目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
29.ありがとう


「――っ! ――!!」




 静まり返る戦場。




「――っ! ――ちゃんっ!」




 その中で、必死に名を呼び続ける声が。




「――ちゃんっ! オーロちゃんっ!!」


「っ!」




 リヴァイアの声に、オーロは意識を取り戻す。




「リ……リヴァイア」




 朦朧とする意識の中、オーロは自身の頭に手を当てながらゆっくりと起き上がり、辺りを見渡す。




「他のみんなは……?」




 砂埃が立ち込める中、血を滴らせ、フラフラと歩くオーロ。




「誰か……だれか…………」




 自身の吐息と、地面を引きずる足音しか聞こえない中。


 戦場が晴れる。




「うそ……でしょ…………」




 散乱する剣と楯。


 崩落した防壁。


 力無く地面に横たわる大勢の兵士達。




 大爆発により地獄絵図と化した光景が広がっていた。


 目の前ではボロボロになったエレマ部隊四将の姿と、血を流し倒れる各部隊長達の姿が。




「オーロッ! 逃げるんだ!!」


「っ!?」




 聴き慣れた声が、戦場を駆け抜ける。


 オーロは声がした方へ振り向くと。




「ハロフさんっ!!」




 そこにはたった一人でシュクルに対峙するハロフがいた。


 オーロは急いで助けにいこうとするが。




「来るなっ!!」




 決してオーロを近づけさせないよう、ハロフは大声を上げて止める。


 ハロフの前には剣を頭上に掲げるシュクルがいた。




「お前だけは、生き延びてくれ」




 ハロフが笑顔を見せる。




「ハロフさんっ!!!」




 無慈悲にも、掲げられた剣が振り下ろされる。




* * *




 身体が動かない。


 また俺は……負けたのか。




 ”起きて”




 …………誰?




 ”また、誰かが殺される”




 声が聞こえる。




 ”助けて”




 あぁ、そうだ。




 俺はみんなを守って。


 そして。




* * *




「ハロフさんっ!!」




 シュクルの剣が満身創痍のハロフに向かって振り下ろされる。


 オーロが手を伸ばしながら駆け寄ろうとするも、間に合うはずがなく。




「……ありがとう」




 ハロフが感謝の言葉を告げた。


 その時。




「……なんだ?」




 突如、シュクルの下に短剣が飛んでくる。


 寸前のところで剣を止めたシュクルは、ゆっくりと辺りを見渡すと。




「みんなを……守るんだ」




 シュクルから見て左側。


 そこには、先ほどシュクルによって首をへし折られた少年が立っていた。




「きみは……!」


「っ! 少年、さん……」




 二人が少年を見る。




「お前。何故生きている」




 シュクルは標的をハロフから少年へと変え、ゆったりとした足取りで近づいていく。




「俺は……守って……。そして…………」




 少年は虚ろな目をし、フラフラとシュクルの下へと向かって歩く。




「何だ、こいつは」


「がはっ……!」




 シュクルが近づいてきた少年を蹴り飛ばす。


 少年は血を吐き、地面に転がる。




 しかし。




「おれは……みんなを」




少年は立ち上がり、再びシュクルの下へと歩き始める。




「しつこいぞ」




 シュクルの拳が、少年の腹を深く抉る。




「ぐっ……げぼぉ!」




 少年は口から大量の血を吐き、その場に倒れる。




「……。さて、残りを始末しに」




 それでも。




「っ!」


「おれは……」




 少年は起き上がり、シュクルの足にしがみ付く。




「しつこいぞ!」




 何度も自身に向かってくる少年に対し、シュクルは徐々に苛立ちを覚える。




 何度も。




「お願い……」




 何度も何度も。




「もう……」




 殺され続ける少年に。




「もう……やめてよ…………」




 涙を流すオーロ。




「っ! おいっ、よせ!! オーロ!?」




 オーロは気づかぬうちに、少年の下へと歩き出していた。




「いい加減に……しろっ!」


「ぐはぁ……!」




 再び少年は蹴られ、地面に横たわる。


 身体中から流れる血が、辺りを赤く染め上げる。




 だが。




「まだ……おれは……だれも」




 少年は起き上がろうとする。




「はぁ……はぁ……。こいつ、まだ……」




 シュクルが息を荒げる。




「なんなのだ。どうすればくたばるのだ」


「シュクル様、もう放っておけば」


「黙れっ!!」


「ひっ!?」




 見かねたゲーデュがシュクルに声を掛けるも、シュクルは怒鳴りつける。




「こいつを見ていると無性に腹が立つ。殴り殺しても死なぬ。蹴り続けても死なぬ。首をへし折っても死なぬ」




 少年が手を伸ばす。




「ならば」




 シュクルが剣を抜く。




「二度と起き上がれないよう、その体。粉々になるまで」




 その時だった。




「もう、いいよ」


「…………」




 シュクルの目の前に、オーロが現れ。




「もう、十分だよ」




 少年を抱き締めた。




「小娘、どけ」


「苦しかったよね」




 シュクルがオーロに向けて圧を掛けるが、オーロは少年に向かって話し続ける。




「一人でずっと……」


「どかぬなら」


「寂しかったよね……」


「お前から殺す」




 シュクルがオーロに剣を向けた。 その時。




「お嬢っ!」


「オーロちゃん!」


「嬢ちゃんっ!!」


「オーロ!」




 オーロの召喚獣たちが楯となり、シュクルの剣を防ぐ。




「オーロっ! 逃げるんだ!!」




 遠くから、ハロフが叫ぶ。


 だが。




「ずっと、見ていたよ」




 オーロは決して少年から離れることなく。




「貴方の中」




 語り続ける。




「貴方は、あの人たちと同じ。この世界の人じゃない」


「でも……おれは……」


「そんな貴方は、ここで死ぬべきじゃない」


「何も……守れてない」


「いいの……。私達のことは気にしなくていいから」




 オーロは少年の顔を見て、自身の首飾りを握り締める。




「この術はね。絶対に戦場で使っては駄目だって、お父様から教わったの。昔一度だけ間違って使っちゃったことがあってね……大変だったんだ」




 オーロは少年に優しく微笑みかける。




「一時的に私の体内にあるマナを全部貴方にあげる。そしたら、私は暫く動けなくなるから」




 オーロの頬を一筋の涙が伝う。




「敵が目の前にいる戦場で……。それって、死ぬことと同じだよね」


「まって……たのむ……いや……だ」




 少年の手が、オーロの背中を掴む。




「どうか、貴方だけでも生きて。そして、元の世界へと帰ってね」


「よせっ! オーロぉ!!」




 オーロの首飾りが光り出す。




「一緒に戦ってくれて、ありがとう」




 そして。




「禁技」




 陽の光のような、優しい光が。




「” אהבהアハバ ”」




 少年を包んだ。




* * *




 いやだ。




 頼むから。




 もう、これ以上。


 俺の前で誰も死なないでくれ。




 また俺は。


 誰も守れないまま。




 終わるのか……?




 ”……やっと”




 ……誰?




 ”やっと、出られた”




 ……誰か、いる?




 ”ずっと、貴方の中にいた”




 お前は……誰なんだ?




 ”今なら、貴方の力になれる”




 俺の……?




 ”まだ、助けたい想いは、ある?”




 ……あぁ、あるさ。




 ”私の手を取って”




 ……信じていいのか?




 ”えぇ。大丈夫よ”




 ……頼む。




 ”ありがとう”




 お前は……。




 ”私の名は……”








 【エレマ:再起動】

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?