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第3話

「…………?」

「何だ、どうした?」

「いえ、あの……何だか、視線を感じたものですから……」

「何だと?」


 真彩の言葉に当たりを見渡す理仁だが、怪しい動きをする人物は見当たらない。


「すみません、さっきも感じた気がしたんですけど、やっぱり勘違いだと思います。疲れてるのかも……」

「さっき? ここへ着いてからか?」

「いえ、ホテルを出て駐車場で車に乗り込む時です……」


 真彩のその言葉に何か思い当たる節があるのか考え込んだ理仁は、


「着いて早々悪いが、店を出るぞ。真琴、荷物を持って帰れ。俺は朔が乗ってきた車に乗る」

「分かりました」

「理仁さん?」

「真彩、悠真に言い聞かせて帰る支度をしてくれ」

「あ、はい……」


 それだけ言うと理仁は朔太郎に何かを話し始め、二人の表情は余裕の無いものへと変わりつつあった。



「ゆうま、もっとあそびたい!!」

「悪いな、また今度連れて来てやるから、今日は帰るぞ」

「うわーん! やだー! いまがいい!」

「悠真、我がまま言わないで」

「やだぁー!」


 楽しく遊んでいた悠真を説得するのはなかなか難しく半ば無理矢理連れ帰ることになったのだけど、納得出来ない悠真は車内で泣き叫んでいた。


「理仁さん、やっぱりけられてます。きますか?」

「ああ、頼む」

「了解っス」

「理仁さん、尾けられてるって……」

「真彩の感じた視線は気のせいじゃ無かったって事だ。相手は恐らく八旗組か箕輪組……とにかく箕輪の傘下の奴らの線が高い」

「え?」

「お前や悠真を巻き込みたくはねぇんだが、真琴に任せて万が一の事があっても困る。寧ろ俺の傍に居る方が守ってやれるからな、我慢してくれ」


 車は街中から離れ、高速の方へと向かって行く。


「何処へ、向かうんでしょうか?」

「箕輪組のアジトに向かう。恐らく箕輪の組長は関与してねぇはずだが、直々出向いて確かめる」

「だ、大丈夫なんですか?」

「翔を先に向かわせている。危険な状況ならば翔や朔と逃げればいい。だから心配するな」


 こんな状況でも常に真彩と悠真の心配をして安心させようとする理仁。何が起きているのか容易に想像出来る事ではないものの、理仁や朔太郎がいつになく焦っている状況を見る限り、あまりかんばしい状況では無いという事だけは真彩にもひしひしと伝わっていた。


 自身は勿論悠真の事も心配ではあるものの、それ以上に理仁の身を案じる真彩。


 泣き疲れたのか少しずつ大人しくなっていく悠真をギュッと抱き締めながら、震えそうな身体を必死に落ち着かせていた。


 高速に乗ってからも尾行は続いているようで、理仁や朔太郎は終始気を張っている状況の中、何も知らない悠真は、


「ママー、おなかすいた! おうちかえりたい!」


 と呑気な発言をする度、真彩は機嫌を損ねないよう、『もう少し我慢しようね』と宥めるのに苦労していた。


「……撒くのは無理そうだ。今のところ何かしてくる様子も無さそうだし、悠真も疲れただろう。次のSAサービスエリアに入るぞ」

「了解っス!」

「すみません、悠真が……」

「いや、気にするな。朔も疲れてるだろうからな。そこで俺が運転を代わる」

「いや、俺全然平気っスから!」

「俺に考えがあるから構わねぇよ」


 理仁の提案によってSAに立ち寄ることになった一行だけど、この選択で運命は大きく変わっていく事になる。



「ママーおかしほしい!」


 SAに立ち寄りトイレを済ませた悠真は店に入り、土産物やお菓子などが沢山並んでいる事に驚きながらも瞳を輝かせ、欲しい物を手に取ると真彩に買うようねだってくる。

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