目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第4話

「駄目よ、買わないから戻して来て」

「いやー!」

「姉さん、俺が買いますよ」

「朔太郎くん……いいのよ、悠真にも我慢を覚えさせないと、我がままな子になっちゃうし……」

「まぁ、確かに我慢も大切ですけど、ここでまた駄々を捏ねても大変ですし」

「……確かに……。仕方ない、私が買ってくるから悠真の事お願いできるかな?」

「いや、俺が……」


 朔太郎と真彩がそんなやり取りをしているところで、


「やべぇよ、拳銃持ってる男が居るって!」

「えぇ!? 撮影か何かじゃなくて?」


 外から店の中へ避難するように人がなだれ込んでくる。


「拳銃……? 朔太郎くん理仁さんは?」

「外で煙草吸ってるはずっスけど……。俺が様子見てくるんで、姉さんと悠真は中に居てください」

「分かった……。悠真、勝手にお外に出ちゃ駄目だよ……あれ? 悠真?」


 様子を見に行くという朔太郎を見送り、勝手に外へ出ないように声を掛け、傍にいるはずの悠真の手を繋ごうと下を向くと悠真の姿が見当たらない。


「悠真! どこ!?」


 人でごった返す店内。悠真を呼ぶ声はすぐにかき消されてしまう。


「まさか、外に出ちゃったんじゃ……」


 外に居た人は車に戻るか店内に逃げ込んで来ているだろうこの状況、外へ出て居ればすぐに見つかるはずだがその分危険が増える。


 外へ出ていませんようにと願いつつも、万が一を考えた真彩は人の流れに逆らいながら外へと出て行った。


 時同じくして理仁はというと、人々が騒いでいた『拳銃を持った男』と対峙していた。


「東堂に頼まれたのか? それとも、檜垣か?」

「答える義理は無い」

「こんなとこでそんな物騒なもん出してんじゃねぇよ。お前、組の人間じゃねぇな」

「黙れ。答える義理は無いと言っている」

「…………目的は何だ? 金で雇われたんだろ? それなら今の報酬の倍をやるから俺に付け」

「俺は金なんか興味ねぇから、そんな交渉は無駄だ」

「そうか。なら用件を言え。俺を殺す為に送り込まれた……だけじゃねぇんだろ?」


 理仁は後を尾けられている頃から相手の狙いが誰だか分かっていた。自分も候補には入っているだろうが、本当の狙いは別に居て、それは何としてでも守らなければならない相手――つまりは真彩が狙われていると確信していた。


(真彩は店の中に居るはずだ。朔は騒ぎを聞き付けて様子を見に来るだろうが、こうなる事を想定して指示は出している。焦る事はねぇ……)


 勿論こういった状況に陥る事も想定済みだった理仁はあらかじめ朔太郎に、危険な状況に陥った場合、真彩と悠真の安全を最優先に考えて行動しろと指示を仰いでいた。


 だから、理仁は朔太郎を信じ安心していたのだが、状況は最悪だった。


「あー、りひといた!」


 騒ぎを知らない悠真は一人外へ出て来てしまい、姿の見えなかった理仁を見つけると笑顔で向かって来る。


「悠真! 店に戻れ!」


 これには流石の理仁も焦りしか無かった。今すぐに走って悠真の元へ駆け寄りたいが、生憎男に銃を向けられている。しかも男の狙いが真彩だとすれば悠真の事も調査済で、人質に取る恐れもあった。


 額に汗を滲ませた理仁に、表情一つ変えず銃を向け続ける男。


 そんな二人を見つけた朔太郎は二人の視線の先に悠真が居るという最悪の状況に絶句した。


 そして、


「悠真!!」


 最悪の状況は更に悪化の一途を辿り、標的である真彩までもが外へと出て来てしまったのだった。


「朔! 悠真を守れ!!」


 こうなると迷っている場合ではない。比較的悠真の近くに居る朔太郎に悠真を守るよう指示した理仁は、相手の男が自分に向けている拳銃を真彩に向け直そうとしている事を瞬時に察知し、懐に隠してあった自身の銃を取り出すと迷わず男の手に一発撃ち込んだ。


「くっ!」


 しかし相手は相当な手練で、咄嗟に避けたのか掠っただけのようで小さく呻き声を上げるも逆の手で拳銃を持ち替えて真彩を狙う。


「真彩、伏せろ!!」


 ギリギリで真彩の元へ辿り着いた理仁がそう叫ぶと同時に銃が撃ち込まれた。


「きゃあ!?」


 寸前で理仁が真彩に覆い被さる形で倒れ込むと、騒ぎを聞きつけたのかパトカーが数台サイレンを鳴らしながら近づいて来ていた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?