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17.動向


「ど……どういうことじゃ…………」


 誰もいなくなった窓を見つめるレム王。


 ゲーデュが残した言葉に錯乱する。


「もう一つの世界……。まさか、地球のことでしょうか……?」


 隣に立つユスティの声が、僅かに震える。


「ですが……奴らは魔族達に加担した裏切り者……。何故、魔族が……?」


「わ、分からぬ……」


 二人の中での認識に、矛盾が生まれる。


「魔族側が奴らを裏切ったのか……?」


「それなら尚更、何故我々に……? 裏切るのならば、先の戦いのように奇襲を仕掛けるのが一番では……?」


「それも奴らが言っていた”余興”なのか……?」


 夜風が怪しげな音を立てながら開く窓から入り込み、二人を撫でるように吹きかける。


 部屋の外からは騒ぎを聞きつけた兵士達の足音が近づいてくる。


 惑乱する頭の中で、レム王が想起していたのは、エレマ隊総隊長、井後義紀の顔と。


「あの時……」


 最後にやり取りをした際の記憶だった。



* * *


「魔族が……侵攻を開始した……」


「「「っ!!」」」


 王都からの連絡を皆に伝えるローミッド。


 一同は目を見開き、騒然とする。


「……予測では、どのくらいで王都に……?」


「詳しくは王都に戻ってきてからとは言われたが……。明日、だそうだ」


「--っ!!」


 全員が絶句する。


 一瞬にしてその場に緊張が走る。


「急いで王都へ戻るぞ。全員、転移魔法の用意を」


 ローミッドは懐から虹色に輝くプリズムを取り出す。


 他の三人もそれぞれ取り出そうとした、その時。


「あっ!」


 オーロが洞窟内でプリズムを落とした事を思い出す。


「--っ! そういやお前、さっき」


「どうしよう……ローミッドさん、残り3つでも全員転移できますか……?」


 オーロは急いで確認を取る。 しかし。


「まずいですね……。ユスティ殿の説明では転移用魔道具一つにつき同時に転移できるのは二人までと……」


「そんな……」


 残ったプリズムは三つ。


 現在この場にいるのは、ローミッド、ペーラ、ルーナ、オーロと二人の密偵。そして、少年を合わせた七人。


「少なくとも一人は転移が出来ない、と……」


 全員が顔を見合わせる。


 すると。


「……ローミッドさん、先に皆さんで王都に帰還してください」


「っ!?」


 オーロがローミッドに対し先に行くよう促す。


「しかしそれではっ!」


「大丈夫です。私は……” Summonedサモンド Frightフライト” ―風に乗せて-」


「--っ!」


 次の瞬間、一同の前には純白に煌めく翼を持った一頭の虎が現れる。


「……オーロか。行くのか?」


「えぇ、王都まで。お願い……ティーガリス」


「…………分かった」


 深く渋い声で囁く召喚獣は、オーロの頼みに応える。


「私は召喚獣に乗って王都まで向かいますので、皆さんはお先に」


 オーロはティーガリスの背に跨る。


「それで間に合うのか……?」


 ペーラが心配そうな顔で尋ねる。


「ティーガリスの速さは風と同じなので。必ず……間に合わせます」


 オーロはペーラの目を真っ直ぐ見てそう言うと、再びローミッドの方へと顔を向ける。


「ローミッドさん、ユスティさんと私の部下達には”必ず間に合わせる”と伝えて頂けますか?」


「……あぁ、承知した」


 ローミッドはゆっくりと頷く。


「……では皆、いこう」


 そして、ローミッドの合図とともに、各々プリズムを中心に身を寄せ合う。


 プリズムから眩い光が放たれ、地面には魔法陣が描かれる。


「……戦場で」


「…………はい」


 オーロの目の前からローミッド達が消える。


「……ティーガリス、行きましょう」


 そして、オーロの合図と共にティーガリスは翼を大きく広げると、上空へと羽ばたき、風のように目にもとまらぬ速さで王都へと向かっていった。



* * *


 レグノ王国 王都 王国城内祭儀場



「…………着いたのか?」


 転移したローミッド達は無事に王都へと到着する。


 時刻は既に夕方を回り、外から入ってくる光はほとんど無いため祭儀場内は真っ暗だった。


 何か灯りになる物は無いかと、ローミッドが辺りを見回した、その時。


「――っ! ――――!」


 遠くから何者かの声が足音と共に近づいてくる。


「皆さんっ!! ご無事でしたか!?」


 ローミッド達に駆け寄ってきたのはユスティ。


 息を切らしながら、ローミッド達を出迎える。


「ユスティ殿っ!! ということは」


「えぇ、ここは祭儀場内となります。皆さま、御無事で……ローミッド殿、シェーメ殿は……?」


 ユスティはこの場にオーロがいない事に気付く。


「無事ではありますが、事情がありまして……。彼女は後から王都へと到着します。”必ず間に合わせる”、と」


「そう……ですか」


 ローミッドはすぐにオーロからの伝言をユスティに話す。


「……っ! そうでした! 皆さま、到着したばかりで申し訳ございません。急ぎ、大会議場まで御集りいただけますでしょうか。レム王がお待ちになられております」


「承知した。その前にユスティ殿、この子を……」


 ローミッドはペーラから少年を受け取ると、ユスティに差し出す。


「こ、この子は……?」


「先ほど、通信用魔道具で報告していた子になります。オーロ部隊長の眼と召喚獣の話によると、恐らく荒野での謎と関係性がある者かと……」


「っ! この子が……。急ぎ、研究所にて調べさせて頂きます」


 ユスティは少年を預かる。


「では皆様、こちらへ」



* * *


 王都より数百キロ離れた荒地にて。



「……ゲーデュ、舞台の下準備は」


「えぇ。漏れなく整っております」


「……そうか」


 悍ましい数の魔物とエセクが入り混じる中で、その中心にはゲーデュと赤のフードを纏った者が密やかに話す。


「……。流石はあの方が指名しただけはある」


「いえいえ。このくらい、造作もありません」


 姿を隠す者に対し、ゲーデュは遜へりくだる。 そして。


「…………では、いくか」



 その者は立ち上がった。



* * *


 王国城内 大会議場



「みな、無事で何よりだった。密偵も命があって、本当に良かった……感謝している」


 到着したローミッド達を会議場にて待っていたレム王は、一同に向かい、労いと感謝の言葉を送る。


「レム王、魔族の侵攻については」


「あぁ、それもじゃが……」


 ローミッドの言葉を遮るレム王。


 その瞬間、ユスティの表情が険しくなる。


「先に、伝えなければならぬことがある。では…………入ってきてくれ」


 レム王が会議場の入り口扉に向かって合図を送る。


 そして。


「……失礼いたします」


「「「--っ!?」」」


 会議場に入ってきたのは。


「……皆様、お久しぶりでございます」



 エレマ隊総隊長、井後義紀だった。


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