辺り一面、真っ暗な闇。
それは、ゆっくりと覆いかぶさるような。
心を蝕むような、深い、深い闇。
何度声を上げても、呼び掛けても。
決して誰も、気付いてはくれない。
どうか、お願いします。
誰か……誰か…………。
彼を、助けて。
* * *
三人称視点
王都を出発してから六日。
ローミッド、ペーラ、ルーナ、オーロの四人は、報告に挙がっていたディニオ村跡地付近まで来ていた。
魔族、エセクらと接敵しないよう、密偵により既に割り出されていたルートを馬車で移動し、途中で下車。その後は野宿を重ねながら徒歩で目的地まで向かっていた。
「もう間もなくか」
「はい。地図の通りであれば、恐らくこの先に」
敵に見つからないよう慎重に進む中、ローミッドとペーラが先導し、荒野を探していく。
「遠すぎんだろ……。てか、うちらがこうして王都を離れている間に敵が攻めてきたらどうするんだよ」
身に着けた黒のフードに暑がるしぐさを見せながら、ルーナが怠そうに文句を言う。
「その時は恐らく通信用の魔道具に連絡が来るはずです。その後、ローミッドさんに渡された転移魔道具ですぐに帰還する手筈になるかと……」
オーロは目の前を進むローミッドを
「ちっ。こうも後手後手な感じが嫌なんだよ」
オーロの話を聞いたルーナは、誰にも聞こえないようボソッと呟き、フードを被り直す。
「--っ! 全員止まれ!」
その時、何かに気付いたのか、ローミッドが三人に制止の合図を掛ける。
「隊長?」
「みろ」
ローミッドが指差す方向。 そこには。
「--っ!! 瘴気っ……!」
辺り一面、四人の行く手を阻むように濃い紫色の煙が立ち込めていた。
「そんなっ……! 事前の報告ではこの先に瘴気はなかったはず……!」
目の前の光景にペーラが焦るような声を上げる。
「おそらく時間が経ち、徐々に汚染が広がったのだろう」
ローミッドは苦い顔をする。
「どうする、ここまで来て引き返すわけにもいかないだろ」
ルーナも後ろからローミッドに向け声を掛ける。 すると。
「ここは私が」
突然、オーロが三人の前に立つ。
「”
唱えたと同時、オーロの胸から青白い光が発せられる。 そして。
「あら、オーロちゃん。お呼び?
光が収まったと同時、青い鱗で出来た衣を纏った女型の竜人が四人の前に現れた。
「リヴァイア、突然呼び出してごめんね」
オーロは目の前の竜人に笑みを見せる。
「いいのよ、それで用件は?」
「私達を瘴気から守ってほしいの。私はリヴァイアが傷つかないよう、常にマナを送り続けているから」
「分かったわ、それじゃあ」
リヴァイアは承諾すると、円を描くように宙を舞い、四人の真上に浮かぶ。
次の瞬間。
「”
「「「っ!」」」
オーロの合図と共にリヴァイアの姿は水のような物質に
「これは……」
目の前に広がる半透明の青い膜にペーラが驚く。
「リヴァイアが持つ浄化の力で皆さんを瘴気から守ってくれます」
オーロが三人の方を振り向き答える。
「そして……。 リヴァイア」
オーロはリヴァイアの名を呼ぶと、自身の両手を結界に向け、生成したマナを送り始める。更に、送られたマナは膜と同化し、膜の色を徐々に濃くしていく。
「(ありがとう)」
リヴァイアの声がオーロの頭の中に響く。
「いいえ、これでリヴァイアも大丈夫なはず」
オーロはリヴァイアの声に応える。
「すごいな……」
一連の様子を見ていたローミッドが感嘆の声を上げる。
「前から気になってたんだが、お前のそれ、マナを作り続けても身体の方は大丈夫なのか?」
ルーナは、先ほどからマナを出し続けているオーロの掌を指差しながら尋ねる。
「はい。これまでこの力を使って倒れた事は今までありませんでしたので、恐らく大丈夫かと……。 ただ、私もこの力については物心ついた時から既に備わっていたものなので、あまりよく分かっていないのです」
「ふーん、そんなものなのか」
苦笑いしながら話すオーロに、ルーナは自身の顎に手を当てながら返事をする。
「では、ローミッドさん。先へ行きましょう」
「分かった。助かる」
そして、オーロの掛け声により、四人は再び森の中へと進んでいった。