目次
ブックマーク
応援する
15
コメント
シェア
通報
ベネディツィオーネ・インビジビレ ~見えざる”もの”に祝福を~
猫耳猫助
SF空想科学
2024年09月03日
公開日
537,087文字
連載中
 異世界「アレット」では、四百年もの間、人族と魔族との和平協定「人魔不可侵協定」が存在した。
 しかし、ある日突如として魔族側が協定を破棄、人族側の領土へ侵略を開始する。

 魔族に対抗しようにも、長い間平和だった影響により、人族側の戦力はすっかり落ち、あっという間に全領土の三割を魔族に支配されてしまう。

 打つ手限られた人族は魔族と対抗する為、次元の断層を発生させ、別世界へと移動する禁忌魔術「次元転移魔法」を行うと......


 繋がった先は、もう一つの世界「地球」。


 ――西暦二一〇〇年、日本上空


 突如として現れた次元の断層。そこから現れたのは、異世界からの使者達。

 異世界の者は言う。

「異世界の方々、どうか私達の世界を助けて下さい」と。


 次元の断層により繋がった二つの世界は、のちに「マナ」と「電子」を融合させ開発した戦闘服「エレマ体」によって、魔族と対抗することになるが。

 果たして、これは数奇か運命か。

 これは、交差する二つの世界が織り成す、十一人の群像劇

1.再び


-異世界アレット レグノ王国王国城内祭儀場-



 どこまでも広がる暗雲。


 雷は轟き、雨が激しく地面を叩きつける天候の中、幾人の足音が祭儀場内に響き渡る。


「レム王っ! 間もなく次元転移魔法の準備が整います!」


 祭儀場深部から現れた一人の男が、外から向かってくる集団に声をかければ。

 そのとき深部では、既に数名の魔法士たちが、儀式の準備へと取り掛かっていた。



「ここからいけるのだな」


 集団の中で一段と装飾の施された衣類を纏っている男が、傍についていた魔法士に問いかけると。


「はい、ここより異世界に繋がります」



 そう、魔法士が返事をした、その時。



「ーーっ!! レム王っ! 次元転移魔法が発動しますっ! 危ないですので少しばかり離れておいでくださいっ!」


 突如、魔法陣が白く輝き始めては、複数の側近たちが慌てて国王の身を案じ、魔法陣から距離を保つように促す。


「うむ。では……ユスティよ。向こうへ行ったら頼んだぞ」


 そうして王と呼ばれる者は、魔法陣から離れつつ、先程から魔法陣の真ん中に立ち、転送の瞬間を待つ一人の男に声を掛け、一身の望みを託す。


「御意。必ずや、我がレグノ王国の危機を救ってみせます」


 重役を担う男は、王の声を聴くや、己が従う主に向かい、深々と頭を下げる。


「では……」


 そして同時。魔法陣の輝きが一層強くなれば、描かれた魔法陣の外周から眩い光が円筒状に放たれて、それらは徐々に中心へと向かうと。


「……行ったか」


 遂には、魔法陣の中に居た男の姿と共に、消え去っていったのだった。



 次元転移魔法の発動を終え――。



 暫しの静寂が祭儀場内に漂う中、次元転移魔法の発動に懸っていた魔法士達はみな、疲れ果て、その場に座り込み。


 王も、その様子をじっと見つめては、祭儀場内に木霊する雨音を静かに聞き続けていた。



 --------刹那



「ーーっ!! 何が起こったっ!?」


 轟音鳴り響くや、突如として発動し終えたはずの魔法陣が、再び輝き出せば。

 その輝きは先ほどよりも激しく、更には魔法陣を中心に祭儀場全体が大きく揺れ始める。


「ーーっ! これは……っ! 国王っ! 魔法陣の暴走です! 早くここからはなれっ!?」



 瞬間。



 国王の目の前にいた配下の一人が、魔法陣から放たれた光に巻き込まれた途端に、その姿を消してしまう。


「ーーっ!? 皆の者!! 直ちにここから離れ、柱の後ろや物陰に身を潜めるのだっ! 決してあの光に触れるでないっ!!」


 己が配下を一瞬にして消し飛ばした光が、只ならぬものと悟った国王は、急いで皆に向かい叫び、自らもその場を離れ、近くの窪みに身を隠そうとする。


 暴走した魔法陣から放たれ続ける光の勢いは留まることを知らず、遂には祭儀場の天井を破壊。


 そこから、王国城内へと雨あられのように降り注がれていった。




「………………」


 どれほどの時間が経っただろうか。降り注ぐ無数の光に誰もが手も足も出せず、ただただ怯える中で。

 凶悪な光の雨は、次第に弱まっていくと、魔法陣の輝きと共に、再び静まり返る。


 そうして。


「……っ!!」


 国王が恐る恐る顔を上げ、祭儀場内を見渡せば。


「そ……そんな…………」


 そこに以前の様子はどこにもなく。魔法陣によって放たれた無数の光により、壁はあちこちが崩れ落ち、祭儀場内を彩っていた美しいステンドグラスの装飾は、無惨にも原型がないほどに削れていた。


 祭儀場にいた配下たちも、何名かは姿が見えず、幾人かは身体の一部だけが光に巻き込まれたか、片腕がないものや、上半身の全て巻き込まれ、下半身だけを残した肉塊として転がっている者さえいた。



 どれほどの配下を失ったのだろうか。

 国王は目の前に広がる残酷な光景に言葉を失い、只々立ち尽くすしかなかった。



 その時。



「ーー! ーーーーっ!!」


 祭儀場深部入口から、慌ただしい声が王を呼ぶ。



「あなたっ! あなたっ!! ティーファがっ! ティーファレットがっ!!」



 ――また、繰り返されるのか




 -2100年、地球:日本-



 何気ない日常。


「なんだ? あれ」


 雑踏の中、一人の男が空を見上げ、ある一点を指差せば。

 指さす方向には、肉眼でギリギリ見えるほどの小さな黒点が。


「おっ、おい!!!!」



 その時、黒点を中心に空に割れ目が現れると。

 その割れ目は、留まるどころか急速に広がっていく。


 大勢の人々が、目の前の光景に足を止めていた。

 ある者はその光景に慄きその場から逃げ出せば、別の者はこの出来事を千歳一隅とみて、嬉々としてこの瞬間を残そうとカメラを取り出そうとする。


「人だっ! 人がいるぞ!!」


 割れ目によって出来た次元の断層から現れたのは、異世界からの使者達。


 その者達はまるで、御伽話に出てくる天使のように、悠々と地上へと舞い降りる。



 異世界の者は言う。


「異世界の方々、どうか私達の世界を助けて下さい」



 そうしてその日。




 日常は、世界に別れを告げた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?