「盾士部隊は最前列、剣士部隊は二列目へ!」
敵軍の配列が魔物からエセクへと入れ替わるのを確認したレグノ王国軍は、事前に練っていた作戦に則り部隊配列を変えていく。
通常の斬撃や打撃が効かず、高密度のマナを直接照射するか、それに準ずる威力の魔法を充てない限り消滅しないエセクに対して、魔法士部隊が攻撃を仕掛けるまでの間、盾士部隊と剣士部隊が食い止め、時間を稼ぐ。
「決して隊列を乱すな!」
二部隊間のポジショニングを、ローミッド、ペーラ、ルーナの三人が神経を尖らせながら、少しのズレも起きないよう指示を出しコントロールする。
「エアバレット!」
「ファイアランス!」
エセク達が足止めを受けている所を狙い、後衛から魔法士部隊が魔法を撃ちこんでいくのだが。
「フフッ……。きたかきたかっ!」
その中で一人、ザフィロは狂気じみた笑みを浮かべていたのだ。
「お前たち、私は
ザフィロは近くにいた部下達に指示を出すと、嬉々として王都の方へと戻っていく。
「ヒヒヒ……殺す、殺す。コロス!!」
「うっ! クソ!」
一進一退の攻防が続く中、一際若い剣士がエセク達から集中的に狙われていた。
「ヒャハァッ!」
「しまっ!」
そして若い剣士は一瞬の隙を突かれ、地面に押し倒されると。
「死ねぇ!」
そこに、エセクの鋭利な腕が振り下ろされようとした。 その時。
「そーーーーいっ!!」
「ギャア!?」
「--っ!!」
どこからともなく現れた烈志がエセクの首を斬り落とし、若い剣士を助太刀する。
「大丈夫かいっ!」
「あ、ありがとうございます!」
烈志は倒れていた若い剣士に手を差し伸べ、立たせようとする。 だが。
「--っ! 危ない!」
「えっ? うぉ!?」
先ほど首を斬られたエセクが烈志の背後を襲い掛かる。
「マジでこいつら死なないんだな!?」
「よくも、ヨクモッ!」
烈志に斬られたエセクは怒り狂い両腕を乱暴に振り回す。
「物騒だなぁ。おーいっ、左雲ちゃぁーん! 早く何とかしてくれぇー!」
エセクの攻撃を凌ぎながら、烈志は後方に向かって大声を上げ彩楓を呼ぶと。
「分かってる! 少し待て!」
烈志に呼ばれた彩楓は、額に汗を滲ませながら真剣な表情で集中する。
「魔・擬技。―暴風よ―」
刹那。彩楓の両掌から螺旋状の風が発現。
それは突風となりエセク達の下へと疾走し。
「うおおっ!?」
烈志の近くギリギリをかすめながら。
「「グギャアアアッ!」」
辺り一帯のエセク達を盛大に吹き飛ばす。
「……ふぅ」
「ふぅ、じゃねぇよ! 左雲ちゃん、今俺ごと狙ったっしょ!?」
「それは……当てるつもりで撃ったからな」
「何だとぉ!?」
手の甲で額の汗をぬぐう彩楓に対し烈志は両腕を上げて文句を言うが、それを彩楓は蔑むような眼で見る。
その時。
「フッ。似非者が調子に乗りおって」
「--っ!」
先ほどまで王都の方へと戻っていったザフィロが防壁の上から再び姿を現すと、彩楓のことを見ては嘲笑う。
「貴様には魔術とは何たるものかを教えてやろう」
「なに?」
ザフィロはそう言うと、懐から一つの水晶を取り出す。
水晶の中では白銀に光る煙が怪しげに漂う。
「では」
ザフィロが手に持つ水晶を割る。
割れた水晶からは白銀の粒子が流れ出し、ザフィロの身体へと吸い寄せられる。
「参ろうぞ」
天に向かって両腕を掲げたと同時、ザフィロの身体が白銀に輝き、頭上には巨大な黄金の球体が発現する。
そして。
「魔・秘技」
巨大な球体は眩い光を放ち。
「”
「--っ!?」
無数のレーザー砲となり、戦場
「「「ギャアアアアアッ!?」」」
黄金の光を浴びたエセク達は一瞬で身体を溶かし、跡形も無く霧散するも。
「「うわああああ!!」」
ザフィロの技に戦場は大混乱。
兵士達は巻き沿いを喰らわないよう右へ左へと逃げ回る。
「フフフ……アハハハハハッ!」
その光景を防壁の上から見下ろすザフィロは、新しいおもちゃを買ってもらった子どものように歓喜する。
「素晴らしいっ! まさかこれほどとはっ! あの少年には感謝をしなければ!」
ザフィロが使用した魔道具は、先日捕えられていた少年から採取した白銀の粒子を培養し造られたもの。
自身の研究結果に満悦するザフィロだったが。
「馬鹿ザフィロッ!!」
戦場から罵声が飛ぶ。
「ん?」
ザフィロは声がした方を見ると。
「ケホッ、ケホッ……。てめぇ、どういうつもりだ!」
「自国の兵士達まで殺すつもりか!!」
辺り一帯、空まで舞い上がる土煙に咳込みながら、ルーナとペーラが怒りを露わにし、ザフィロを睨んでいた。
「なに。私も兵士達には当たらないように狙ったぞ? ほれ、現に誰も死んではおらんではないか」
「--っ! だから好き勝手やっていいというわけでは「ペーラッ!」 っ!?」
ザフィロの言い分に対しペーラが反論しようとした、その時。
ローミッドの呼ぶ声が戦場を駆け抜ける。
「……っ! みな急いで隊列を戻せっ!!」
ペーラが振り返った時、既に次のエセク達が迫り始めていた。
「まずいっ! お前らっ! 今すぐ最前線へ「うわああああっ!?」 っ!?」
傍にいたルーナも自身の部下達へ指示を出そうとした時、兵士達の叫び声が一斉に上がると。
次の瞬間。
「逃げろおお!」
舞い上がる土煙によって隠された上空から突然、大量の火球が現れ、地上へと降り注がれる。
「なっ!?」
土煙が消え、徐々に晴れていくと、いつの間にかそこには数えきれないほどの飛行型の魔物が王国軍を待ち構えていたのだ。
「キエェェェェッ!!」
飛行型の魔物が、雄叫びを上げる。
「みんな、シェーメ部隊長が来るまで持ち堪えろっ!」
すぐに召喚士部隊が応戦に向かうも、多勢に無勢。
飛行型の魔物は次々と口から火球を放ち、地上にいる王国軍を襲う。
「盾・擬技! ―全てを囲え-」
「--っ!」
火球が迫る中、いの一番に護が駆け付け擬技を発動。敵の攻撃を防ぐ。
「お前っ!」
「クソちびっ! さっさと楯広げろ!」
護がルーナに向かって叫ぶ。
「うるせぇっ! 盾技! ”
すぐさまルーナも技を発動する。
「二人ともっ! 持ち堪えてくれっ!!」
多くの兵士達が二つの楯に守られる中、護とルーナの後ろからローミッドが励ます。
「キシャァァァァッ!」
「ヒヒャヒャヒャッ!」
上空からは火球の雨。
地上からは大勢のエセク。
防御の外では魔法士と召喚士達が応戦するが一向に数は減らせず。
膠着状態が続く中。
最初に限界がきたのは。
「っく!」
「ケセフ部隊長っ!」
ルーナの技のほう。
「おいてめぇっ! 何へばってんだよ!!」
「うる……せぇ……!」
ルーナは完全にへたばり、その場に片膝をつく。
「ちっ!」
その様子を見た護は擬技を解除し、ルーナの下へ走る。
「てめぇ……何をっ!」
「虚弱野郎は黙ってろ!!」
護はルーナの目の前に立ち。
「盾・擬技! ―全てを守れ-」
これまでで一際大きな楯を展開させ、魔物とエセクによる攻撃を防ぐ。
だが。
「っな!?」
その楯は脆くもすぐに解除され。
「しまっ!!」
途端に兵士達を守るものが無くなる。
非情にも、エセク達と火球が一斉に押し寄せる。
「総員、逃げろぉ!!」
ローミッドとペーラの二人が咄嗟に皆の前に立つ。
一人でも多くを救おうと。
自らが楯となることで。
その時だった。
「”
突如、上空から巨大な亀が大きな音を立て地面に降り立つ。
その亀は兵士達の前に立ち、迫り来る火球を全て受け止めると、背の甲羅を震わせながら口を大きく開け。
「アスピド! ”
広範囲に火炎砲を発射。
「「ギャアアアアアッ!」」
その火炎砲が、エセクと飛行型の魔物を一瞬にして殲滅する。
瀬戸際、兵士達の窮地を救った巨大な亀。
その背には栗色の髪を靡かせた、一人の少女がいた。
「遅れてすみません!」
少女は甲羅から降り、皆の下へと駆け。
「シェーメ・オーロ、只今帰還しました!」
ようやく、皆の下、戦線へと合流した。