「――っ! ――!!」
静まり返る戦場。
「――っ! ――ちゃんっ!」
その中で、必死に名を呼び続ける声が。
「――ちゃんっ! オーロちゃんっ!!」
「っ!」
リヴァイアの声に、オーロは意識を取り戻す。
「リ……リヴァイア」
朦朧とする意識の中、オーロは自身の頭に手を当てながらゆっくりと起き上がり、辺りを見渡す。
「他のみんなは……?」
砂埃が立ち込める中、血を滴らせ、フラフラと歩くオーロ。
「誰か……だれか…………」
自身の吐息と、地面を引きずる足音しか聞こえない中。
戦場が晴れる。
「うそ……でしょ…………」
散乱する剣と楯。
崩落した防壁。
力無く地面に横たわる大勢の兵士達。
大爆発により地獄絵図と化した光景が広がっていた。
目の前ではボロボロになったエレマ部隊四将の姿と、血を流し倒れる各部隊長達の姿が。
「オーロッ! 逃げるんだ!!」
「っ!?」
聴き慣れた声が、戦場を駆け抜ける。
オーロは声がした方へ振り向くと。
「ハロフさんっ!!」
そこにはたった一人でシュクルに対峙するハロフがいた。
オーロは急いで助けにいこうとするが。
「来るなっ!!」
決してオーロを近づけさせないよう、ハロフは大声を上げて止める。
ハロフの前には剣を頭上に掲げるシュクルがいた。
「お前だけは、生き延びてくれ」
ハロフが笑顔を見せる。
「ハロフさんっ!!!」
無慈悲にも、掲げられた剣が振り下ろされる。
* * *
身体が動かない。
また俺は……負けたのか。
”起きて”
…………誰?
”また、誰かが殺される”
声が聞こえる。
”助けて”
あぁ、そうだ。
俺はみんなを守って。
そして。
* * *
「ハロフさんっ!!」
シュクルの剣が満身創痍のハロフに向かって振り下ろされる。
オーロが手を伸ばしながら駆け寄ろうとするも、間に合うはずがなく。
「……ありがとう」
ハロフが感謝の言葉を告げた。
その時。
「……なんだ?」
突如、シュクルの下に短剣が飛んでくる。
寸前のところで剣を止めたシュクルは、ゆっくりと辺りを見渡すと。
「みんなを……守るんだ」
シュクルから見て左側。
そこには、先ほどシュクルによって首をへし折られた少年が立っていた。
「きみは……!」
「っ! 少年、さん……」
二人が少年を見る。
「お前。何故生きている」
シュクルは標的をハロフから少年へと変え、ゆったりとした足取りで近づいていく。
「俺は……守って……。そして…………」
少年は虚ろな目をし、フラフラとシュクルの下へと向かって歩く。
「何だ、こいつは」
「がはっ……!」
シュクルが近づいてきた少年を蹴り飛ばす。
少年は血を吐き、地面に転がる。
しかし。
「おれは……みんなを」
少年は立ち上がり、再びシュクルの下へと歩き始める。
「しつこいぞ」
シュクルの拳が、少年の腹を深く抉る。
「ぐっ……げぼぉ!」
少年は口から大量の血を吐き、その場に倒れる。
「……。さて、残りを始末しに」
それでも。
「っ!」
「おれは……」
少年は起き上がり、シュクルの足にしがみ付く。
「しつこいぞ!」
何度も自身に向かってくる少年に対し、シュクルは徐々に苛立ちを覚える。
何度も。
「お願い……」
何度も何度も。
「もう……」
殺され続ける少年に。
「もう……やめてよ…………」
涙を流すオーロ。
「っ! おいっ、よせ!! オーロ!?」
オーロは気づかぬうちに、少年の下へと歩き出していた。
「いい加減に……しろっ!」
「ぐはぁ……!」
再び少年は蹴られ、地面に横たわる。
身体中から流れる血が、辺りを赤く染め上げる。
だが。
「まだ……おれは……だれも」
少年は起き上がろうとする。
「はぁ……はぁ……。こいつ、まだ……」
シュクルが息を荒げる。
「なんなのだ。どうすればくたばるのだ」
「シュクル様、もう放っておけば」
「黙れっ!!」
「ひっ!?」
見かねたゲーデュがシュクルに声を掛けるも、シュクルは怒鳴りつける。
「こいつを見ていると無性に腹が立つ。殴り殺しても死なぬ。蹴り続けても死なぬ。首をへし折っても死なぬ」
少年が手を伸ばす。
「ならば」
シュクルが剣を抜く。
「二度と起き上がれないよう、その体。粉々になるまで」
その時だった。
「もう、いいよ」
「…………」
シュクルの目の前に、オーロが現れ。
「もう、十分だよ」
少年を抱き締めた。
「小娘、どけ」
「苦しかったよね」
シュクルがオーロに向けて圧を掛けるが、オーロは少年に向かって話し続ける。
「一人でずっと……」
「どかぬなら」
「寂しかったよね……」
「お前から殺す」
シュクルがオーロに剣を向けた。 その時。
「お嬢っ!」
「オーロちゃん!」
「嬢ちゃんっ!!」
「オーロ!」
オーロの召喚獣たちが楯となり、シュクルの剣を防ぐ。
「オーロっ! 逃げるんだ!!」
遠くから、ハロフが叫ぶ。
だが。
「ずっと、見ていたよ」
オーロは決して少年から離れることなく。
「貴方の中」
語り続ける。
「貴方は、あの人たちと同じ。この世界の人じゃない」
「でも……おれは……」
「そんな貴方は、ここで死ぬべきじゃない」
「何も……守れてない」
「いいの……。私達のことは気にしなくていいから」
オーロは少年の顔を見て、自身の首飾りを握り締める。
「この術はね。絶対に戦場で使っては駄目だって、お父様から教わったの。昔一度だけ間違って使っちゃったことがあってね……大変だったんだ」
オーロは少年に優しく微笑みかける。
「一時的に私の体内にあるマナを全部貴方にあげる。そしたら、私は暫く動けなくなるから」
オーロの頬を一筋の涙が伝う。
「敵が目の前にいる戦場で……。それって、死ぬことと同じだよね」
「まって……たのむ……いや……だ」
少年の手が、オーロの背中を掴む。
「どうか、貴方だけでも生きて。そして、元の世界へと帰ってね」
「よせっ! オーロぉ!!」
オーロの首飾りが光り出す。
「一緒に戦ってくれて、ありがとう」
そして。
「禁技」
陽の光のような、優しい光が。
「”
少年を包んだ。
* * *
いやだ。
頼むから。
もう、これ以上。
俺の前で誰も死なないでくれ。
また俺は。
誰も守れないまま。
終わるのか……?
”……やっと”
……誰?
”やっと、出られた”
……誰か、いる?
”ずっと、貴方の中にいた”
お前は……誰なんだ?
”今なら、貴方の力になれる”
俺の……?
”まだ、助けたい想いは、ある?”
……あぁ、あるさ。
”私の手を取って”
……信じていいのか?
”えぇ。大丈夫よ”
……頼む。
”ありがとう”
お前は……。
”私の名は……”
【エレマ:再起動】