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第3話

「それにしても、朔たちがあそこまで準備していたのには驚きだったな」

「はい。飾り付けもお料理も凄くてびっくりしました」

「この家でパーティーなんてモノを開く事になるとはな」

「すみません」

「何故謝る?」

「その、悠真に合わせて色々してもらっているので、皆さんのご迷惑じゃないかと……」

「迷惑なんて事はねぇよ。そもそも迷惑だとか面倒だと思ったら家に置いたりはしねぇさ。鬼龍家ここに居る限り、お前や悠真は家族も同然だ。いちいち遠慮や申し訳なく思う必要はねぇんだよ」

「……理仁さん」


 理仁の言葉で、真彩の心は暖かくなる。


 幼い頃から『家族』に憧れを抱いていた真彩だけど、その機会に恵まれる事はなくここまでやって来た。唯一血の繋がりのある家族の悠真との暮らしも決して楽なものではなくて、挫けそうになる事も沢山あった。


 けれど理仁と出逢い、高額な月収に住む場所まで提供してもらっただけではなく、他人同士ではあるものの寝起きを共にする者同士助け合い、家族の様に過ごす鬼龍組の人々。


 悠真が居る事で少なからず迷惑を掛けている部分はある筈なのに、嫌な顔一つせずに受け入れてくれただけでなくて『家族』も同然だと思ってくれている事が何よりも嬉しかったのだ。


「ありがとうございます。そう言ってもらえて凄く嬉しいです。これからも頑張ります」

「ああ、宜しく頼む」

「はい。あ、そう言えば理仁さん、話があるって言っていましたよね? すみません、私の方が話し始めてしまって」

「いや、別に構わない。話というか、渡したい物があっただけだ」

「渡したい物?」

「ソファー横に置いてある紙袋の中に、俺から悠真へのクリスマスプレゼントが入ってる。枕元にでも置いておいてやれ」


 既にソファー横に置かれていた紙袋を指差しながら理仁は言う。


「あ、ありがとうございます! わざわざすみません。実は朔太郎くんや翔太郎くん、他の組員の皆さんにも貰ってるんです」

「アイツらも、悠真の事は可愛いんだろ」

「何だか貰ってばかりで……」

「気にするな。皆自分があげたいと思ってやってる事だ」

「はい……ありがとうございます」

「それから――」


 言って理仁は先程引き出しから取り出した物を手に、


「これはお前にだ。受け取ってくれ」

「え……」

「気に入るかは分からんが、普段は悠真が居てお洒落しづらいお前でもそれくらいならと思ってな。開けてみろ」

「は、はい……」


 理仁から手渡されたのは手のひらサイズの小さな箱で、開けるよう促された真彩は戸惑いながらも包みを解いて箱を開けると中には、


「……可愛い」


 小さなダイヤが彫り留めでセッティングされた、華奢で可憐なピンクゴールドのハートのピアスが入っていた。


「開けてるのにピアスを付けないだろ? 折角だし、たまには付けるといい」

「昔は付けていたんですけど、悠真を身ごもってからは付ける機会がなくて……悠真がまだ幼い頃一度だけ付けた事はあるんですけど、キラキラした物に興味があるのかすぐ耳に触ろうとするから、口に入れたりしても危険だし、それ以降は……」

「そうか」

「一応穴が塞がらないように、たまにシークレットピアスを付けたりはするんですけど、それくらいで」

「今は悠真を見る奴も沢山いる。たまには着飾っていいんだ」

「でも、こんな高価そうな物……」

「遠慮はいらない。いつも頑張ってる褒美だと思えばいい。前にも言ったが、お前はすぐに自分の事を後回しにするから、このくらいが丁度いい」

「……嬉しいです。本当に、嬉しい……」


 戸惑っていた真彩は、理仁の言葉で次第に笑顔になる。


「そうだ、そうやって笑顔でいればいい。その笑顔に救われる人間はいるんだから」

「……それは、理仁さんもですか?」

「ああ、そうだ。恐らく、組のモンは皆救われてる。お前と悠真にな」


 真彩は自分で質問をしたのに、迷いなく答えた理仁に心底驚いていた。

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