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第3話

「マーマー!」


 車へ戻ると、買って貰ったクマのぬいぐるみを大切そうに持ちながら真彩に抱きつく悠真。


「ママ、くまさん!」

「買って貰ったの? 良かったねぇ」

「理仁さん、姉さん、おかえりなさいっス! 荷物はこれだけッスか?」

「細かい物は持って来たが、大きな物は届けるよう手配した。玩具の方はどうだ?」

「はい、こちらも車に入りそうな物は運び入れましたが大きな物は配送してもらうよう手配しておきました」

「そうか」


 悠真が買って貰った物を真彩に報告している側で理仁と状況を報告し共有していく朔太郎と翔太郎。


「あの、悠真が沢山買って貰ったようで、本当にすみません。悠真、理仁さんに『ありがとうございます』ってお礼を言って?」


 悠真から沢山の玩具を買って貰った事を聞いた真彩は申し訳なさそうに謝り、理仁にお礼の言葉を言うよう悠真に話をすると、


「……ありがと……ごじゃます……」


 言い慣れない言葉でたどたどしいお礼だったが、普段子供と関わる事のない理仁は悠真が一生懸命お礼を口にする様子を目の当たりにして口元を緩めていた。


「これで、朔の物を取られなくて済みそうだな」

「ちょっ! 理仁さん! あの事は蒸し返さないで下さいよぉ……」

「事実を述べただけだ」

「朔太郎、見られて困る物は全て捨てろ。それが一番だ」

「いやいや兄貴、あれは男のバイブルだから! 捨てるとか無理だし!」

「ばいふるって、なあに?」

「悠真は知らなくていいの! あーほら、絵本読んでやるから車乗るぞ」

「わーい!」


 周りから見れば理仁たち三人は威圧感があって近寄り難い存在で、そんな中にいる真彩や悠真も同じように見られてしまうかもしれないけれど、今の五人はとても楽しそうで普通の家族の団欒風景のようにも見える。


 そんな温かくてどこかむず痒い、今まで感じて来なかった空気を肌で感じていた理仁。


 たまにはこういう空気も悪くないと思いつつも、どうしても気になりこのままでは気の済まない事が一つあった。


 車に乗る間際、何処かに電話をした理仁はそれを終えると助手席に座って運転席に座る翔太郎に何やら小声で話をする。


 それを聞いた翔太郎は黙って頷くと、そのまま車を走らせた。



「兄貴、着きました」

「真彩、降りるぞ」

「え?」


 ショッピングモールを出て約二十分、繁華街近くに辿り着くと人気の少ない裏道に車を停めた翔太郎。何やら理仁はこの辺りに用があるらしいのだが降りる際、真彩にも降りるよう声を掛けた。


 てっきり屋敷に戻ると思っていた真彩は状況が掴めず、降りるのを躊躇っていた。


「朔、悪いが先に戻って悠真を頼む。翔は電話をしたら迎えに来てくれ」


 驚いている真彩をよそに翔太郎と朔太郎に指示を出した理仁は次に悠真に声を掛けた。


「悠真、お前はこのまま朔と家に戻って買った玩具で遊んでてくれるか?」

「ママは?」

「ママは少し寄るところがある。分かってくれるな?」


 真彩とまた別れる事になると知った悠真は少し悲しげな表情を浮かべるも泣きはせず、


「わかった。さくとおもちゃであそぶ」


 くまのぬいぐるみを強く抱きしめながら『分かった』と納得して頷いた。


「良い子だ」


 そんな悠真の頭を優しく撫でた理仁。その光景を見た真彩の胸の奥は、言葉に出来ない暖かさでいっぱいになる。


「それじゃあ朔、悠真を頼むぞ」

「了解ッス!」

「真彩、行くぞ」

「は、はい! 朔太郎くん、悠真をよろしくね」

「悠真の事は気にせず、姉さんは楽しんでください!」

「ママ、ゆうまいいこにする!」

「うん、ありがとう。行ってくるね」


 皆に見送られながら理仁と真彩は繁華街へと向かって行く。


「あの、理仁さん……一体何処へ……」

「付いてくれば分かる。もうすぐだ」


 真彩が行き先を問い掛けてもそれに答えることはせず、付いてくれば分かるとだけ言う理仁に黙って付いて行くと、


「ここだ」

「ここって……」


 辿り着いたのは【KIRYU】グループの一つで腕の良い美容師が揃っていて常に予約でいっぱいと話題の美容室だった。

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