「フェニクス! 敵の数が多いところから攻撃してっ! アスピドはそのまま待機! リヴァイアは軽傷者の手当を! ティーガリスは私と一緒に重症者をメルクーリオさんの所まで運ぶよ!」
オーロの指示の下、四体の召喚獣が戦場を端から端まで奔走する。
オーロが戦地に到着してから、レグノ王国軍側の戦況は安定化。
崩れた隊列も元に戻り、盾士部隊と剣士部隊は再び前線を押し上げ、迫り来るエセク達の足止めを行う。
「流石……ですね……」
「あぁ。私が手塩にかけ育てた召喚士だからな」
八面六臂の活躍で戦場を掛けるオーロを、防壁の上から見ていたメルクーリオとハロフが感嘆の声を上げる。
「メルクーリオさんっ!」
「っ! オーロ……さん」
そこへ、オーロと重傷者を背に乗せたティーガリスが降り立つ。
「この方をお願いします。ハロフさん、遅れてすみません」
オーロはすぐに重傷者をメルクーリオへ引き渡すと、ハロフの方を見て頭を下げる。
「いや、良いタイミングだった。私達のことは事前に知っていたのか?」
「はい。通信用の魔道具を通じてユスティさんから情報を得ていました」
ハロフの問いに対しオーロはそう答えると、ちょうどハロフの真後ろに位置する王城バルコニーを見る。そこにはレム王の隣にいるユスティが戦場各地へと連絡を取り続ける姿があった。
「では私はまた戻り……っ!」
そして、オーロはすぐにその場を離れ次の重傷者を運びに戻ろうと、待機するティーガリスの方へと振り返った時だった。
「ザフィロさんっ!」
すぐ目の前でザフィロが二つ目の水晶を取り出そうとしていた。
「ん? なんだ、オーロ」
オーロに呼ばれたザフィロは満更でもない顔をし、返事をする。
「……ザフィロさん、これ以上その魔道具を使うのは止めてください」
オーロが怒りの籠った顔でザフィロの下へと近づけば。
「何故だ、これを使えばあやつらは全て一瞬にして消えるのだぞ?」
ザフィロはオーロが憤る理由が分からないといった表情をする。
「先ほどのように、他の兵士達が巻き沿いを喰らいます。それに今、必死に前線で隊列を維持しているローミッドさんとペーラさん、ルーナさんの想いを無下にしないでください」
オーロの握る拳が、小刻みに震える。
「……っふ。あんな効率の悪い闘い方、私の魔術で一気に倒したほうがっ!」
バチンッ。と乾いた音が辺りに響く瞬間。
ザフィロの右頬が赤くなる。
「いい加減にしてくださいっ!!」
「きっ……さまァ!!」
不意にオーロから平手を受けたザフィロは青い眼で睨みつける。
そして、怒りによる衝動で手に持っていた水晶を地面に向かって叩き割ろうとした。
その時だった。
「オーロっ!!」
「--っ!」
突如、オーロの後ろにいたハロフが叫ぶ。
思わずオーロは振り返ると。
「今は、それどころじゃない」
ハロフは顔を青ざめ、上空を見上げていた。
「ついに……きたか……」
「ハロフ……さん?」
オーロはハロフの反応を見ると、恐る恐る上空を見上げた。 すると。
「っ!!」
そこには。
「ほぅ。こちらの人族は随分と粘るようだな」
ゲーデュと赤のフードを纏った者の姿があった。
* * *
冥国の牢 跡地。
王都から脱走した少年は、崩落した洞窟内を這いずり、何かを探し求めるように彷徨い続ける。
王都からここまで休み事なく走り続けてきた少年は、崩れた岩石と土砂を無理やりかき分けたことにより、手足の皮は破れ、身体のあちこちからは血を流していた。
ふと、少年が止まる。
少年が見つめる先には、根本から刃が折れ、柄だけが残された剣が。
それは以前、少年が託された物。
「あぁ……俺は……」
少年はボロボロになった柄を手に取る。
「……守れなかった」
過去の記憶が。
「みんな……消してしまった……」
呪いとなり。
「…………」
少年の心を、縛り続ける。
少年は力なく倒れては。
重くなった瞼を、ゆっくりと閉じる。
「(あぁ……意識が……)」
そうして、少年は深い眠りに就こうとした。
その時だった。
――ソラ
「…………誰?」
――ソラ、もういいよ
「……アーシャ……さん?」
どこか懐かしく、聴き慣れた声が。
――ソラ、もう気にしなくていいんだよ
彼の耳元へと、囁きかける。
「でも……俺はっ……!」
少年の目から涙が溢れる。
――いいんだ
決して己を赦そうとしない、そんな少年を。
声は優しく、包み込むように語り掛ける。
――君の助けを待つ人がいる
「おれ……を?」
――あぁ、だからどうか、応えてほしい
その声は、段々と小さくなり。
――君が、無事に帰れることを
ほどなくして、消えていった。
「…………」
少年は地面に伏せる顔をゆっくりと上げる。
その先には、虹色に輝くプリズムが。
「……これ、は」
少年がプリズムに手を伸ばそうとした。
同時。
"お願い"
「……っ!」
先ほどとは違う声が。
"二つの世界が危ない"
少年の頭の中に響き渡る。
"それに触れて"
「これ、を?」
声が少年を導く。
"私が連れていくから"
少年がプリズムに触れる。
"どうか"
そして、魔法陣が描かれ。
"助けてほしい"
少年は消えた。
――みんなを、守ってね