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第10話

「え!? 理仁さんが撃たれた!?」


 悠真が再び学校へ通い出していた頃、家事を終えた真彩が部屋で寛いでいると、お茶の用意をして来ると行っていた朔太郎の声が廊下から聞こえてくる。


 しかも、『理仁が撃たれた』という聞きたく無い最悪な言葉が。


「朔太郎くん! 今の……」

「あ、姉さん……」


 聞こえた瞬間、真彩は部屋を飛び出して廊下で誰かと電話していた朔太郎の名を呼んだ。


「理仁さんが撃たれたって……」

「はい、その、まだ詳しい事はよく分からないんスけど、組織の喧嘩を止めようと仲裁に入ったところを撃たれたとか……」

「そ、それで、今理仁さんは?」

「ひとまず病院に運ばれて、すぐに手術を受けるそうで」

「朔太郎くん、私をそこへ連れて行って」

「けど、今理仁さんは静岡ですし、ここからだと車で距離もありますから姉さんの体調を考えると……」

「お願い! 私なら大丈夫だから、ここで待つだけなんて、出来ない……少しでも近くに、傍に居たいの……」


 このところ真彩の体調には少し波があった。


 それでも、入院する程では無いし、無理さえしなければ問題無いと言われていたから無理の無い範囲で日常生活を送っていたのだけど、流石に遠出は少し不安もあった。


 それでなくても理仁が撃たれたという最悪な報せを受けて精神的にもダメージを負っている状態なのだから。


 そんな中、朔太郎は悩んだ末に、


「分かりました。これから兄貴が病院に向かうところだったので、姉さんも一緒に行きましょう。但し、少しでも体調に何かあったらすぐに言ってください、それだけは約束してください!」


 体調に問題が生じた場合は我慢せずすぐに話すという条件付きで真彩も共に連れて行く事になった。


 そして、屋敷や悠真の事は真琴や他の組員に任せ、翔太郎、朔太郎、真彩の三人は車で理仁が運ばれたという静岡のとある病院まで向かって行った。


 屋敷を出てから約二時間半、途中真彩の体調を見て休憩を挟んで何とか理仁が運ばれた病院へ辿り着く。


 手術は終わったものの、撃たれた場所が悪かった事、出血量もかなりあった事で、意識が戻るまでは予断を許さない状況である事が医師から告げられた。


「……理仁さん、お願い……早く目を覚まして……」


 集中治療室に入っている理仁の側には行けないので、病室の外で朔太郎や翔太郎と共に待つだけの真彩。


 合間に悠真の様子を確認すると、真琴たちのおかげで特別寂しがる事もなく過ごしていると分かり一安心。


 とにかく今は理仁が回復してくれるのを待つだけなのだが、その願いも虚しく夜中に理仁の容態が悪化した。


 慌ただしく病室へ入って行く医者や看護師を前に真彩の不安は一気に募り、一度理仁の心臓が止まったと知った瞬間、目の前から光が失われた真彩は突如襲ってきたお腹の痛みと共にその場にしゃがみ込む。


「姉さん!?」

「真彩さん!!」


 朔太郎や翔太郎が呼び掛ける中、理仁が居なくなってしまうかもしれない不安と、お腹の子にまで何かあったらどうしようという恐怖の中、これまでに経験した事がないくらいの痛みに苦しむ真彩はそのまま意識を失ってしまった。


 理仁の居る病院は坂木医院のような裏組織の人間が診てもらえる個人病院で、怪我や病気などの処置はひと通り心得があるものの、流石に妊婦の対応は出来ず、翔太郎は片っ端から産婦人科に連絡を取って、急遽診て貰える事になった病院へ朔太郎と向かう事に。


 そして運び込まれた真彩が緊急入院する事になったさなか、医師たちの懸命な処置によって理仁の容態が再び安定した事を他の組員からの連絡で知った翔太郎や朔太郎はひとまず安堵した。

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