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第1話

「こらっ! 悠真、待て!」


 日曜日の昼下がり、今日は珍しく組員たちが屋敷に居る事もあって皆が家事を分担してくれているお陰でいつもよりやる事が少なかった真彩が自室でウトウトしていると、屋敷内に朔太郎の大きな声が響き渡った。


「……悠真?」


 その声で目を覚ました真彩は、一緒に部屋に居たはずの悠真が居ない事に気付き急いで部屋を出た。


「悠真ー?」

「あ、姉さん!」

「朔太郎くん」


 廊下を歩きながら悠真を探していた真彩は、曲がり角でバッタリ朔太郎と出くわす。


「さっき、悠真の名前を呼んでたみたいだけど、あの子何かしたの?」

「あ、いや、別に大した事じゃないんスけど……」

「ママー!」

「悠真!」


 朔太郎が状況を説明しようとすると、ベストなタイミングで悠真が現れ、


「悠真、何持ってるの?」


 悠真が何かを手にしている事に気付いた真彩が尋ねると、


「あぁ!!」


 すぐ側に居た朔太郎が大きな声を上げた。


「ど、どうしたの、朔太郎くん」

「いや、何でも! ってか悠真、それ返せ! 」

「いーやー!」


 どうやら悠真が手にしているのは朔太郎の物らしく、更にそれは人に見られたくないものらしい事を悟った真彩は悠真に目を向け返すよう促した。


「悠真、朔太郎くんの物を勝手に持ち出しちゃ駄目よ? 今すぐ返しなさい!」

「いーや!」

「こら、悠真!」

「あぁ、姉さん! ここは俺が! なぁ悠真、お願いだから勘弁してくれって」


 言う事を聞かない悠真を叱り力づくで朔太郎の物を取り返そうとするも、それはどうしても見られたく無い物のようで自分が取り返すと悠真に詰め寄る朔太郎。


「これ、ゆうまの! さくからもらったの!」


 何が気に入ったのか、どうしても返したくない悠真は真彩と朔太郎の間をすり抜け再び逃げ出し駆けていくけれど、


「おっと、走ると危ねぇぞ。悠真、一体何持ってんだ?」


 騒ぎを聞き付けたのか、たまたま廊下に出て来ただけなのか理仁が現れ、ぶつかりそうになった悠真を支えて止めた。


「あぁ! 理仁さん、それは――」


 悠真が大切そうに持っていたそれはぶつかりそうになった弾みで床に落ち、理仁がを拾いあげると朔太郎が悲痛にも似た声を上げた。


「…………はぁ」


 理仁は拾いあげたを目にすると呆れた表情と共に溜め息を吐き、


「朔、お前の趣味をとやかく言うつもりはねぇが、これは明らかに子供ガキに見せるようなモンじゃねぇよな? 万が一、悠真が自分でプレイヤーに入れて目にしたらどうするつもりだ? 教育にも悪いだろうが。入れ物変えたくらいで気を抜くな。こういうのは手が届かない所にしまっておけ」


 鋭い目付きで睨みつけながら静かに言い放つ。


「すいません……気を付けます」


 怒られ、ガックリ肩を落とした朔太郎。一体悠真が手にしていた物は何だったのか、状況から何となく理解した真彩は苦笑いをするだけだった。


「それより、これから出掛けるから車を出してくれ」

「了解ッス!」


 理仁に言われた朔太郎は返事をすると、早々にその場を後にする。


「真彩、悠真、出掛けるから支度をしろ」

「私たちも、ですか?」

「ああ。今日は仕事じゃない。お前たちの買い物だ。遅くなったが、必要な物を買い揃えよう」

「そんな、今ある物で十分です! 家具や家電などはお屋敷にある物を使わせてもらってますし……」

「そうもいかねぇだろ? 服だってそう数はねぇだろうし、それに、悠真には遊び道具が必要なんじゃねぇか?」

「そ、それは……」

「悠真、玩具欲しくないか?」


 理仁は真彩の横に立つ悠真に向かうと、屈んで話し掛ける。


「おもちゃ、ほしい」

「なら出かけた時に買ってやるからな」

「ほんと?」

「ああ」

「わーい!」


 理仁の事はまだ慣れていないのか、近寄ると少し萎縮する悠真だが、オモチャを買ってもらえると分かると笑顔を見せ、理仁の前という事も忘れて喜び始めた。


「ゆ、悠真……」

「真彩、早く準備して来い。車で待ってる」

「すみません、ありがとうございます。すぐに支度をして行きます。悠真、準備するよ」

「はーい!」


 申し訳ないと困り顔の真彩だったが悠真の喜ぶ様子を見ると断る事が出来ず、理仁の厚意を素直に受けてお礼を口にした後、支度を整える為に悠真を連れて一旦自室へ戻って行った。

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