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第2話

「その顔、気に入らねぇな。なぁ鬼龍さんよ、あの子供ガキは俺と血が繋がってるなら、俺が引き取ってうちの組で育てるってのもアリだよな? 真彩のあの口ぶりじゃあアンタらは付き合ってる訳じゃねぇんだろ? なら後は俺が面倒見てやるから真彩共々俺に渡せよ」

「……俺に渡せ、だと?」

「ああそうだ。あの子供ガキは俺のなんだから、俺がどうしようと勝手だろ? 子供には母親も居た方がいいだろうから真彩も一緒に引き取ってやるよ。アイツとの身体の相性は良かったし、またヤれるのは俺としてもラッキーだからなぁ」


 惇也は相変わらず挑発的な態度で話を続けていき、しまいには悠真や真彩を自分の所有物だとでも言うような口振りをする。


「まるで物のように扱う言い方は心底気に入らねぇな。悪いが貴様のような男に悠真と真彩を渡す気はない。いいか? 一度しか言わねぇからよく聞けよ。金輪際、俺の居ない所で二人に近付く事は許さねぇ。真彩と話をしたければ俺を通してからにしろ。もし勝手な真似をすればお前は勿論、八旗組にも容赦はしねぇから、覚悟しておけ」


 凍てつく殺気に満ち溢れた理仁は拳を強く握りしめると、必死に怒りを抑えながら惇也にそう言い放つ。


 そんな理仁の殺気に流石の惇也も危険と判断したのか、それ以上言葉を口にする事はなかった。


「理仁さん、姉さん!」


 惇也との話を終えてから数十分後、理仁からの連絡を受けた朔太郎が公園へとやって来た。


「さく!」


 理仁に促されて悠真と二人で車内に戻った後も真彩はあまり余裕が保てなかったせいか悠真の相手をろくにしてはやれなかった事や、殺気立ったまま惇也と別れて一人車外に出たままの理仁を間近で見ていた悠真は恐怖に加え、孤独と淋しさを感じていたのだろう。朔太郎の姿を見るなり自ら車を降りて彼の元へ一目散に走り出して抱きついた。


「悠真、無事で良かった」

「うわーん……さくぅ……!」


 朔太郎に抱きしめられた悠真はようやく安心できたのかせきを切ったように泣き出してしまう。そんな悠真を前にした朔太郎はいつもと同じように来てくれた事に一瞬戸惑うも、理仁や真彩の様子を見て瞬時に状況を察し、悠真の背を優しく叩きながらあやし始めた。


「朔、少し真彩と話があるから、悠真を頼む」

「分かりました。任せてください」

「真彩、それでいいか?」

「…………はい。朔太郎くん、悠真をよろしく」

「了解っス」


 いつも通り朔太郎に悠真を任せた理仁は車に乗り込むと、悲しげな表情を浮かべたままの真彩を乗せて車を走らせていった。


「真彩、少し外で話すか」

「……はい」


 理仁が車を走らせること約一時間、辿り着いた先は高台にある公園の駐車場だった。


 車内は重苦しい空気が漂っていた事もあって理仁が外で話す事を提案すると、真彩はこくりと頷き小さく返事をした。


 陽も暮れて薄暗くなっていた事や寒さもあって、公園に訪れる人も少ないのか駐車場に停まっている車は数台しかなく、とにかく静かな駐車場内。


 二人は自販機やベンチが近くにあって景色が一望出来る柵の前辺りにやって来て真彩が先に腰を下ろした。


「悪いな、こんな寒い中、外で話そうなんて言って。気休め程度だが、これで少しは暖がとれるだろう」

「……ありがとうございます」


 理仁は自販機で買ったミルクティーの缶を真彩に手渡しながら彼女の横に腰を下ろす。


 明かりが灯っていく景色を眺めながら、話し出すタイミングをうかがっているのか暫く沈黙が続いていく中、


「――理仁さん」


 その沈黙を破ったのは真彩で、手渡されたミルクティーを一口飲んだ後、理仁に声を掛けた。


「何だ?」

「先程はすみませんでした。色々とご迷惑をおかけして」

「迷惑だなんて思ってはいない」

「……理仁さんは、知っていたんですね、惇也が八旗組に居る事も、私と惇也の関係も、悠真の父親が、惇也だった事も……」

「ああ、悪かったな、言っていなくて。悠真の父親については朔から聞いた。お前の過去を探るような真似をして済まないとは思ったが、お前の事はある程度知っておく必要があったからな」

「いえ、それは構いません。朔太郎くんに話せば、自然と理仁さんにも伝わるかもとは思っていましたから……それでその、あの人、何か言っていましたか?」

「……自分と血が繋がっているなら悠真を引き取りたいと言っていたな」

「…………そう、ですか…………」

「真彩、お前が今考えている事を当ててやろうか?」

「え?」

「お前は鬼龍組に迷惑がかかるといけないから、俺の元から去るつもりなんじゃねぇのか?」


 理仁の言葉は当たっているのだろう。図星をつかれた真彩は返すことなく黙り込んでしまう。


「俺や鬼龍組を嫌いになったり、煩わしく思って離れるならば仕方がないと思う。けどな、アイツ絡みで迷惑をかけるからという考えだけなら、俺は全力でお前を止める」

「……だって、悠真は敵対している組の男の血が繋がっている子なんですよ? どう考えても、迷惑にしかならないじゃないですか」

「そんな事はない。確かに血の繋がりは否定出来ねぇだろうし、それを変える事も出来ねぇ。けど、お前らは結婚している訳じゃねぇし、悠真自身アイツが父親だという事も知らねぇんだろ? そんなの他人と変わらねえさ」

「でも!」

「俺たちはただの同居人で恋人でも何でもねぇから、俺がこんな事言えた義理じゃねぇかもしれねぇが……真彩、俺はあんな男にお前や悠真を渡す気は無い」

「……理仁……さん」


 今にも泣き出しそうな真彩を真っ直ぐに見据えた理仁がそう口にすると、思いがけない言葉に驚いたのか真彩も理仁を真っ直ぐに見つめ返した。

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