!」


「…………え?」




 これ以上ないほど大きく跳ね上がった。




* * *




ユスティ視点






-レグノ王国城 バルコニー上-




「ゆ、ユスティ……。戦場では何が起きておるのじゃ」


「私にも……どうなっているのか」




 レム王、妃、そして私の三人は今し方まで死を覚悟していた。




 敵による大爆発が起こり、レグノ王国軍の部隊長達は負けた。


 援軍としてきたエレマ隊達も戦闘不能となった。




 他の兵士達も皆倒れ、誰一人として立ち向かえなくなった。




 ついに、対抗する術を全て失ってしまったのだ。




 私の隣ではレム王と妃が最期の抱擁をと、涙を流しながら来る滅びを待ち受けていた。


 私も無念を浮かべ、下を向きながら目を瞑った。




 だが、その時だった。


 突然、戦場から眩い白金の輝きが放たれた。その瞬間、敵将が何者かによって大きく吹き飛ばされたのだ。




 誰かが、闘っている。


 その光景を見た私は、すぐにそう確信した。




 しかし、誰が……? っ!




「レム王! たった今戦場から通信が! ……えぇ、はい。同盟国と同じ姿をした青年が一人で闘って……。敵将に対し……押している……?」




* * *




井後視点






 -エレマ部隊本部基地 制御室-




「――っ! 総隊長!」




 ”掛間 空宙が現れた”


 ”白金のエレマ体を纏って”




 エンジニアからの言葉を聞いた俺はすぐに転移装置を止めるよう指示し、その場から移動した。




「荒川っ!」


「総隊長っ! 彼が……」


「エンジニア! 映像を拡大しろ!」




 制御室に戻ってきた俺はすぐさまスタッフに指示を出した。




「本当に……。生きて、いたのか……」




 拡大された映像内に映し出された者は、間違いなくあいつだった。




「ずっと……どこにいたんだ……」




 あの転移事故以来、政府にバレないよう水面下で探し続けていた。だが、決して見つからなかった。




 どうしてこのタイミングで。


 それに。




「なんだ、あの色のエレマ体は……」




 明らかに見たことのない、白金に輝くエレマ体。


 適性検査から始まり、訓練の際にもずっと見せていた銀のエレマ体とは全くの別物。




 未知のエレマ体を纏い、一人で敵将に立ち向かっている。


 迫り来る理不尽な力に対し、彼は負けじと押し返し、何度も、何度も挑み続けている。


 空宙の手数が徐々に敵将を上回り、留めを刺そうとする瞬間が端々に見えた。




 戦況が……変わり始めた。




 次々と集まってきた基地スタッフとエンジニア達が、その姿に感化され、一人、また一人と、モニターに釘付けになっていく。




「総隊長……」


「……今は、彼に託そう」




* * *




オーロ視点






-戦場 中央付近-




「オーロッ!」




 青年によって地面に降ろされた私をハロフさんが呼び、必死に車椅子を漕いで近寄ってくる。




「は、ハロフさん……」


「大丈夫か」


「え、ええ……あの人の、お陰で……」


「彼は、一体……」




 同時に、私とハロフさんは青年を見た。




 全身から放たれる白金の煌めき。


 敵将にたった一人で立ち向かうその神々しい姿は、まるで御伽噺の勇者のよう。




 私達では全く歯が立たなかった敵将に対して、彼は互角以上の闘いを繰り広げていた。




 そして……。


 そんな彼の後ろに佇む一人の女性。




「あの女性は……」


「……女性?」




 白と黒とで縦に色分かれた長髪を靡かせ、全身を白銀に染めたその姿。


 女性の周りには白銀の粒子が舞い散り、それはまるで、あの時の荒野で視たものと同じ……。




「まさか……」


「オーロ。さっきから何を」


「ハロフさん、あの青年の後ろにいる女性ですが」


「女性、だと……? 誰のことだ、そこには敵の大将と青年しか」


「え……?」




 見えて、ない……?




「っ! まずい、敵将の様子がおかしい。急いでここから離れるぞ!」


「え、あ……はいっ!」




 私はハロフさんの召喚獣によってその場から離れていった。




* * *




三人称視点






 -防壁前-




「おい、しっかりしろ」




 瀕死の状態となったエレマ体で、辛うじて動くことが出来た瀧が、烈志、彩楓、護の三人を地面に引きずりながら運び出す。




「……生きてたのか」




 なるべく三人を遠くへと運びながら、何度も後ろを振り返る瀧。


 視線の先には、シュクルに対し激しく鍔迫り合いを演じる空宙が。




「転送事故で死んだのでは……? なぜ、軍はこのことを……」




 とうに死んだと認識していた人物がいきなり戦場に現れ、目の前の強敵と対峙し闘っている事態に瀧の頭の中は混乱する。




「……なんにせよ、助かった。さて」




 瀧は崩れ落ちた巨大な岩石に三人をもたれ掛けさせると。




「……面倒くさいものだ」




 一人静かに治療を施していった。




* * *




夏奈視点






 気付いた時、私は既に部屋の外に出ていた。




「はぁ……はぁ……」




 壁を伝いながら、必死になって井後さんの後を追いかけた。


 どこかの部屋から漏れて聞こえてくる複数の声が、徐々に大きくなっていく。




 きっと、そこに井後さんは。




「はぁ……はぁ…………」




 とうとう、私はその部屋に辿り着いた。




「頼む……っ! 勝ってくれ!」


「もうお前しかいないんだっ! 頼む!!」




 扉は開かれたままで、部屋の中では多くの人達が何かを一点に見つめ、興奮し、叫んでいた。


 奥では井後さんと助手の方も必死になって、周りの人達と同じように何かを見ていた。




 掛間空宙が現れた。




「ほんとう、に……?」




 恐る恐る、部屋の中に入っていった。


 そこは沢山の大きな機械に囲まれ、前の方には大きなモニターが設置されていた。




 そして。




 私は祈るようにモニターを見た。




「……っ!!」




 すぐに分かった。




「あ、あぁ……」




 見間違えなんかじゃない。


 誰よりも、ずっと見てきた後ろ姿。




「あぁぁ……」




 ずっと、ずっと待っていた。




 ”何かあっても、必ず帰ってくるから”




「おにい……ちゃん……」




 視界が酷くぼやけ、モニターが見えなくなる。




 それでも、それでも。




「がんばれ……がんばれ……っ!」




 絶対に、もう見失わないと。


 私は必死に涙を拭い、その姿を見続けた。

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