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11.技

「おいっ! こいつらどんどん湧き出てくるぞ!」


 影によって模られた魔物達と遭遇してしまったオーロ達四人は、不安定な視界と足場の中、激しい戦闘を繰り広げていた。


「っし!」


「はぁっ!」


 ローミッドとペーラは迫り来る魔物達に対し、片っ端から剣を振り胴や首元を切り裂いていく。


「”Flameフレイム Danceダンス”! ―火炎よ、舞えー」


 中衛からはオーロの召喚獣であるフェニクスの炎が帯状となって四人を囲う魔物達をまとめて焼き尽くし。


「――っ! しまっ!」


「ペーラ危ねぇっ!」


 そして後衛からは。


「--っ! おらぁっ!」


 淡黄蘗うすきはだ色の楯を持ったルーナが魔物からの攻撃を防ぎ、続けざまケリを入れ魔物を数十メートル先まで吹き飛ばしていく。


「すまないっ……! 助かったっ!」


「今はそんな事いいっ! それよりもこいつら、さっきからちゃんと倒せてるのかよ!?」


 ルーナは目の前で奇怪に揺らめく影の化け物達を睨みながら叫ぶ。


「奴らがこちらの攻撃を受けて消える際、影の胴体よりマナが放出されていることから確実には倒せている……っ! だが……」


「あまりにも数が……多すぎますっ!」


 ローミッドとオーロも息を切らしながら応戦を続ける。


 伊達に王国軍の各部隊長、副長を命ぜられてはない四人。


 ここまでの戦いの中、次々と魔物達を蹴散らしていくが、それ以上に押し寄せてくる数が多い為か、徐々に洞窟の壁際へと追い込まれていた。


「ちっ! このままじゃ埒が明かねぇ!」


 倒すたびにマナが補充されるとはいえ、四人の肉体的な疲労は明らか。


「撤退は……。やはり厳しいか……っ!」


 ローミッドは魔物の群衆に突っ込み連撃を繰り出す中で咄嗟に後方を見るが、どこもかしこも魔物だらけ。四人は完全に包囲されていた。


「このままでは……!」


 ローミッドの顔色が徐々に悪くなる。 その時。


「皆さんっ! 私に考えが!」


 オーロが三人に向かって声を上げた。


「考えっ……だとっ!?」


 ルーナが迫る敵を対処しながら訊き返す。


「はいっ! その前に……。ローミッドさん、ペーラさん。お二人は広範囲系統のはお持ちですか?」


 オーロの問いにローミッドとペーラは顔を見合わせる。


「あ、あぁ。会得しているが……」


「このままでは皆体力だけを奪われ、やられるだけです。私がフェニクスの炎をお二人の剣に纏わせますので、その状態で広範囲系統の技を放ってください」


 オーロは自身の前で闘い続けるフェニクスから目を離さずに話す。


「その一撃で……。全てを倒しましょう」


 紅蓮の炎の先からは新たな魔物達が近づいてくる。


「だがっ、それには発動までに時間が」


「それまで暫く時間を稼げばいいんだろっ!?」


 洞窟内を駆け回るルーナが大声を上げる。


盾技じゅんぎっ!」


 包囲網の中心で立ち止まったルーナは楯を地面に突き刺し、己のマナを楯に流し込み始める。


 途端、ルーナの楯は淡黄蘗うすきはだ色から淡青色へと変化し、続けて粒子状の物質へと分解され、空中を舞い魔物達の元へ向かう。


 そして。


「” הֲגָנָהハガナאֵינְסוֹףエインソ”! ―無限の加護よー」


 ルーナが叫んだと同時、空中を浮遊していた淡青色の粒子は無数の楯と姿を変え、魔物達の上から雨あられに降り落ちる。


「グギャアアアアアアッ!?」


 身動きを奪われた魔物達が、一斉に混乱すれば。


「お前らっ! 今だっ!」


 ルーナの合図にローミッドとペーラは、お互いの身体の正面を向き合わせる形で抜剣の構えを取る。


「ケセフ部隊長っ! 感謝するっ! ペーラ、いくぞっ!!」


「はいっ!」


 二人も己が剣にマナを込め始める。


「”我が体内に宿りし生命の根源たるマナよ”」


「”我が器より外界へ脈々と流れ、万物を断ち切らんとする此の剣へと向かえ”」


 ローミッドとペーラが交互に詠唱を行う。


 同時、二人の剣からは神々しい光が放たれる。


「”神は言った。自らの形に人を創造し、人もまた神の形に創造されたと”」


「”ならば今一度、我ら人の姿にて神の御業を繰り出さんと”」


 地面からは二人の足元を囲うよう激しく風が吹き荒れる。


「「”我が剣よ、空を断ち希望へと導く斬撃となれ”!」」


「フェニクスっ! 今です!」


「(承った)」


 オーロの合図に、洞窟内を舞っていたフェニクスは急降下しローミッドとペーラの元へ向かう。


 そして、紅蓮の炎が螺旋状に二人の剣にまとわりついた時。


「「剣技っ! ” את כלエトクォ―ルלַהֲרוֹגラハオーグ ”!!―斬撃よ、空を断ち切れ-」」



 二人による、渾身の一撃が放たれた。



 ドンッ! という破砕音が洞窟内を駆け抜けたと同時、二つの剣から衝撃波と共に巨大な斬撃が現れて。


 紅蓮の炎を纏った二対の斬撃は互いにねじれ合い、ガリガリと岩肌を削りながら魔物達へと迫る。


「グォォォォォォォオオオッ!!!」


 そして、螺旋を描く二つの斬撃は次々と魔物達を焼き切り。


「………………」


 遂には、全てを消し飛ばしたのだった。


「はぁ……はぁ……」


 洞窟内には静けさが戻り、四人の息遣いだけが聴こえてくる。


「上手く……いったか……」


「みたい……ですね」


 先ほどの一撃の反動により、ローミッドの隣でペーラがへたり込む。


「つーかお前ら……あたしまで狙ってただろ……」


 ルーナも技を使った疲労により、その場で片膝をつく。


「はぁ……はぁ……。だが、こうして無事に避けただろう?」


「……まぁな」


 ルーナはローミッドの言葉を聞くと、俯きながらもフッと少し笑い、ゆっくりと立ち上がる。


「そんじゃ、少し休んだら、ちゃっちゃと次へ「危ないっ!」 っ!?」


 突然、オーロが右から横っ飛びにルーナの胴を抱き、地面へ押し倒す。


「てめぇ! いきなりなにすんだ……なっ!」


 倒れ際、ルーナが覆い被さるオーロの後ろを見ると。


 そこには獣の鉤爪の形をした影が地面から伸びていた。


 オーロの右頬に薄っすらと切り傷が浮かぶ。


「そんなバカなっ!?」


 向こう側からはペーラの叫ぶ声が。


 ルーナは洞窟の先を見ようと顔を左に向けると。


「おいおい……。何かの冗談だろ……」


 戦慄が走った。


 先ほど全て焼き払ったはずの魔物達が再びその姿を現し、四人の方へ近づいていたのだ。


「あまりにも……早すぎる……」


 予想外の事態にローミッドは言葉を失う。


「そんな……っ、このままじゃ……!」


 ルーナの上に覆い被さっていたオーロはすぐさま起き上がり戦闘態勢を取ろうとするが、目の前の光景に足がすくむ。


 そんな彼女の心の内は露知らず。


 冥国の亡霊達はその命を刈ろうと寄ってくる。


「ォォォォォ…………」


 魔物の声が絶望を乗せ、洞窟内を反響する。


 またしてもあの攻防を繰り返すのか。


 果たして次で終わるのか。


 そんな確証はどこにもない。


 もし、次も。


 次もダメなら、と。


 そんな悪夢が四人の頭の中を蝕んでいく。



 だが。



「--っ!?」


 その時だった。


「な、なんだ……?」


 今、この時まで迫っていた魔物達の動きが突如として止まる。


「…………?」


 続けて魔物達が後ろを振り返った。 次の瞬間。


「グァァァァァァアッ!!」


「「「--っ!?」」」


 洞窟の奥から魔物の悲痛な叫びが。


 それは、一体だけではなかった。


 二体、三体と増え、その叫び声も徐々に大きくなっていく。


「な、なにが起きている……」


 ローミッド達は目の前で起きていることに困惑する。


 そして。


「何か、何かが……。近付いてくる……」


 オーロの金色の眼がその姿を捉えた。



* * *


 奴らが再び湧いてきた。


 俺を殺そうと、命を奪おうとやってきた。



 けど、何物も俺を殺すことはできない。



 鬱陶しい。


 殺せぬのなら、静けさだけは。



 あぁ。


 頼むから。



 誰か、誰か。



 俺を殺してくれ。



* * *



「なんだ……?」


 目の前の事態にローミッド達は息を呑む。



 ”何か”がいる。



 それは洞窟の奥から、魔物達を蹂躙しながらゆっくりと。近づいてくる。


 魔物の数が減っていく。

 一体ずつ、一体ずつ。確実にその命が刈られていく。


 そして、最後の一体が消えた時。


 四人の前に現れたのは。


「…………殺してくれ」




 白髪で藍色の眼をした、一人の少年だった。


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