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11.迎え


 ダルク達からの取り調べを受け終えた空宙は一先ず村の滞在が認められ、今は村のギルドの受付場で仮の身分証が発行されるのを待っていた。




「何とか村に泊めて貰える事にはなったけど、一体何だったんだ……」




(ここまで連行されてはいきなり尋問所みたいな部屋に入れられ、偉そうな人達に囲まれては色々な光を浴びせられたり……)




「それに、死んでいるのか生きているのかなんて事も言われたし……ほんとに俺の身体、どうなってるんだ……?」




 空宙は身分証が出来るのを待ちながら、今日一日あった事を振り返る。




 転送中にエラーを起こしたのは自身だけなのかどうか。


 他の隊員達は無事にこっちの世界に着いているのかどうか。


 本部が自身の捜索を始めているのかどうか。




「夏奈……」




 このまま元の世界に帰れないのだろうか、と。


 そんな不安が空宙の胸中を襲う。




「カケマ・ソラさん。身分証の用意が出来ましたので、こちらまでお越しください」




 その時、窓口の方から空宙の名前を呼ぶ声が。




「あっ、はい! 今向かいます」




 空宙は急いで立ち上がり、窓口の方へと向かう。


 窓口ではディアンドルに似た衣装を着た女性が待っていた。




「カケマ・ソラさんですね? 初めまして、わたくし、この村のギルド嬢を務めているものになります」




 ギルド嬢は空宙に向かって礼儀正しく挨拶をすると、一枚のカードを渡す。




「こちらが御依頼されてました身分証となります」


「ありがとうございます」




 空宙はギルド嬢から身分証を受け取る。




「こちらの身分証につきまして、本来はこれ一枚で各街、各村を行き来することができますが、今は仮の物となりますので、滞在はこの村のみの有効となります。お気をつけください」


「分かりました」




 ギルド嬢は丁寧に説明を行っていく。




「ただ、この村のギルドのみとはなりますが、明日よりすぐ仕事の依頼を受注する事が出来ますので、ぜひご活用ください」


「仕事、ですか……? どのような種類があるのでしょうか」




 空宙は気になり、ギルド嬢に詳細を尋ねる。




「はい。主に村の周辺にある森林への薬草採取や特定の魔物の討伐などが挙げられます。新人の方やこれまでの実績が少ない方は危険が伴う仕事を受ける事が出来ませんが、それ以外でしたら向こうの掲示板に貼られている依頼書をこちらの窓口まで持ってきて頂けると速やかに手続きを行い、ご案内致します。勿論、御依頼が完了された際には依頼書の内容に記載された報酬をお渡しいたします」




「なるほど……」




 空宙はギルド嬢の話を聞きながら少しずつこの村のことを理解していく。




 ――――――だが。




「ところでソラさん。今日寝泊まりする部屋は既に確保されているのでしょうか」


「あっ……」




 しまった、と。




 村には入れたとはいえ、結局その後はあれやこれやと調べられ拘束されていた空宙には、その日の宿を探す余裕など全くなかったのだ。




「すみません、まだ見つけていなくて……どこかまだ空いている宿などはありますか?」




 慌てて空宙は滞在できる部屋があるかどうか尋ねる。




「なるほど……申し訳ございません。実は当村は現在、病を患った方々の病床を確保する事が難しく、宿の部屋も使わざるを得ない状況でして、どこも空いておらず……」


「そ、そうですか……」




(どうしよう……)




 空宙はその場で頭を抱えてしまう。




「(ダメ元でここのロビーに雑魚寝だけさせてもらえるように頼んでみるか? いや、それだとギルドのお姉さんに迷惑を掛けてしまう……ならいっそ馬小屋か、最悪トイレの個室にでも…………)」




 すると。




「おっ。いたいた」




「っ!」




 その時、背後からは聞き覚えのある声が。


 背後を振り返ってみると、そこにはアーシャ・ウィルドが笑顔で空宙に向かって手を振っていた。




「アーシャさん! どうしてここに」




 思いもよらない人物の訪問に空宙は戸惑う。




「きっと今頃君が困っているところだと思ってね、こうして迎えにきたのさ」


「迎え……?」


「さっきダルクさんと話してきてね。君を私の家で預かる事にしたよ」


「っ!」




 空宙は思わず驚いた。




「い、いいんですかっ!」


「あぁ。ただ、さっきギルドのお姉さんから仕事の依頼についての説明があったと思うけど、明日から早速私が受け持つ仕事の手伝いをやってもらうから、そのつもりでね?」




 アーシャは空宙の右肩に手を置くと、よろしくねと言わんばかりにウインクをする。




「はい! 精一杯お手伝いさせていただきます! ありがとうございます!」




 それは空宙にとって何とも有難い話だった。


 空宙はアーシャに深く礼をする。




「よしっ。それじゃ、いきますか」




 そう言うとアーシャは出口の方へ歩き出す。


 空宙はギルド嬢にお礼を言うと、アーシャに続くようにその場を後にするのだった。

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