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第1話

 季節は冬本番、寒さが身に染みる季節となり、街に出れば大きなクリスマスツリーが飾られていたり繁華街は勿論、住宅街でもちらほらイルミネーションが施されている家が増えていた。


「ママ、ゆうまにサンタさんくる?」


 ひと仕事終えて休憩していた真彩の元へ、一冊の絵本を手にした悠真がやって来て『サンタが来るか』という事を尋ねた。


「サンタ? ああそっか、もうすぐクリスマスだもんね。そうだね、良い子にしてたら来ると思うよ」

「ほんと?」

「うん」

「わーい!」


 真彩に『来る』と言われた悠真は飛び跳ねて喜んでいる。


「悠真はサンタさんに何をお願いするの?」


 そろそろクリスマスという事をすっかり忘れていた真彩は早速悠真の欲しい物を聞き出そうとするも、


「ないしょ! ゆうま、サンタさんにおてがみする!」


 サンタには手紙を書くからと言って欲しい物を教えない悠真。


「そっかぁ……それじゃあママと一緒にお手紙書こうか?」


 それなら一緒に手紙を書くという名目で欲しい物を知ろうとした真彩だけど、


「いや! ゆうまひとりでやるの!」


 どうしても教えたくないらしく、一人でやると言って聞かない悠真は逃げるように部屋から出て行った。


「さくー!」

「ん? もう戻って来たのか? ママに絵本読んでもらうんじゃなかったのか?」

「ゆうま、サンタさんにおてがみかきたい!」

「サンタに手紙?」

「ほしいものおてがみにかくの!」

「ああ、そういう事ね」

「かみほしい」

「んじゃあ画用紙使えって。ほら、これにクレヨンで書きな」

「うん」


 真彩の元を逃げるように出て行った悠真は朔太郎の部屋に戻って来るなりサンタに手紙を書くと言い出した。


 意図が分かった朔太郎は悠真に画用紙とクレヨンを渡すと、雑誌を読みながら上機嫌で手紙を書く悠真の様子を時折覗き見る。


 手紙と言っても、まだ上手く字が書けない悠真は欲しい物の絵を描いているようで、何を描いているのか気になった朔太郎がそれとなく問い掛けた。


「なぁ悠真、サンタに何をお願いしてるんだ?」

「ないしょー!」

「何だよ、教えてくれてもいいだろ?」

「……ママにいわない?」


 けれど真彩の時同様頑なに教えたがらない悠真。しかし、そこで諦める朔太郎ではなく、教えて欲しいと頼み込むと悠真は何故かママに言わないかと確認した。


「言わねぇよ。男同士の秘密ってヤツだ! だからな? こっそり教えてくれって」


 悠真の様子から真彩も欲しい物が何か分からず苦戦している事が想像出来たので、聞いた後でこっそり教えるつもりでいた朔太郎。


 そんな朔太郎の意図を知らない悠真は、絶対に言わないと言って聞き出そうとする朔太郎の『男同士の秘密』という響きが気に入ったのか、


「じゃあ、さくにはおしえてあげる! あのね――」


 特別に教えるという流れになって、こっそり耳打ちをする悠真。


 そんな悠真の言葉を聞いた朔太郎は、


「……そっか、それは良い案だな! 俺からもサンタに頼んでやるよ!」


 笑みを浮かべて自分もサンタに頼んでやると口にした。


「ねぇ悠真、サンタさんにお手紙書けた?」


 夜、朔太郎、翔太郎、理仁の三人と少し遅めの夕食を食べていた真彩と悠真。


 昼間、サンタに手紙を書くと言っていた悠真にそれとなく進捗を尋ねる真彩。


「かけた!」

「そうなの? それじゃあママが後でサンタさんに出して来てあげるよ」


 書けたという悠真の言葉で手紙を預かってこっそり中を覗いて欲しい物をリサーチしようとした真彩だったけれど、


「さくにおねがいしたからいい」


 どうやらサンタに手紙を渡す役目は朔太郎にお願いしたようで、真彩の申し出は断られてしまう。


「そうなんだ? ごめんね朔太郎くん、迷惑かけちゃって」

「いえいえ! 問題ないっス!」


 そんな中、真彩たちのやり取りを黙って見守っていた理仁が口を開く。


「そういえば、もうすぐクリスマスか。この家でそんなモンやった事もないが、悠真が居るんだからツリーでも買って飾ったらどうだ?」

「いえ、そんな! 今までも家にツリーなんてありませんでしたから気にしないでください」

「いや、それなら尚更あった方がいいだろ。おい朔、明日真彩と悠真を連れてツリー買って来い」

「了解っス」

「理仁さん、本当に大丈夫ですから……」

「悠真、ツリー欲しいだろ?」


 申し訳ないからと断る真彩をよそに理仁は悠真にツリーが欲しいか尋ねると、


「キラキラのやつ! おほしさまつけたい!」


 テレビや絵本、外へ出ても色々な所で飾られている事もあって騒ぎはしなかったもののツリーに憧れを抱いているらしい悠真は瞳を輝かせながらツリーの話を始めた。

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