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3.検査会場

三人称視点



 家を出てから暫くして、空宙は最寄り駅から電車に乗り、エレマ隊本部へと向かって移動を続けていた。

 彼自身、入隊検査自体は午後から控えていたものの、自宅から本部までは距離あったが為、早くから出る必要があったのだが――。


「(駅まで歩いていた時から気になってたけど、この人達も入隊検査に向かう人達なのかな)」


 向かう電車の中。

 空宙は窓際に寄り掛かり周りを見渡すと、自身と似たような荷物を持つ者を何名か見かけていた。


「(おじさんみたいに他国の戦争に行くようなものだって考える人たちもいるけど、意外と入隊希望する人たちも多いんだな)」


 [エネルギー再生計画]については日々ワイドショーやネット記事でも批判的な意見が飛び交っていた為、実際に外の反応をこうして直で見た空宙は、少しばかり意外に思っていた。




-エレマ隊本部・検査会場前-



「うわっ……」


 検査会場前には既に多くの人達が列を作って並んでいた。


 男女はもちろん、若い人から少し中年くらいの見た目の人まで、様々な人がいくつもの仮設プレハブが建つこの場所に集っていた。


「こんなにいるのか……」


 空宙は目の前の光景に驚きつつ、事前に告知されていた自身の検査番号が掲げられているプレハブを探す為、ごった返す人波の中をかきながら、少しずつ奥へと進んでいき――。


「(Dの0037……Dの0037と……)」


 郵送されたハガキに印字された検査番号を見ながら更に奥へ進んでいくと、程なくして自身の番号が割り当てられたプレハブを見つけ出す。


「あった、ここか」


 そこでも既に多くの人が列を作り、前方では隊の制服を着た係の人が一人ずつ案内する様子が見られた。


「お、君もこの列かな」


 最後尾に並ぼうとした時、空宙は見た目からして自身よりも少しばかり年上の女性と鉢合わせる。


「えっ? あ、はい。お姉さんもこの列に?」


 空宙は女性に番を譲ろうとして、咄嗟に少し後ろに下がるが。


「いいっていいって、君が先に並びな。ところで君、随分若く見えるけど、学生さんかい?」


 譲ろうとする空宙を制止し、女性は覗き込むように空宙の顔を見る。


「いえっ、この前までは学生でしたが、この度調査隊員に入隊希望する為、辞めてきました」


「そうかー。お姉さんもね、この前までは普通の会社員だったんだけど、仕事してても楽しくなかったから辞めてここに応募してきちゃった」


 女性はそう言うと、その場であっけらかんと笑って。


「ははは……」


 空宙はたじろぎながらも笑い返すと、改まって列に並び順番が来るのを待つのだった。



「「「キャー!」」」



 暫くすると、どこからか複数の女性の歓声が。


 空宙は声がする方を見ると、そこにはスタイルの良い男が沢山の女性に囲まれ、サインやら握手やらを求められていた。


「(誰だろうあの人、凄く場違いな雰囲気しているけど……)」


「ああ、彼か、調査隊本部お抱えの広告塔モデルというのは」


 空宙が怪訝そうに見ていると、一緒に並んでいたお姉さんが様子を察し、話し始める。


「政府が調査隊員の応募人数が多く集まるように調査隊用のプロモーション役として採用したらしい。軍もそのまま彼をスカウトして入隊させたとさ。噂によると、一般応募よりも段違いに手当てが好待遇らしいよ」


「プロモーション役……ですか」


 お姉さんの話に、なるほどなと言った様子で頷く空宙。


「(一般応募だけじゃなくてスカウトで入隊する人もいるんだな……)」


 ふと、彼はそんな事を考えていると。


「(…………ん?)」


 先ほどまで特段気にせず彼の様子を見ていたお姉さんの顔が少し、憐憫れんびんな表情になっている事に気づく。


「あの、どうかしましたか?」


 空宙に声を掛けられるとお姉さんはハッと表情を戻し、再び空宙の方を向いたらば。


「いや、なんでもないさ。お、そろそろじゃないか?」


 今度は空宙が、お姉さんの言葉に、自身の一つ前に並んでいた人が係員に呼ばれてプレハブに入っていくのに気付いて。


「ほんとだ。ではお姉さん、先に行きますね。ここまでお話付き合って下さってありがとうございました」


「いいってことさ、青年。良い結果になる事を願っているよ」


 そして、お姉さんは笑顔で空宙に手を振るのだった。


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