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17.接触

空宙視点



「えっ、俺ですか?」


 エレマ隊員がディニオ村に来た翌日、俺はギルド長室に来ていた。


 いつもの日課の為ギルドへ向かい、依頼受注の手続きをしようと待合所で並んでいたところ、職員からギルド長室へ来るよう言われた。


 何事かと思えば、ダルク村長とギルド長から魔族侵攻に備える為の地形調査に同行してほしいという話を聞かされたのだ。


「そうだ。君はこの村に来て毎日村周辺の森へ行って薬草を採取しているだろう?今この村は人手不足で新たに同行人を確保するのが厳しいから、是非君に兼任して貰えないかと思ってね」


 話が始まると、ギルド長は機嫌良く声を掛けてきて。


「君にはいつも薬草の件で助かってる。彼らの調査に同行してくれたら別途報酬も追加しようと思っているのだが……引き受けてはくれないか」


 ダルク村長もどうか行ってはくれないかと俺に頼み込む。



 ――エレマ隊



 俺が地球に帰る為の手掛かりになるかもしれない、この世界で唯一の接点。


 昨日からずっと、彼らと接触するにはどうすれば良いかと考えていた矢先の好機。

 この提案は俺にとっても一筋の光明だった。


「ぜひ、受けさせてください!」


 俺は迷わず提案に乗る。


「おおっ! 引き受けてくれるか! 感謝する」


 ギルド長は両手で俺の手を掴み、頭を下げる。


「では早速ではあるが、この後彼らとギルドの待合所で合流してもらい、薬草採取に向かいながら案内を始めてくれ」


「分かりました」


 俺はギルド長から地形図を預かると、ギルド長室を後にした。



* * *


三人称視点



「ふぅ、上手く話がいきましたな」


 空宙が部屋から出てから暫くすると、ギルド長は一呼吸置き、椅子へともたれ掛かる。


「監視の者はどうなってる」


「瘴気の汚染がない所までは少年を見張っておくよう伝えてあります」


「そうか」


 ダルクはギルド長室の窓から外の様子を伺う。


 外ではエレマ隊員達が魔族侵攻に向けた仮設の駐屯基地を設営するため奔走していた。


「奴が瘴気によって病を患った時は遠慮なくこの村から追い出せ」


「ええ、そのつもりで」


 ダルクはそう言うと窓際から離れ、用があると言い部屋から出ていくのであった。




―ディニオ村 ギルド待合所-



 時刻は午前10時を回った頃。


 空宙はギルド長室を出た後、預かった地形図を見ながら合流予定のエレマ隊員達を待っていた。


「こう図で見ると、結構広い森なんだな」


 普段は脇道や獣道の方までは薬草を採取に行かない為、こうして地形図を見ることで改めて広い森だと感じさせらていた。


「ん? この赤い×の所、何だろう」


 暫く眺めていると、村からは割と近く、北西に位置する辺りに小さく印が書かれた箇所を見つける。その周辺は空宙もよく薬草を探しに行く場所でもあったのでふと気になったのだ。


「(わざわざ目印を付けるほど大したものがあるような場所ではないんだけどな……)」


 その時。


「ここが例の案内人との待ち合わせ場所かな」


「--っ!」


 ギルドの入り口から声が聞こえた瞬間、空宙は後ろを振り返る。


 そこには三人のエレマ隊員がギルドの中に入っていく姿があった。


「あの人達かな」


 空宙は地形図を仕舞うとその場から立ち上がり、エレマ隊員達の下へ急いで向かう。


「すみません、もしかして地形調査の方々ですか?」


 空宙は彼らに声を掛ける。


「え? あぁ、はい。ということは貴方が例の?」


「はい、この度、案内人を務めさせて頂きます、空宙と言います」


 空宙は隊員達に自己紹介を行うと、隊員達も続けて挨拶をしていく。


「ソラさんですか、初めまして。私は今回の地形調査の担当責任者となります、真淵まぶちと言います。宜しくお願いします」


 真淵と名乗る男は空宙に向けて右手を差し出し、握手を済ませる。


「そしてこちらの二名がアシスタントを務めます、須藤すどう伊禮いれいです」


「須藤です」


「伊禮です」


 二人は真淵に紹介されると腕を後ろに組みながら一歩前へ進み、空宙に向かって名乗る。


「須藤さん、伊禮さん、よろしくお願いします。真淵さん、今日から早速調査を行っていくと伺いましたが、どの辺りから向かいましょうか」


 空宙は二人にも挨拶を済ませると、先ほど仕舞った地形図を真淵の前で広げ、調査へ向かう場所を確認する。


「そうですね、今日は初日でもありますので、まずは地形図の端まで本道のみを真っすぐ進み、引き返すとしましょう。ある程度把握してきたら、後日より間道や進め獣道を進める限り進んでいくということで」


「分かりました」


 空宙は真淵の説明を受けると再び地形図を仕舞い、床に置いていた荷物を持つとギルドの入り口の扉を開く。


「では、参りましょう」


 三人の隊員達は空宙に付いていく形でその場を後にし、森へと向かうのであった。



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