目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第6話

「朔太郎くん!」

「姉さん」


 幼稚園へやって来た真彩はすぐに朔太郎の元へ駆け寄る。


「悠真はまだ……?」

「すみません。この辺りはくまなく探したんスけど全く……」

「……公園は?」

「一番に探したんスけど、居ませんでした」

「そう……。あの子、朝幼稚園行きたがらないところを無理矢理連れて行ったから、一人で家に帰ろうとして道に迷ったのかしら……」

「本当にすみません……」

「朔太郎くんのせいじゃないよ。昨日の今日で扱いにくいところを一生懸命歩み寄ってくれてたもの」


 真彩が朔太郎に居なくなった時の経緯を詳しく聞いたところ、お昼を食べた後に行方が分からなくなったらしい。昨日同様朔太郎と距離を置きたがる悠真に配慮して、他の保育士に傍に付くように頼んでいたようなのだが、ほんの少し目を離した隙に居なくなってしまったとの事だった。


「いや、例え悠真に嫌がられようと俺が傍に居るべきでした。俺の仕事なのに、本当にすみません!」

「朔太郎くん……」


 どう声を掛ければいいのか悩んでいる真彩の元に、


「朔、悠真はまだ見つからねぇのか?」


 少々息を切らせた理仁が現れた。


「理仁さん、すみません、まだ見つからないです」

「そうか……。ここへ来る前に一度自宅に寄ったが、やはり帰ってない。連れ去りの線も視野に入れて、少し範囲を広げて捜索した方が良さそうだな」

「連れ去り……」


 理仁の言葉に、不安気な表情を浮かべる真彩。


 幼稚園にいる間に居なくなってしまった事は園の責任だと園長を始め保育士たちもひたすら頭を下げていたのだが、こればかりは誰のせいでもないような気がした真彩は誰の事も責められないでいた。


「私、もう一度あの公園に行ってみます! 悠真は公園に凄く行きたがっていたから、一人で向かうとしたらやっぱりそこだと思うんです」


 居なくなった悠真を思い、連れ去りでなければ一体何処へ向かおうとしたのか今一度よく考えた真彩は理仁と朔太郎にそう告げる。


「けど、公園には……」


 真っ先に公園を探しに行った朔太郎がそこには居ないのではと言おうとすると、


「……分かった。お前の気の済むようにするといい」


 朔太郎を制し、真彩の意見を尊重した理仁が頷いた。


「悠真ー! 悠真!」


 理仁の運転する車で公園へとやって来た真彩は降りるなり名前を呼びながら遊具などを見ながら公園内を探し回るけれど、やはり悠真の姿は無い。


「……真彩、念の為他の公園も探してみるか」

「そうですね、もしかしたら別の公園に居るかもしれませんものね」


 理仁は自分絡みで悠真が誘拐されたとほぼ確信していたのだけれど、必死に探す真彩を見ると何もしないより出来ることは全てしてやりたいと思い、別の公園を探すことを提案した。


「この辺りにはあと二箇所公園がある。とりあえず東にある児童公園に――」

「あ、悠真!!」

「おい、真彩……」


 車の傍に立ちながらスマホで地図を表示しながら南と東に位置する公園のどちらから探すか話していると、公園のすぐ横の道路を誰かと歩いている悠真の姿を真彩が見つけ理仁の呼びかけを無視して走り出す。


「悠真!!」

「ママ!」


 悠真もまた、真彩の姿を見つけると一目散に走り出して勢いよく抱きついた。


「悠真、どうして一人で幼稚園を出て行ったのよ? 心配したのよ」

「ママ……」


 悠真を思い切り抱きしめながら、泣きたいのを我慢しつつ問い掛けると、


「俺が連れ出したんだ。ママの事で話があるって言ってな。けど、少し警戒心無さ過ぎじゃねぇか?」


 悠真ではなく、悠真と一緒に居た黒髪短髪でサングラスを掛けた一人の男が答え、


「真彩、悠真!」


 それとほぼ同じタイミングで理仁が真彩たちの傍にやって来た。


「お前、一体どういうつもりだ? 俺に用があるなら直接俺の所に来いよ」

「ああ? 俺は別にテメェに用はねぇんだよ。用があるのはお前だよ、真彩」


 言ってサングラスを外して真彩を見た男の顔を見るなり、真彩の表情が一気に青ざめ、


「あ……、……惇……也」


 元彼で悠真の父親である、檜垣 惇也の名前を口にした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?