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12.偽り



「すっかり遅くなっちゃったね」


「ははは……」




 ギルドを後にした二人はアーシャの家を目指し、誰もいない静かな夜道を歩いていた。




 空宙は歩きながら村の様子を観察する。




「(なんだか、高校に通っていた頃までお世話になった親戚が住んでいる村と似てるな……)」




 この村は王都からかなり離れた位置にあり、馬車を飛ばしたとしても往路だけで一週間以上はかかるほど田舎であることは、ここまで歩く中でのアーシャとの会話の際に知らされていた。


 無論、空宙が育ってきた世界のような外灯やインフラ整備はなく、夜道を照らす光は全て松明によるものだった。




「王都だと魔道具があるから夜でもここより全然明るいんだけどね、ほら、着いたよ。ここが私の家だ」




 アーシャが立ち止まった先には2階建てほどの高さのあるレンガ造りの一軒家があった。所々には夏ヅタが生えており、味のある雰囲気を醸し出していた。




「さっ、遠慮せず入りな」


「ありがとうございます」




 空宙は促され、アーシャの家に上がりこむ。




 家に入り少し廊下を歩いた先にはリビングが見え、所々には剣や盾などの装備品や、空宙にとっては見たことない毛皮や象牙が飾られていた。




 どれも綺麗に飾られており、空宙は思わずそのコレクション達に見惚れる。




「すごい……これ、全部アーシャさんが?」




 それらについて空宙は尋ねる。




「いや、これは私の両親が集めたものだよ」




 アーシャは少し苦笑いをしながら答える。




「ご両親の?」


「ああ、生前、私の両親は村でも有名な冒険者だったんだ。珍しい魔物を討伐してはこうして記念に飾ったりしていたんだよ。ただ、流行り病で亡くなってしまってね。今では私一人でここに住んでいるわけさ」


「そうだったんですね」




 アーシャの話を聞き、すごい御両親だったんだなと、空宙が尊敬していると。




「(アーシャさんも今日魔物と戦っている様子から見ても強かったし、昔から鍛えられてきたのかな、体格も………………あれ?)」



 次の瞬間。




「アーシャさん、一つお聞きしてもいいですか?」


「ん? どうした?」




 空宙はあることに気付く。




「この村ってもともと身体が大きい人達が多いのですか?」


「えっ?」




 しかし、空宙の問いにアーシャはキョトンとしてしまう。




「いや? 特段そんな事はないよ? むしろ王都の兵士の方が大きい人で沢山なくらいだからね」


「そう、ですか……」




 今日出会った人達の身長が皆、空宙よりも大きかった。




 ほんの少しの差、というわけではない。


 今目の前にいるアーシャも含め、明らかに空宙より大きかった。




「(…………?)」




「ほら、そんなことよりも。これから夕飯の準備するから、ソラは先に風呂にでも入ってきな、あちこち泥だらけだ」




 けれども、難しい顔をする空宙を気にも留めず、アーシャは台所へと向かっていく。




「あっ……。ありがとうございます」




 頭の中ではどこか引っ掛かるも、空宙はアーシャの言葉に甘え、お風呂場に向かおうとする。




 その時だった。




「あっそうだ。着替えについてなんだけど、生憎”子ども用”の物がなくて……。明日近所の人から借りられるか聞いてみるから、今日だけは私の父さんの服を着て我慢してね」


「……子ども用?」




 空宙はアーシャの言葉に強い違和感を覚える。




「アーシャさん……」




 ――まさか




「ん?」


「今、僕って何歳くらいに見えますか?」




 ――アーシャさん達が元々大きいわけじゃない




「えっ? まぁ……」




 ――俺が




「11歳、くらいかな?」




 ――頭のどこかでは変だと思っていた




「あ、ちょっと!?」




 ――村の前でのやり取りの時も




「はぁ……はぁ……」






――――






 アーシャの言葉を聞き、空宙は急いで風呂場へと向かう。


 風呂場に入るとすぐ目の下に置かれていた桶を見つけ、そこに水を入れる。




「お前……」




 張られた水面には。




「誰だ」








 白髪で藍色の目をした、見知らぬ少年が空宙をじっと見つめていた。



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