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9.面影

アーシャ視点






 いつもの薬草探しだった。




 私はギルドからの依頼で、村はずれの森へ薬草を取りに出かけていた。


 採取は順調に進み、日も頃合いになったからと来た道を戻り村に帰っていた時。




「うわああああ!!」


「っ!?」




 突然、悲鳴が聞こえた。


 私は急いで声がした方へ向かって走った。




「--っ!?」




 悲鳴が上がった場所まで近づくと、そこでは少年が魔物に襲われそうになっていた。


 けど、それよりも。




「……フリン?」




 少年を見た私は思わず驚いた。




 見間違いかと思った。


 だけど気付いた時には既に、彼を助けようと私は駆け出していた。




 少年を襲っていたのは村周辺で生息する魔物の中でも特段凶暴なやつだった。


 このままでは少年が喰い殺されると思い、魔物の注意を少年から逸らすよう、私は魔物に向かって魔法を放った。




「ギャウウッ!」




 魔法は的中し、魔物は後ろに大きく仰け反る形で吹き飛んだ。


 その隙に私は少年に近づくが、少年は腰が抜けたのか立てずにいられない様子だった。




「何してるの!」




 私が大声で叫ぶと少年もこちらに気付く。




「あんた!! 動けるなら今すぐそこから離れなさい!」


「は、はいっ!」




 少年は私の声に反応するように立ち上がり、その場から離れようとする。




 再び私は魔物に向かって魔法を放つが、最初の一撃よりもほとんどダメージは与えられていないようだった。三発目を撃ち込もうとした時。




「--っ!!!!」




 魔物はすぐさま態勢を整えると、私に向かって飛び掛かってきた。




「くっ……!」




 咄嗟に私は腰に下げていた形見の剣を抜き、攻撃に対処しようとするが、圧倒的な対格差によりそのまま地面に押し付けられてしまった。




「お姉さんっ!!」




 少年が叫ぶ。




「私のことはいいから、早くここから逃げなさいっ……!」




 魔物の爪がジリジリと迫ってくる。




「(こんな……ところで……っ!)」




 あの時の事を思い出す。


 また、守れなかった……。




 その時。




「わぁぁぁぁぁぁぁ!」


「っ!?」




 突然、少年がどこからか拾った枝で魔物の右目を突き刺す。




「ギャウウウウ!!」




 右目を突き刺された魔物は断末魔の叫びを上げると、私から飛び退く。


 私はすぐに立ち上がり、少年に礼を言うと痛みに怯む魔物に体を向き直す。




 持っていた短剣を頭上に向かって投げる。




「お願い……これで倒れて……っ!」




 短剣が目の前に来る。




「エアブロウッ!!」




 魔法が当たった短剣は勢いよく魔物の下へ向かい。




「ギャアアアアアッ!!」




 心臓を突き刺し、魔物の命を絶った。




* * *




三人称視点






「本当に、よく似た子だった……」




 アーシャは村のギルドの待合室で今日のことを思い返していると、誰かが扉をノックする音に気付く。




「どうぞ」


「遅くなってすまない。けどな、別にお前が待つ必要もないだろうに」




 入ってきたのはダルクだった。




「構わないわ。元々彼を連れてきたのは私だもの。私にだって事の顛末を聞く責任はあるわ」




 アーシャは小さくため息をつくと、ダルクに向かって本題を切り出す。




「それで、彼のことは?」


「あぁ……」




 ダルクは少し疲れた表情をしていたが、ソファに座ると先ほどまでの事を話し始める。




「結論から言うと、”ほぼ”、白だ」


「”ほぼ”……?」




 ダルクの口から出た言葉にアーシャは怪訝な顔を浮かべる。




「ああ、まずはあの少年が”奴ら”の仲間かどうかを調べる為に高密度のマナを浴びせたんだが、特に異変はなくそのまま少年の胸に吸収されていった」




 アーシャはそれを聞くと安堵の表情を見せる。




「そう、良かったじゃない」


「だが」




 ダルクの顔に影が差す。




「あの少年からはマナの流れが全く見られなかった」

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