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第2話

「りひとが、ゆうまのパパ?」


 理仁の問い掛けに驚いたのか、急に黙ってしまった悠真を見て、やっぱり自分が父親というのは無理なのかと理仁が落ち込み掛けた、その時、


「……パパって……いっていいの?」


 満面の笑みを浮かべた悠真が『パパ』と呼んでいいか、嬉しそうに尋ねていた。


 これには理仁は勿論、真彩も予想外だったようで悠真の喜びように驚きつつも安堵した。


「ああ、悠真の好きに呼んでいいぞ」

「わーい! ゆうまもパパとおでかけできた! うれしいな!」

「良かったね、悠真」

「うん! うれしい! だって、ゆうまね、ずっとりひとがパパだったらいいなっておもってたから!」

「そうなの?」

「うん!」

「そうか……それは、嬉しいな」

「良かったですね、理仁さん」

「ああ、本当に良かった」


 まだ婚姻届は出していないものの、傍から見た三人は幸せそうな親子そのものだった。



 その夜、悠真を朔太郎にお願いして既に貰って来ていた婚姻届に記入をしていた真彩と理仁。


 お互い人生で結婚をする事がないと思っていただけに、記入を終えても尚、これを提出すれば夫婦になるという状況が信じられない様子だった。


「明日、時間を作って提出しに行こう」

「はい」

「その後は指輪を買いに行くか」

「いいんですか?」

「当たり前だろう。お前の好きな物を選ぶと良い。値段は気にしなくていいから、妥協しないで欲しいものを選ぶんだぞ」

「はい、お言葉に甘えて、選ばせてもらいますね」

「さてと、今日はもう寝るか」

「……そうですね」


 恋人同士になって以来、朔太郎に悠真を預ける日は理仁の部屋で夜を過ごしていた真彩は寝る準備を整えて理仁の待つ布団へと潜り込んだ。


 いつもならば布団の中で少し会話を交わして眠りに就くのだけど、今日は互いに気持ちが昂っていた。


 何度か触れ合う程度の事はしていたのだけど、正式に籍を入れるまではどこか一線引いてしまっていた二人。


 それも今日が最後だと思うと、互いに触れたい欲求が押し寄せていた。


「……真彩、本当に後悔はないのか?」

「後悔?」

「明日、届けを出せばお前は鬼龍組組長の妻になるんだぞ。それは、今までよりも危険が高まる事にもなる」

「勿論分かっていますよ」

「怖くねぇのか?」

「怖くないかと聞かれれば、不安もあるし、怖さもあります。けど、理仁さんが守ってくれると信じているから、私は大丈夫です」

「……そうか。それなら俺は、その期待を裏切らねぇようにするだけだ。何があっても、お前と悠真は守り抜く、この先もずっと」

「はい、信じています。だけど、私も守られてばかりじゃなくて、強くなりますね。だって、理仁さんの妻になるんですから、しっかりしなきゃ」

「頼もしいよ、本当に」


 互いの存在が大切で愛おしくて、もっともっと温もりを感じたくなった二人は見つめ合い、唇を重ね合わせた。


 軽く触れる程度のキスをした後、理仁は愛おしそうに真彩を見つめると額にキスを落とし、それだけでは終わる事が出来ず首筋、耳朶と場所が変わる度、


「ん……、ぁ……」


 と真彩が小さく声を上げる。


 その声は理仁の気持ちを更に昂らせてしまい、そんな理仁の気持ちに応えるかのように真彩は微笑み、彼の背に手を回して自分の気持ちが同じであると伝えたのだ。


 それを合図に再び唇を重ね合わせた二人は、何度か角度を変えながら互いを貪るような激しいキスへと変わっていく。


 何も考えられないくらいに幸せで、互いの気持ちが重なり合う。


 こんな幸せな時間がこれからもずっと続きます様にと願いながら、カーテンの隙間から覗く月明かりに照らされた二人は時間の許す限り、愛を確かめ合った。



 ――半年後。





「理仁さん、真彩さん、おめでとうございます!!」


 鬼龍組の組員とごく一部の親しい人間のみが参加をする小さな結婚式が開かれた。


『式なんてお金がかかるからやらなくても』と言っていた真彩だったけれど、理仁が真彩のウエディングドレス姿が見たかった事、一部の人間にだけは自分たちの関係を改めて披露しておきたいという彼からの提案で、なるべくお金をかけない簡素な式が開かれる事になった。


「姉さん、本当に綺麗っス!」

「ママ、おひめさまみたい!」


 純白のドレスを身に纏った真彩はいつも以上に綺麗で、理仁は勿論周りの人間も思わず息を飲むほど魅力的だった。


「真彩、良く似合うな」

「……ありがとうございます。でも、何だか少し、恥ずかしいです……」

「恥ずかしがる事なんてねぇよ。自信を持て、お前は誰よりも一番だ」

「もう……理仁さんってば……。でも、嬉しいです」


 周りがいるのも忘れて惚気ける理仁。けれど、真彩と交際するようになってからの彼はこれまでとはだいぶ変わって、表情まで優しくなっていた。


 そんな二人を見ていると周りも温かい気持ちになる程、幸せな空間で穏やかな空気が流れていた。


「悠真、おいで」

「うん!」


 朔太郎の隣に居た悠真は手招きをされて真彩の元へやって来ると、横に居た理仁に抱き上げられた。


「俺は生涯、何があってもお前と悠真を守る。だから二人共、これからもずっと、傍に居てくれるか?」

「うん! パパとママが大すきだから、ずっといる!」

「勿論です。ずっと、傍に居させてくださいね」


 皆が見守る中、家族三人これからもずっと傍に居る事を誓い合う。


 この瞬間が幸せ過ぎて、真彩の瞳にはうっすら涙が浮かんでいた。



 真彩は改めて思う。あの日あの時、理仁に出逢えて本当に良かったと。


 そして、これからもずっと、この幸せが続きますようにと願いながら、真彩は最高の笑顔を皆に向けて、今日というこの日を心の底から謳歌するのだった。




【完】

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