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第4話

「……そうか。それなら、互いに立ち会い人を付けての面会を要求するから、少し待っていろ」

「はい、お手数お掛けしますが、よろしくお願いします」

「……悠真には、この先も父親の事を伝える気はないのか?」

「……伝えたくはないです。でも、果たしてそれが正解なのか、悩んでいます」

「そうか。まぁ、あくまでも俺個人の意見としては、言わないままの方がいいと思う。だがな、俺も実父が生きている事を知った時は、何故もっと早く教えてくれなかったのかと母親を恨んだ事があった。どんな人間だとしても、生きていたなら一目でいいから会ってみたかったという思いがあったからな。まぁ大人になってとんでもないクズだったと知ってからは、やはり会う必要は無かったと納得はしたが、幼い頃は父親という存在が恋しかったのは事実だ。だから、悠真がもう少し色々な事を理解出来る年齢になったら、生きている事実は伝えるべきかもしれない」

「……そう、ですよね。どんな人でも、悠真にとってはこの世で一人の父親ですものね……。この件は、もう少し良く考えてみます」

「ああ、納得のいく答えを出すといい。一生隠すと決めるなら、檜垣にもそれを伝えて納得させなきゃならねぇからな」

「はい」


 話す前はどこか表情が晴れなかった真彩だったけれど、理仁に話をした事で少しだけスッキリしたのか話を終えた頃に真彩が見せた笑顔は晴れやかなものだった。



 それから数日が過ぎたある夜、帰宅した理仁に呼び出された真彩と朔太郎と翔太郎は客間へと集まった。


「悪いな、わざわざ集まって貰って。実はな、明後日の午後、八旗組の若頭、檜垣と真彩の面談が決まった。俺が同席したいのは山々なんだが、『組長』としての立場上、顔を出す訳にはいかねぇんだ。だから朔と翔に同席して貰いたい。八旗組の方も二人付けると言って来てるからな」


 話は惇也と真彩の面談日の事で、日時や時間などの詳細が理仁の方から告げられる。理仁自身もその場に同席したい思いはあったものの、理仁と真彩は婚姻関係もなければ交際関係もなく、あくまでも雇用主と従業員。そんな真彩と若頭の惇也が話し合う場に組織の組長という立場の人間が同席するという状況は芳しく無い為、朔太郎と翔太郎を同席させる事になったのだ。


「わざわざ話し合いの場を作ってくださってありがとうございます」

「話し合いはその一度きりで終わりにしたい。悪いが、それまでにきちんとどうするか決めておいてくれ」

「はい、分かっています」


 真彩の中で、悠真と惇也の事をどうするかはもうほぼ結論が出つつあった。ただ、当日理仁がその場に居ない事を知った真彩は話し合いの場へ向かう前にもう一度理仁と話をしたいと思っていたので、


「あの、理仁さん、この後少し話が――」


 この後少し時間が取れないか確認しようと真彩が口を開きかけると、


「理仁さん、大変です!」


 部屋の外が慌ただしくなったのとほぼ同時に組員の一人が焦った様子で声を掛けてきた。


「どうした?」


 その様子をすぐに感じ取った理仁は客間のドアを荒々しく開けると外に居る組員から事情を聞く。


「それが、箕輪組の若頭が突然やって来て、理仁さんを出せと言って来ています」

「箕輪組の? 分かった、すぐ対応する」

「朔、真彩と悠真を安全な部屋に移せ」

「分かりました」

「翔は俺と共に来い」

「はい」


 理仁の焦り具合からただならぬ事態に陥っていると察知した真彩は一気に不安を感じていく。


「理仁さん……」


 虫の知らせとでもいうのだろうか、いつになくザワつく心と言い知れぬ不安で怖くなった真彩が理仁の名前を呼ぶと、


「悠真と安全な部屋に行ってろ。朔が付いてるから不安な事はねぇよ」


 大変な状況にも関わらず、真彩を気遣って笑みを浮かべて安心させるように優しく声を掛けた。


「はい、気を付けて、くださいね」

「ああ」

「姉さん、こっちへ」


 それ以上何も言うことが出来なかった真彩は玄関へ向かって行く理仁を視線で追いながら、朔太郎に促されて悠真の待つ自室へと向かった。


「ひとまずここで待機してましょう」

「こんな所があったんだね」


 眠っていた悠真を抱き抱え、朔太郎に連れられてやって来たのは離れにある地下室だった。


「先代の頃から作られていたんスよ。組に関係無い者が屋敷に居る時に襲われる事も想定して、その人たちに危険が及ばないようにと。まぁ、シェルター目的みたいな感じっスね」

「そうなんだ」

「ママぁ……ゆうま、ねむい……」

「あ、そうだよね、ごめんね、もう大丈夫だから寝ようね」

「うん……」


 眠っている所を起こされて些か不機嫌だった悠真だけど、相当眠いようでグズる事もなくすんなり眠ってしまう。


 地下室内は8畳程とそこまで広さもなく、あくまでも一時的な避難場所という形で作られているようで布団と少しの食料品などが用意されているだけ。


 布団に悠真を寝かせた真彩は未だ拭えない不安を朔太郎に打ち明けた。


「ねぇ朔太郎くん。理仁さんたち、大丈夫かな?」

「まぁ、どうして箕輪組の若頭が直々に訪ねて来たのかは分からねぇっスけど、流石にここでドンパチしようって事はないでしょうね。相手もそこまで馬鹿じゃないだろうし」

「そっか。それなら安心……なのかな?」

「そうっスね……」

「……ごめんね、朔太郎くん」

「何で姉さんが謝るんスか?」

「だって、朔太郎くんは理仁さんの傍に居たいだろうに、私や悠真がいるからここで待機になっちゃって……」


 真彩は自分や悠真が居なければ地下に身を潜める事も無く、朔太郎だって理仁の傍で戦力になれるだろうに、それが出来なくてもどかしさを感じているのではと気にしていたのだけれど、朔太郎はそれを否定した。

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