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第4話

「今日は貸し切りにした。これから服やアクセサリーなんかも此処へ届けてもらうよう手配してある」

「え?」


 全く状況が見えない真彩はただ戸惑うばかり。そんな彼女をよそに理仁が店内へ足を踏み入れると、


「鬼龍様、お待ちしておりました。お連れ様、どうぞこちらへ」


 店内に控えていた美容師たちが一斉に出迎え、真彩を席へ案内する。


「理仁さん……」

「少々手荒な真似かもしれねぇが、お前はこれくらいしねぇと自分の事は全て後回しにするだろ? 今は悠真の事を忘れて、自分が楽しむ事を考えろ。いいな?」


 理仁は真彩が自分については全て後回しにする事、物欲が無さ過ぎる事を気に病んでいた。


 そこで、少々強引だが美容院を手配してヘアスタイル、メイクなどを整え、更には多方面に展開する自らの事業を駆使して服や靴、アクセサリーなどを揃えて真彩を綺麗に着飾ろうという考えなのだ。


 そんな理仁の意図を何となく理解した真彩は戸惑いながらも、こうなってしまった以上素直に従うしかない事を分かっているので、


「ありがとう、ございます……」


 申し訳無さ過ぎるという思いを胸に抱きつつも、全てを任せる事に決めた。


 約三時間半後、艶を失っていた黒髪はしっかりとトリートメントなどを施されて艶のある綺麗な茶髪へと変わり、乱雑に切られていた少し重めのミディアムボブの髪もきちんと切り揃えられて、すっきりとしたストレートのボブスタイルへ生まれ変わった。


 そして、普段全くしないという化粧をしてもらい、透き通った透明感のある肌、整えられた眉毛、カールした長い睫毛にパッチリ二重、それからナチュラルな薄いピンク色のリップグロスが塗られてぷっくりとした唇。


 更に、スタイリストが選んだ白色無地のキャミソールと厚手のカーディガン、首元にはさりげなく光るダイヤのネックレス。裾にフリルの付いている花柄のロングスカートといったシンプルだけど清楚で純なイメージにも見える落ち着いたコーディネートをされた真彩。


 着替えを終え、改めて全身を見た真彩が自身の変わりように驚いていている中、


「こりゃ随分と化けたモンだな」


 スタイリストに全てが終わった事をつげられ中へ入って来た理仁もまた、真彩の変わりように驚きの声を上げた。


「理仁さん! あの、どうでしょうか?」

「似合ってる」

「本当ですか?」

「ああ。俺は嘘はつかねぇ。そもそもお前は元が良いんだから、普段からもっとお洒落に気を使えばいい」

「そんな事、ないです。それに、普段はやっぱり動きやすい方がいいので」

「まぁ、家事をするには動きやすい方が良いだろうが、出掛ける時はこうしてお洒落をすればいい」

「でも、悠真が居ますから」

「お前は今は一人じゃねぇ。普段は朔や翔、他の奴らも近くに居る。悠真の事はいくらでも見る奴がいるんだから、お前はもっと自分の事を優先していいんだ」

「……ありがとうございます」

「さて、せっかくお洒落してんだ。このまま帰るなんて勿体ねぇ。このままもう少し出かけるぞ」


 そう言って理仁は真彩の手を取って歩き出す。スタッフたちに見送られた二人は手を繋いだまま繁華街を歩いて行く。


「あの、理仁さん……一体何処へ……」

「レストランを予約したからそこで食事をする」

「えぇ!? いや、こんなにしてもらった挙句にレストランだなんて!」

「俺がしたくてしてる。遠慮はいらねぇ」

「でも……もう夜だし、流石に悠真もぐずっているかもしれないし……」

「悠真は大丈夫だ。さっき翔に様子を確認したが、朔や他の奴らが一緒になって買った玩具で遊んでいるらしい。飯も食わせたから安心していいと言ってたから心配はいらない」

「そう、ですか……」


 やはり一番悠真の事が気がかりだった真彩は様子を聞けて安堵の表情を見せる。


「だから、真彩も今は思い切り楽しめばいい。それとも、俺が相手じゃ不満か?」

「いえ、そんな事はありません! こんな……こんなに良くしてもらえて、気に掛けてもらえて、本当に感謝しています」

「そうか。俺はお前が喜んでくれたならそれでいい。ほら、行くぞ」

「……はい」


 理仁の言葉に、強く胸を打たれたのと同時に鼓動がキュンと高鳴るのを感じた真彩。


 そして、何故理仁はここまで優しく気に掛けてくれるのか、それが不思議で仕方なかった。

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