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16.談合

三人称視点






-ディニオ村 ギルド内ギルド長室-




「魔族による侵攻が一か月後に来るだと……!」




 村にやってきたエレマ隊員により魔族の侵攻が近々あることを知らされたダルクは驚愕する。




 ギルド長室にはダルク、ギルド長、そして道端でダルクと話をしていたエレマ隊員の三人が会合を行っていた。




「ええ。それにより我々は当初、侵攻当日は王都のみの防衛を命受けてましたが、これを本部は急遽作戦を変更され、王都のみならず、各都市、村への防衛を我々エレマ隊が受け持つよう発令いたしました」




 エレマ隊員は両手を組み、両肘を目の前のテーブルの上に置きながら静かな様子で話す。




「だがあまりにも性急すぎるのではないか……! 第一、侵攻の件などこれまで王都から何の連絡も無かったぞ!」




 ギルド長は王都からの連絡がないことも含め、今回の急な訪れにより村が混乱させられた事に酷く怒りを感じていた。




「その件ついては我々と王国では指示系統が違います為、私も分かりかねます。もしかすると王都からも同じタイミングでこの村宛に一報を送っていたが、我々の方が早く着いてしまった、なんて事も」




 ギルド長の指摘に対し、エレマ隊員は我関せずといった態度を示す。




「侵攻まであと一か月と言ったな……。我々はどうしたらいい。明日からこの村を離れろとでも言うのか?」




 ダルクは目の前のエレマ隊員を睨みながら怒気を含んだ声で問い掛ける。




「いえ、その必要はありません。今回の侵攻に関しては、既にどの辺りに攻めてくるのかが凡そ判明してまして、この村はその範囲外となっております。ただし、他の戦場から逃げてきた魔物達がこの村にやってくる可能性もある為、念のため我々が村に待機し、防衛を行うことで皆さんの身の安全をお守りします」




 淡々と説明するエレマ隊員に対し、二人はそれでも納得がいかないといった顔を向ける。




「つまり、この方々が当初の防衛体制を変え、こうしてこの場に訪れていなければ、我々は何も知らされず甚大な被害に遭う可能性もあった、というわけですか……」


「クソっ、王都の奴らめ、一体何を考えている……!」




 ダルクはテーブルに拳を叩きつける。




「まぁ、落ち着いてください。ところで村長。この村を含め、近辺の地形が把握できる資料等はございますか?」




 エレマ隊員はダルクに対し地形図のようなものがないかを尋ねる。




「資料? それならギルド長が持っている地形図が一つあるが、一体何に使うというのだ」




 ダルクは怪訝な顔をしながらエレマ隊員に訊き返す。




「実は侵攻当日までの間、この近辺の地形を詳しく調査させて頂きたく。有事の際には我々が魔物を撃退いたしますので、作戦を練る為に事前に把握しておきたいのです。またその際、この村の者で地形に詳しい方を案内人として同行願えますでしょうか」


「……なるほど」




 軍事行動において事前の地形把握は欠かせないものであり、緊急の際、撤退までの経路を確保しやすくなるため被害も最小限に抑える事ができる。




「少し待て……。ギルド長」


「はい」




 ダルクはギルド長へ地形図を持ってくるよう指示をする。




 ギルド長は立ち上がると自身のデスクへ向かい、引き出しから一枚の紙を取り出すとテーブルに戻り、エレマ隊員の前でそれを広げた。




「これが村近辺の地形図だ」


「ご協力ありがとうございます」




 エレマ隊員は二人に礼を言うと、まじまじと地形図を見る。




「どの辺りまで調査するおつもりで?」




 地形図を見続けるエレマ隊員にギルド長が尋ねる。




「しばらくお待ちを……。大体この辺りまでですね」


「「っ!!」」




 エレマ隊員が指差したのは村から一番近い森に入って南東へ奥深く進んだ場所だった。それを見た二人は驚きの声を上げる。




「いけません! そこはここら一帯でも一番瘴気によって汚染されている場所です!健康な人間でも短時間浴びてしまえば病を患い、最悪死に至るほどのものですよっ!」




 ギルド長はエレマ隊員に対しその場所の調査を止めるよう忠告する。




「……なるほど。ただ、安心してください。我々エレマ隊が着用しているエレマ体は瘴気の影響を受けない特殊な仕様となっておりますのでそういった実害は問題ないでしょう。しかし……」


「同行人に関しては行かせるわけにはいかないな」




 ダルクが地図を見ながら一段と厳しい声で話す。




 それもそう。このディニオ村は過去の魔族侵攻の際にばら撒かれた瘴気の影響を受け、ここ数年で病を患い病床生活を送る村人が増えてしまい、診療所もひっ迫している状況。働き手も不足している中、侵攻に備える為の調査とはいえこれ以上村人を犠牲にするわけにはいかなかった。




「………………」




 ギルド長室に長い沈黙が流れる。




 その時。




「--っ!」




 突如、ギルド長がハッとした顔を浮かべ、ダルクの方を見る。




「ギルド長、どうかされましたか?」




 ――いるじゃないか




「ダルク村長、彼です」




――村人でもなければ人間ですらどうか分からない奴が




「っ! ……そうか」




 ダルクは微かに口角を上げる。






「アーシャの家に居座るあの少年です」





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