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19.急転

空宙視点






 地形調査を始めてから数十日。




 ギルド長から受け取った地形図で見てもほとんどの場所が調査済みとなっていた。


 本道は勿論、間道も一通りは調査が終わり、あとは数えるほどの獣道を調査するだけ。




「真淵さん、今日もよろしくお願いします」




 今日も朝から俺はギルドの待合所で真淵さん達と合流し、残りの部分を調査する為、森へと向かう。




「予測だと、あと三日以内には魔族の侵攻があるんですよね」




 俺は目的地へ向かう最中、真淵さんに侵攻の事について尋ねた。




「ええ。ほとんどは王都や各都市へ魔物達が侵攻すると言われてますので、この村近辺はあまり影響が無い話ではありますがね」




「(王都、か……)」




 俺は咄嗟に四将達の顔を思い浮かべる。




「(きっと彼らは王都を中心に配置されるのだろう……)」




 転送する直前でも全く足並みが揃わなかったが、無事に守れるだろうか。




「いやぁ、でも僕らはここに配置されて良かったですね、激戦地だとやる事多くて堪ったもんじゃないですよ」




 隣で須藤さんが後頭部に両腕を組みながら言葉を漏らす。




「須藤、現地の方を前にしてそのような事を言うのは好ましくないですよ。ですが、確かにレグノ王国軍と合同編成で戦場を共にしてはならない決まりがある以上、私達はまだ気が楽ではありますね」




 真淵さんは叱責するも、須藤の言うことも理解できるといった様子だった。




 そして俺達は他愛もない会話を続けながら暫く森の本道を歩き、そこから間道へ、更に奥深くの獣道を進んでいった。




 すると。




「ん? あれは……」




 獣道を進んでいった先、俺は少し前の方で黒い霧のようなものが立ち込めているのを発見する。




「っ!」




 そう、瘴気だった。




「皆さん!」




 俺は急いで服の袖で鼻と口を覆い、真淵さん達に向かって大声で叫ぶ。




「この先に瘴気があります! これ以上は危険ですので引き返しましょう!」




 だが。




「あぁ、大丈夫ですよ」




 真淵さんが笑顔でこちらを向く。




「我々はこの特殊な戦闘服を着ているので、あれの影響を受けないのです。そうでした、あなた方にとっては害があるのでしたね。でしたら、そこで暫くお待ちください。この先は我々だけで参ります」




 そう言うと真淵さん達はさも平気そうに先へ先へと進んでいく。




「……え?」




 エレマ体が瘴気の影響を受けない……?


 そんなことは初めて聞いた。




 あり得るのか?




 以前アーシャさんから、瘴気はマナを侵食するものだと教わっていた。


 つまり、マナと電子の融合によって形成されているエレマ体も多少は影響を受けるはずだが……?




「(俺が居なくなったこの期間で新しいエレマ体が開発されたのか?)」




 目の前の瘴気を物ともせず進んでいく真淵さん達の姿を見ては、やはり不可思議な光景に思えてしまう……しかし、彼らが大丈夫と言った以上止める訳にもいかず、俺はその場から少し離れた所で待機することにした。










「お待たせしました」




 暫くすると、真淵さん達は奥の方から戻ってきた。


 確かに外から見た限りだと瘴気の影響を受けた様子は見られなかった。




「すみません。ありがとうございます」




 俺は一先ず彼らにお礼を言う。




「いえいえ、では今日はこれにて調査を終了としましょう」




 真淵さんがそう言うと俺達は元来た道を引き返し、村へ戻る事にした。 その時。




「ソラさん」




 唐突に真淵さんに声を掛けられる。




「どうしましたか?」




 俺は真淵さんの方を振り向く。




「実は小隊長からソラさんにお願いごとが一つありまして」


「小隊長さんから?」




 俺は怪しむような顔で真淵さんを見た。




「はい。後ほど村へ帰ってから小隊長の下で詳細をお伝えしますので、同行願えないかと」




 真淵さんは俺の耳元で小声で話す。




 小隊長が俺に何の用だろう?


 地形調査についての追加任務か何かだろうか。




「……分かりました」




 話だけでも聞いてみようと思い、俺は真淵さんに承諾の意を伝える。




「ありがとうございます」




 真淵さんは礼を言うと、村に向かって帰路を目指し始める。俺もその後に付いていく形でその場を後にした。




* * *




三人称視点






-ディニオ村 ギルド前-




 村に帰ってきた空宙達は一度ギルド長の下を尋ね、地形図を返却し解散。


 その後、空宙は真淵と共に小隊長がいる仮設テントへ向かった。




「小隊長、失礼します」




 仮設テントの前で真淵が小隊長へと声を掛ける。




「どうぞ」




 すぐさまテントの中から返事が聞こえてきて。




「失礼します。小隊長、ソラさんを連れてきました」


「ありがとうございます。ソラさん、どうぞこちらに」




 空宙は案内されテントの中に入る。


 テントの中は小隊長だけで、何やら色々な資料を広げ作業をしていた様子だった。




「失礼します。真淵さんから、小隊長が僕に用があると伺いまして」


「ええ、貴方に一つ相談がありまして」




 小隊長は改まって空宙に向かい合う形で椅子に座り直す。




「近々、魔族の侵攻が始める事は知ってますね?」


「はい。あと三日以内にはと伺ってます」


「そうです。本来この村の皆様には、安全の為に今夜あたりから村の外へ出ないようにしてもらう予定です。ですが」




 小隊長の目が僅かに鋭くなる。




「貴方には私達と侵攻当日も同行して頂きたいのです」


「っ!」




 これには空宙も驚いた。




 本来エレマ隊は魔物の討伐及び現地民の保護をすることが役割であり、戦闘が発生する可能性のある作戦において現地の非戦闘員を同行させることは御法度だった。




「ですが、危険なのでは……?」


「大丈夫です」




 小隊長は椅子から立ち上がり、笑顔で答える。




「何かあった際は私達が全力でお守りします」




 その時、空宙は小隊長から妙な圧力を感じた。




「でもなぜ僕が?」




 まだ小隊長の事が信用できない空宙は、そもそも何故自分が行く必要があるのかを尋ねてみた。




「侵攻当日、我々はこの村の防衛に当たります。ですが、万が一魔物達の脅威が抑えきれなくなった場合、村の人達を外に避難させる必要があります。その時、これまで地形調査を行ったあの森を避難道として利用します。開けた場所だと狙われる可能性がありますからね。その為の調査でもあったのです」




 空宙の問いに対し、小隊長はこれまでの調査をまとめた一枚の地図を取り出し説明する。地図には避難経路とみられる線が赤字で引かれていた。




「我々だけでも誘導する事は可能ですが、有事の場合どのようなトラブルがあるか分かりません。誘導の為の人員が不足するのは避けたい為、村側からも協力を願えないかと考え……ソラさん。森を行き来し慣れている貴方に誘導役を頼みたいのです。お願いできますか?」


「なるほど……」




(確かにこの村にいるエレマ隊が必ず守り切ってくれる保証はない。だが村人を見殺す訳にはいかない為、こうして避難経路まで確保しているわけか……)




 空宙は小隊長の話を聞くと暫く考え込む。


 そして。




「……分かりました。お受けします」


「ありがとうございます。作戦については明日から行います。当日は朝一に村の門前にお越しください。そこで真淵達と合流次第、森近辺での待機をお願いします」




 空宙はこれまでお世話になった村の人達の役に立てるならと、小隊長の依頼を受ける事にした。




 その後、小隊長から明日からの内容を伝えられると、空宙はその場を離れ、アーシャの家に戻るのだった。

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