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第2話

「――という訳で、私の言い方が少し悪かったんです……」


 一旦店を出て人の邪魔にならない所で話をした真彩。それを聞いた理仁は泣きやみかけた悠真を見た。


「悠真、ママに怒られのは嫌か?」

「……うん」

「けどな、ママは理由わけも無く怒ったりはしてねぇんだ。怒る時は悠真が良くない事をしたからだってのは、分かるか?」

「…………うん」

「そうか、偉いな。それなら、怒られた時は泣くんじゃなくて、どうするか分かるか?」

「………………うん」


 理仁に諭された悠真は頷くと真彩の方を向いて、


「ママ……ごめんね……」


 そう、瞳に涙を溜めながら謝った。


「ううん、ママの方こそごめんね。玩具、一緒に選ぼうか」

「うん!」


 理仁によって悠真と真彩は和解し、二人の間に笑顔が戻る。


「よし、じゃあ玩具売り場に戻るぞ。ほら、真彩」


 悠真を左腕で抱いたままの理仁は空いている右手を差し出す。


「……は、はい」


 それが手を繋ごうという合図だと理解した真彩は少し気恥ずかしくなりながらも自身の左手を伸ばすと、理仁から指を絡めて来たので体温が一気に上がっていくのを感じていた。


 結局欲しい玩具をいくつか買って貰った悠真。すると今度はゲームセンターに行きたいと言い出した。


「あのね、ようちえんでたくやくんがくれーんげーむやったっていってた! ゆうまもやりたい!」

「クレーンゲームは難しいと思うよ?」

「たくやくんはとれたっていってた! ゆうまもとる!」

「うーん、取れるかなぁ……」


 幼稚園に行き始めてからというもの、お友達が何かをやったという話を聞く度に自分もやりたがるようになった悠真。お手伝いとか為になることならば喜んでやらせる真彩だけど、お金をかけてやるような物はあまりやらせたくないと思ってしまう。


「何事も経験は大切だ。俺が教えてやるからやってみろ」

「ほんと!? りひとすき!」

「どれを取るんだ?」

「えっとねー、このおおきいクマさん!」


 理仁が教えてくれるという事でゲームセンター内へ着くや否や、挑戦するクレーンゲームの品定めをしていた悠真は大きなクマのぬいぐるみが並べられたクレーンゲームを指さした。


「それは多分難しいと思うよ? もう少し違うのにしたらどうかな?」


 真彩は取れなくて不機嫌になって騒ぎ出す事を考慮してなるべく取れやすい台の景品を選ばせようとしたのだけど、


「そうか、それじゃあこれをやってみるといい。ほら、ここにこの百円玉を入れるんだ」

「うん!」


 理仁は悠真がやりたいという台をやらせるつもりのようで、硬貨を取り出すと悠真に投入口を教えてお金を入れさせた。


「まずはここを持って、前後左右に動かす。ほら、こうしたら動くだろう?」

「ほんとだ!」


 理仁は悠真の手に自分の手を重ね合わせて操作方法を教えながら、ぬいぐるみの中心辺りにアームを持って来る。


「狙いが定まったら、このボタンを押すんだ。悠真、押してみろ」

「うん」


 言われるがまま悠真がボタンを押すと、アームはぬいぐるみ目掛けて下がっていき、ガッチリと身体を掴んで上昇していく。


「わぁー! とれた!」


 掴んだまま上昇していくクレーンを見つめる悠真は取れたと嬉しそうだが、その様子を見ていた真彩はハラハラしていた。


(これ、絶対途中で落ちるよね……)


 そう、クレーンゲームはそうそう甘くはない。持ち上げられはするものの、上がりきった瞬間振動で落ちてしまったり、アームが弱いからか、大抵は景品口に向かっている最中に落ちてしまうのだから。


 そうとは知らない悠真はすっかり取れた気でいるので落ちてしまった時の反応が怖いと思う真彩だったけれど、それは意外なものだった。


「あ!」


 予想通り、ぬいぐるみはアームが上がりきった瞬間に落ちてしまったのだ。


「おちちゃった……」


 案の定悠真の表情が曇り、泣き出すのかと思いきや、


「悠真、こういうの物は簡単には取れねぇんだ。もう一度やってみろ」


 理仁に言われるともう一度先程と同じようにアームをぬいぐるみの位置まで合わせ始めたのだ。


 それには真彩も驚いたようで、呆気に取られていた。


 それから何度か挑戦した後、


「とれたー!」


 確率機と呼ばれるものなので、タイミング良くその瞬間を迎えたのだろう。アームの力が強まってぬいぐるみを景品口まで運ぶことが出来、無事クマのぬいぐるみが悠真の元へやって来た。


「凄いね、悠真! 良かったね」

「うん!!」

「泣かずに挑戦出来て偉かったな、悠真」


 そう、理仁の言う通り、取れなくても悠真は諦める事も泣く事もなく、一生懸命景品を取る事に向き合った。いつもなら思い通りにならないと泣いていた悠真が。


 まだまだ子供だと思っていた真彩だけど、日々成長している事を改めて実感すると、嬉しくもあり淋しくもあるようで少し複雑な感情を抱きつつあった。


「あ、しょう! みてー! ゆうまがとった!」


 悠真はというと、クマのぬいぐるみを大切そうに抱きしめながら、買い物を終えて戻って来た翔太郎にも自分が取った事を自慢していた。


「これを悠真が? 凄いな」

「えへへ! かえったらさくにもみせる!」

「そうだな、朔太郎も驚くぞ」

「うん!」

「翔、買い出しご苦労だったな」

「いえ。それよりも、少し気になる事がありまして」

「何だ?」

「ここでは……」


 どうやらあまり周りには聞かれたくない内容の話らしく、真彩や悠真にもチラリと視線を移す翔太郎。それを感じ取った真彩は、


「あ、お話があるようでしたら、そこのプレイルームで悠真を遊ばせます。あの中に居れば私も悠真も安全でしょうから、お話済ませて来て下さい」


 ゲームセンター横にあるプレイルームを指差しながら言った。

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