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第1話

 あの日以来、朔太郎を避ける事をしなくなった悠真は以前にも増して朔太郎を慕い、懐くようになっていた。


「さくー! はやくあそんで!」

「悠真、俺今勉強中なんだよ、あと少し待っててくれって」

「やだー! ゆうまはいま、さくとあそびたいの!」

「悠真、朔太郎くんを困らせちゃ駄目でしょ? 今はお勉強中なんだから大人しく一人で遊んでなさい」

「やだ! ママきらい! あっちいって!」

「悠真、そういう事ばっかり言うと、ママ怒るよ?」

「ママきらい!」


 日曜日、昼食を食べ終えて暇を持て余していた悠真は自室で勉強中の朔太郎の元から離れず我がままばかり言っているので真彩に怒られると、朔太郎を盾にしながら真彩に『嫌い』と言って、引き離されそうになるのを激しく抵抗していた。


「何だ悠真は機嫌悪いのか?」


 そこへ、用事を済ませて帰宅した理仁が通りがかると、駄々をこねる悠真に声を掛けた。


「りひと!」

「理仁さん、お帰りなさい」

「ああ、ただいま。それで、悠真は何を騒いでるんだ?」

「すみません、俺が今勉強中で相手してやれないから……」

「いえ、朔太郎くんは悪くないんです。悠真が我がままばかりで……」


 理仁に問われ、朔太郎と真彩は事の次第を説明するも、当の本人は悪びれた様子もなく、理仁に抱っこされてご満悦だ。


「そうか。まぁ遊び相手の朔が忙しいと悠真は不満だろうな。それなら俺が相手してやる。公園でもいいが、これから天気も崩れるらしいからな。ショッピングモールにでも行くか。真彩、悠真を遊ばせるついでに買い物も済ませたらどうだ? 翔が空いているから同行させよう」

「でも、今戻ったばかりで理仁さんも翔太郎くんもお疲れでしょうから……」

「俺は構いません。それでは兄貴、急いで車を表に準備して来ます」

「ああ、頼むな。ほら悠真、出掛けるから支度して来い」

「おでかけ! わーい! さくはいかないの?」

「ごめんな、帰って来たら遊ぼうな」

「わかった! ママ、はやくはやく!」

「わ、分かったから引っ張らないで。すみません理仁さん、それでは急いで準備して来ますね」

「ああ」


 こうして理仁の提案によって、真彩たちはショッピングモールへ出掛ける事になった。


「悠真、何処に行きたいんだ?」

「あのねぇ、ゆうま、アイスたべたい!」

「アイスか……それじゃあまずはフードコートにでも行くとするか」

「わーい!」


 ショッピングモールへ着くと、アイスが食べたいという悠真の希望を叶えるべく、三階にあるフードコートへ向かう事になった。


「すみません、悠真の為にわざわざ……」

「気にするなといつも言っているだろ? 真彩も遠慮しねぇで好きな物食っていいんだぞ」

「いえ、私は大丈夫ですから、悠真にアイスだけお願いします」

「兄貴、真彩さんと先に席を確保しておきますね」

「ああ、頼む」

「では行きましょう、真彩さん」

「うん」


 アイスを買う為店の前に理仁と悠真が残り、翔太郎と真彩は混み合っている中から空いている席を確保しようと探し歩く。


 何とかタイミング良く四人席に座る事が出来た真彩たちが悠真たちを待っていると、やって来た理仁はトレーを持ち、その上にはカップに入ったアイスが二つと、飲み物のカップ二つが乗っていた。


「ほら悠真、早く食べねぇと溶けちまうぞ」

「うん!」


 席に座るとすぐに悠真の前にチョコアイスとバニラアイスの入ったカップを置き、早く食べるよう促す理仁。


「真彩はチョコミントのアイスで良かったか? よく食べてるよな?」

「あ……はい、私、チョコミントのアイスが好きなので……でも、どうして……」

「遠慮するなって言ってるだろ? 食いたい物があれば食っていいんだ。悠真と一緒にアイスを食べるってのも良いだろ?」

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 本音を言えば真彩はアイスが好きで食べたいと思っていた。だから理仁の気遣いはもの凄く嬉しかったようで自然と笑みが溢れていた。


 楽しそうにアイスを食べる真彩と悠真の向かい側に座る理仁と翔太郎はアイスコーヒーを飲みながら何やら会話を交わしている。


「真彩さん、必要な物の買い出し、俺が行ってきますので教えて貰えますか?」

「え? あ、それなら私も一緒に――」

「ママー、ゆうま、おもちゃみたい!」

「え? 玩具は家に沢山あるでしょ?」

「みたい!」

「悠真も真彩さんと居たいみたいですし、買い物は俺が一人で行ってきますよ」

「……ごめんね、翔太郎くん……それじゃあ必要な物は――」


 理仁一人に悠真を任せるというのも申し訳ないし、自分が付いていないと我がままを言いたい放題かもしれないと思った真彩は買い出しを翔太郎一人に任せる為、必要な物を思い出しながら伝えていった。


「ママー! これほしい!」

「え? 悠真こういうの持ってるでしょ?」

「これちがうやつ!」

「同じようなのはいくつもいらないよ。せめてもっと違う感じの玩具にしようよ?」

「いや!」


 アイスを食べ終えて玩具売り場へとやって来た真彩たち。悠真は沢山並ぶ玩具を眺めては欲しい物を手に取り真彩に欲しいと交渉するも、似たような物は駄目だと言われてまたしても駄々をこねる。


「悠真、我がままばかりは駄目なの。それは置いて来なさい」

「やだー! これがいい!」


 理仁は電話がかかってきたと店の外に出て電話をしている最中で、理仁が戻って来る前に諦めさせたい真彩は必死に説得するも、一向に諦める気配がない。


「駄目って言ってるでしょ? 聞き分けのない子はママ嫌いだよ?」


 最近悠真がどんどん我がままになっているのは欲しい物ややりたい事を何でも叶えてやっているせいだと思っている真彩。理仁たちの厚意は有難いが、何でもかんでも与えていては教育上良くはないので何とかして諦めさせたい思いからか、ついついキツく言い過ぎてしまう。


「……っう……ひっく……ママ、きらい……すぐおこるぅ……」

「あ……ご、ごめんね……」


 そうなると悠真は悲しくなって泣いてしまうので、その姿を見ては自己嫌悪に陥る真彩。


「うわーん!」

「何だ、何かあったのか?」

「理仁さん……」


 電話を終えて戻って来た理仁は泣き出す悠真を抱き上げてあやしながら真彩に話を聞いた。

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