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8.白銀の世界


 オーロの召喚獣であるリヴァイアの力によって再び前へ進めるようになった四人は、引き続き目的地を目指し森の中を探索していた。


「リヴァイア、大丈夫?」


 オーロは自分達を守る膜に適宜マナを補充しながらリヴァイアの状態を確認する。


「(ええ、大丈夫よ。それよりも……)」


「うん……。分かってる」


 リヴァイアの言葉に、オーロの表情が険しくなる。



 リヴァイアを召喚してから小一時間ほど。

 魔族やエセクと遭遇することなくここまで順調に進んでいたのだが、先程からオーロだけが妙な違和感に襲われていた。


「何だろう……この感じ……」


 オーロは他の三人の様子を見るが、みな特に変わった様子はなく、周囲を警戒しながら歩いていた。


 膜の隅々を見ても異変は無く、膜の外に立ち込める瘴気はオーロ達がすすむごとに押し返されている。


「瘴気とは違う……。でも何……? この圧迫感……」


 目に見える範囲での問題は何もない。

 しかし、オーロの中に纏わりつく違和感は森を進むごとに大きくなっていく。


 何かあってはマズいと思ったオーロは、一度立ち止まって状況を確認しようと、前を行くローミッドに声を掛けようとした、その時。


「全員、物陰に隠れろ」


「「「--っ!」」」


 突如、ローミッドが三人に向け静かに指示を出す。


 ローミッドの声に、ペーラ、オーロ、ルーナの三人は急いで近くの木々に隠れる。


 そして、ローミッドが見つめる先には。


「着いたぞ……。あれだ」


 森の側で不自然に広がる荒野があった。


「あれか……?」


 ルーナも隠れながら荒野を覗く。


「確かにこんな森の側にだだっ広い荒野があるのは変だな……。それに」


「あぁ。魔導具が記録していた光景と同じだ」


 ルーナの言葉にペーラも続けて話す。


 森の中を探索していた四人の前に突如として現れた荒野。そこでは今もなお、魔物とエセク達が徘徊してたが、軍会議の際に確認した通り、見えない何かに阻まれているのか、一定の位置から荒野の中心に向かって入ろうとするものは居なかった。


「何故、荒野の外側だけを永遠と徘徊しているのでしょうか」


「分からない……。特に目で確認できるものはないが……」


 ペーラとローミッドは共に荒野の隅々を観察するが、原因となりそうな物は見当たらない。


「ここだけ瘴気による汚染がないのもおかしい。森の中は相当汚染が進んでいるってのによ」


 ルーナも森の中と荒野を交互に見比べるが、目の前で起こっている事に訳が分からず首を傾げる。


「オーロ部隊長は何か……。オーロ部隊長?」


 皆が様々な意見を交わす中、ローミッドはオーロにも気づいた事は無いか尋ねようと後ろを振り向いた、が。


「何……これ…………?」


 振り向いた先にいたオーロは、目を見開き、酷く驚いた表情をしていた。


「おい、どうした」


 ルーナもオーロの異変に気付き声を掛けるが、それでもオーロは目の前の荒野に見入ってしまい、ルーナの声に反応することは無かった。


 オーロ以外の三人が荒野を見ていた中、金色の眼だけがずっと視えていたもの。 それは。


「(さっきから感じていた違和感の正体はこれだったんだ……)」


 おびただしい数のが空中を舞う世界だった。


 荒野の中心にかけ、円筒状に上空へと広がり続ける白銀の粒子。一見すれば巨大なスノードームのような神秘的な光景だが、そこから来る圧迫感は、見た者に対し畏怖の念を抱かせるほどの異常さがあった。


「おい、オーロ!」


「--っ!」


 再びルーナが声を掛けると、ようやくオーロは自身が呼ばれている事にハッと気付き、慌てて三人の顔を見る。


「大丈夫か?」


 ペーラも心配そうにオーロの様子を窺う。


「い、いえ……。大丈夫です……」


 オーロは自身が冷静さを失っていたことに気付き、少し落ち着こうと咄嗟に首飾りを握ろうとする。


「もしかして、何か”見えた”のですか?」


 先ほどから話しづらそうにするオーロに対し、ローミッドが気遣う。


「……実は」


 オーロは自身の目の前に広がる白銀の世界の事を皆に話そうと口を開いた。


 その時だった。



 ――――助けて……



「っ!! 誰っ!?」


 オーロは思わず後ろを振り返る。


「っ!? どうかしましたか!?」


 突然の事にローミッド達は驚けば。


「い、今……。声が……」


 オーロは、今し方聴こえた声を頼りに周りを見渡すが、そこには誰もおらず、どこもかしこも木々のみが風によって怪しく揺らめいていた。


「声だと?」


 オーロの話に、ルーナが怪訝な面持ちで訊き返し。


「は、はい……。今確かに”女性”のような声が……」


 そうして、気味が悪かったのか、オーロは少し怯えた表情を見せる。


「隊長、もしかして……」


「あぁ……」


 ペーラが話し掛けるとローミッドは頷き、オーロの元へ歩み寄る。


「オーロ部隊長、声はどの辺りから聴こえてきましたか?」


「確か……。あの辺りから……」


 オーロは森の中のある方向を一点に指差す。


「もしかしたら連絡が途絶えた密偵の声かもしれない」


 ローミッドの表情がここ一段と厳しいものになる。


「オーロ部隊長、大体でも良いので案内して頂けますか?」


「……分かりました」


 オーロは身構えながらも、ローミッドの頼みに対し小さく頷く。


「では皆、ここからは厳戒態勢で臨むぞ」


「「「了解」」」


 四人は荒野を背にし、お互いの身を寄せ合い、失踪した密偵を探す為、オーロを先頭に薄暗い森の中を歩いて行く。



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