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第2話

「悠真はね、ある人と別れた後に妊娠が分かって……頼る人も居なかったから一人で産んで育てたの。色々あって、これまで出会った人たちにはバツイチって言ってきたけど、本当は未婚なの」

「どうして、バツイチなんて嘘ついてたんスか?」

「実は、悠真が生まれて少ししてママ友を作った時に未婚だって話をしたら、その後から不倫相手の子供だとか、犯罪者の子供じゃないかって噂されて、距離を置かれたの」

「いや、それは偏見過ぎるっしょ。他にも事情はあるって……」

「そうなんだけど、そのママ友たちはそうは思わなかったみたい。それで、その後にまたそういう機会があって、同じ過ちを繰り返したくなかったから、バツイチって話をしたの。そうしたら今度は死別かDVで別れたんだろうって勝手に解釈されて、可哀想に思われた。でも、変に噂されるより可哀想に思われてる方が楽だって感じちゃった私は、それ以降は誰に対してもバツイチ子持ちって話をするようになったの」

「そうだったんスか。未婚とバツイチじゃそんなに反応って違うモンなんスね」

「うーん、どうだろ。あくまでも私の場合はって事だけどね」

「……それで、その悠真の父親って今は何処で何して――」

「さくー! こっちきてー!」


 話の途中で悠真に呼ばれてしまった朔太郎。まだ色々聞きたい事はあるのだが、上機嫌の悠真の機嫌を損ねたく無かった事もあって話はそこで中断した。


「ごめんね朔太郎くん、行ってあげてくれるかな? ここで機嫌を損ねたら大変になるから」

「了解ッス!」


 残っていたコーヒーを一気に飲み干した朔太郎は近くのゴミ箱に缶を投げ入れると悠真の方へ走って行く。


(……話しちゃった、悠真の父親が生きてる事、私が未婚だって事。きっと、理仁さんにも伝わっちゃうかな。でも、鬼龍組の人たちになら知られても大丈夫だよね)


 今まで出会った人たちには心を許せず、話す事が無かった悠真の父親や未婚の事。あくまで住み込み家政婦としての立場ではあるものの、皆良くしてくれて家族のように過ごしている真彩は鬼龍組の人たちになら話してもいいかと薄々思っていたところもあって、今回話せた事で少し心が軽くなっていたようだが、


「でも、あの人の事は……話したくない……もう、思い出したくもないから……」


 悠真の父親がどういう人だったのかという事だけは話す気になれない様子の真彩。


 そんな真彩の様子を悠真の相手をしながら見ていた朔太郎。実は先程の話をしたのは理仁から頼まれていた事で、どうやら理仁は裏で真彩の事を色々と調べているようだった。



「真彩、これをやるから今週末にでも朔たち連れて行って来い」


 夜、帰宅した理仁は夕食を終えて朔太郎たちと居間で寛いでいた真彩にある物を見せながら言った。


「ここって、メルヘンランド……ですよね? このチケットどうしたんですか?」


 メルヘンランドというのは可愛い動物たちが出迎えてくれて、沢山のアトラクションもある森をイメージした人気の大型テーマパークだ。


「取り引き先で貰った。いつもならこういう物は他にやるが、今は悠真が居るからな。朔、翔、お前ら日曜日に悠真たちを連れて行ってやれ」

「了解ッス」

「めるへんらんど?」

「そうだぞ、悠真も知ってるだろ? クマとかウサギとかが出迎えてくれて、乗り物とかもあって、楽しい所だ」

「くまさん?」


 朔太郎の説明の中で【クマ】という単語が出て来ると、持っていたくまのぬいぐるみを掲げて喜ぶ悠真。


「ありがとうございます。悠真、遊園地は行った事ないので、きっと喜びます」


 これまで、動物園や水族館などは連れて行った事があるものの、遊園地には一度も連れて行ってあげられていなかった真彩もまた、悠真同様喜びの表情を見せた。


「兄貴、すみませんが俺、日曜日は用事が……」


 盛り上がる中、一人浮かない表情を浮かべているのは翔太郎。大した用事がなければ理仁の指示に必ず従うものの、日曜日はどうしても外せない用事があるらしい。


「そう言えばそう言ってたな……悪い。それじゃあ他の奴を付けるから気にしなくていいぞ」

「すみません、ありがとうございます」

「朔、お前とあともう一人誰がいい?」

「そうッスね……」


 翔太郎が行けない代わりに他の組員を同行させる事になり、誰がいいか問われた朔太郎は少し考え、


「あ、せっかくだし、理仁さんが一緒に行けばいいじゃないっスか! 姉さんも悠真も、慣れない組員と一緒より理仁さんの方が楽しめますって!」


 名案とばかりに朔太郎は理仁を指名した。

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