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6.二度目

転送事故後

異世界アレット とある草原地帯にて



* * *


空宙視点



 あれからどれほどの時間が経ったのだろうか。


「う……」


 俺は鉛のように重く感じる身体を少しずつ動かしながら起き上がる。


「こ……ここは……?」


 目を覚ますと、そこは見渡す限りの草原が広がっていた。



 ここはどこだ……?


 俺は死んでしまったのか?


「--っ! そうだエレマ体!!」


 その時、俺は転送中に遭った事故を思い出すとすぐに立ち上がり、自分の身体を確認する。


 だが。


「装着……してない……」


 俺の身体が着ていた物はエレマ体などではなく、装着前に着ていた只の私服だった。


「な、なんで……これじゃ連絡どころか……」



 ----



 俺は酷く焦った。


「と、とにかくどこか人の居る所にっ!?」


 俺は慌てて立ち上がり今いる場所から動こうとした時、転がっていた石に思わず足を引っ掛け派手に転ぶ。


「痛っ……」



 ………………え?



「痛い……?」


 痛みを、感じた。

 擦りむいた膝からは、微かにだが血が流れた。


「そ……そんな…………」


 エレマ体ではない生身の身体。


 刹那、俺の脳裏に思い浮かんだものは。



 ――――死。



 その瞬間、恐怖の感情が俺の中で溢れ出してきて――。


「お、落ち着け……まずはここがどこかを」


「グルルルル……」


「--っ!?」


 その時、背後から獣のような声が轟いた。


 俺が慌てて後ろを振り返ると。


「ま、魔物!?」


 そこには、体長が二メートル以上はある狼が涎を垂らしながら、俺に牙を向けていた。


「(基地のデータベースで見たことある奴だ! まずい!! 早くここから逃げな……)」


「グルァァッ!」


 気付いた時にはもう遅く。


 指一本すら動かす間もなく凶刃な爪が目の前に迫っていた。



* * *


三人称視点



-エレマ隊基地本部制御室-



「また……なのか……」


 基地エンジニア達が制御パネルを見つめる中、一際体格の良い男が愕然とした表情で声を漏らす。


「そ、総隊長……」


「今すぐ他の隊員達に異常がないか調べてくれ。この件については”四将”以外には秘匿するよう厳重に注意しろ」


 総隊長と呼ばれる男は険しい表情でエンジニア達に指示を出すと足早にその場から離れる。



 ――



「何故だ……」


 男は自身の部屋に戻るとソファに座り、天井を仰ぎながら深く息を吐く。


「総隊長」


「荒川か……入っていいぞ」


 男はドアのノックと共に馴染みのある声が聞こえてくると、すぐに返事をする。


「失礼いたします」


「状況は」


 部屋に入ってきた女性に、他隊員の状況を尋ねる。


「はい。今のところ、架間隊員以外の隊員のステータスに異常はありません。四将達も全員無事が確認され、本件についても報告済みです」


「そうか……分かった。ご苦労」


 男は荒川からの報告を聞くとソファから立ち上がり、デスクに向かいながら次の指示を出す。


「荒川、今すぐ架間隊員の家族を調べてくれ。近しい者だけでよい。もし居たならばすぐさま職員を派遣し保護に向かわせてくれ、なるべく丁重に」


「承知いたしました」


 荒川は男からの指示を聞くと、すぐさま部屋を出ていき。


「銀のエレマ体。フルタイプ……」


 男は、目の前に広がるモニターをじっと見つめながら、空宙が銀のエレマ体を発現した時の記憶を思い返す。



* * *



井後義紀いごよしとし視点



-エレマ隊本部 総隊長室-



「今、なんと……?」


「ですから、先程適性検査にて銀のエレマ体が発現されたと検査員から報告が上がりました」



 ――――バカな。



 俺は荒川からの報告を聞いた時、自分の耳を疑った。


 エレマ部隊発足以来、二例目となる銀のエレマ体。

 しかし、1例目のあれは人工的に造られたもの。自然適性では絶対に発現するなどありえない。



 今更なぜ……。



「して、総隊長。銀を発現した者ですが、如何いたしましょうか」


「今すぐここに連れてきてほしい。事情を聴かなければならないが、場合によっては彼を特待枠として招集しなければならない」


「承知いたしました」


 荒川は、俺の指示を聞くとすぐさま部屋を出ていった。


 俺は、湧き上がってくる不安と焦燥感を抱きながら、胸に掛けていたペンダントの中の写真を見る。


「…………」


「総隊長」


 しばらく写真を見ていると、再び荒川の声が聞こえてきた。


「入れ」


「失礼いたします」


 荒川は一人の青年を連れ、再び部屋に入ってくる。


「君か」


 青年の見た目はごく普通で、どこにでもいる若者のそれだった。


「はい。架間空宙と言います」


「ご苦労。急に呼び出してしまってすまない。私はここの総隊長を務めている、井後義紀だ」


 俺は自己紹介をし、目の前の青年に右手を差し出す。


「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 彼は少し戸惑いながらも、俺に握手を返す。



 本当に彼が……?



 俺は未だ信じられず目の前の青年を見る。


「あ、あの……先ほど研究員の方から銀がどうのこうのと……」


 青年は緊張しているのか、様子を伺うように俺に問いかけてきた。


「あぁ、そうだったな。荒川、適性検査の結果表はあるか?」


「はい、こちらになります」


 荒川は俺に複数のデータがまとめられた紙を渡す。


「--っ!」


 そこに書かれていたものを見た俺は驚愕した。


 過去の実験データから、全てのマナに対しての適性値が合格ラインを満たしているのは予想していたが、彼が出した値はどれも超えていたのだ。


「まさかこれほどとは……」


「私も初め見た時は驚きました。ですが研究員たちに確認を取ったところ、検査自体に問題はなく、計測装置にも異常は見られなかったと」


 だからと言ってこの数値は異常だった。


 、初めてフルタイプの開発に成功した時でさえもここまででは無かった。


 俺は一度大きく深呼吸し、改めて彼を見る。


「架間君、落ち着いて聞いてくれ」


 俺はゆっくりと話す。


「ガイダンスの際、エレマ体には複数のタイプがあると説明は受けたかい?」


「は、はい。全部で四種類あると聞きました」


「そうだ。エレマ体には剣士、盾士、魔術師、治癒士の四種類が存在する」


「…………」


「だが、君が発現した銀のエレマ体はそのどれにも属さないものだ」


 俺は少し間を空け、部屋の中を歩く。


「君が発現したエレマ体。それは四種類全てのタイプが合わさった型、”フルタイプ型”のエレマ体だ」

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