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死後に行く場所は異世界だった~しごいせ~
さわき一海
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年09月03日
公開日
42,883文字
連載中
知球(ちきゅう)の国、弐本(にほん)ではある雑誌に載った記事が話題になっていた。
それは、奇跡の生還を果たした女子アナの手記だった。彼女は死亡した時、異世界に転生したという。
そして、異世界で死亡してまた知球に戻ってきたというのだ。
渡辺 渡(わたなべ わたる)と奏 音花(かなで おとか)は高校からの帰り道、この手記について話題にしていた。
その時、無差別テロに遭遇する――

プロローグ

 『死後に行く場所は異世界だった』

著 毛利もうり 綾瀬あやせ(アナウンサー)


 私は死んだ。

 それは、この本を手に取った殆どの方が知っているだろう。報道で死亡を知ったのではなく、テレビで私が殺された瞬間を目撃した人もいるだろう。

 突然の事だった。

 番組が終わり、出演者が演台の前に並んだ時、『彼』は飛び出してきた。アシスタントディレクターの『彼』が身を屈めてぶつかってくると同時、私は腹部に鋭く、耐えがたい痛みを感じた。

 頭の中が、「痛い」で埋め尽くされた。あんな傷み、二度と味わいたくはない。自慢だが、私は未だに手術をしたことがない。腹部やら背中やらをざっくり斬って縫ってあるのに、数時間で肉がくっつくわけないのだ。麻酔が切れた途端にあの傷みが襲ってくるだろう。そう思うと、私は生涯、手術をしたくない。手術を乗り越えた人を尊敬する。

 ――話が逸れたが、そういうわけで私は刺され、死んだ。

 仮死とか重体ではない。本当に死亡したのだ。

 気が狂うような痛みの中、意識が薄れ、消滅する瞬間を味わった。

 そして、次に目覚めた時――私は異世界に転生していた。

 転生と言っても、生まれ変わりではない。赤ん坊として産まれたわけでも、全く別の容姿の年頃の冒険者になったわけでもない。いや。冒険者にはなったが、姿は毛利綾瀬のままだった。腹部の傷は跡形も無かった。

 思うに、これは転生というよりは魂のワープに近いのではないだろうか。死体から抜け出した魂は、異世界にワープして実体を持つ。

 異世界で誰かが言っていたのではなく、これは私の仮説だ。だが、私はこの仮説に自信を持っていた。何故かと言えば――

 私は、すっぱだかで転生を果たしたのだ。

 転生した先は、街中だった。

 街は、バニーガールとバニーボーイでいっぱいだった。

 兎の耳を生やした女性は、黒いレオタードと網タイツを。

 兎の耳を生やした男性は黒いウエイター風のスーツを基本に、その上で様々なお洒落をしているようだった。皆、目の周りにアイマスクのようなものをつけている。

 すっぱだかの女が突然現れ、道行くバニー達はぎょっとした目で私を見た。私は羞恥で悲鳴を上げる。周りがバニーだらけでも恥ずかしいものは恥ずかしい。そこでマントをかけてくれたのが、アナという女性バニーだった。

「なに? あなた、今どこから現れたの?」

 アナは、私に奇異の目ではなく好気の目を向けてそう言った。やじ馬的な好気ではなく、彼女の瞳に宿っていたのは純粋な興味だった。後で聞いたところによると、私がテレポートしてきたのだと思ったのだそうだ。

 この世界に『テレポート』『瞬間移動』の類の能力または技術を持つ者はいない。だからこそ、殆どの通行人が私を奇異の目で見た。裸であることも含めて、ダブルの意味で。

 しかし、アナは違った。彼女はその方法を知りたがったのだ。

「へー、弐本にほんって所から来たのね。……聞いたことないけど」

「多分、この世界にはない国だと思うよ」

 アナの家に招かれた時点で、私はそこが異世界であると確信していた。彼女の耳や、丸いボンボンみたいな尻尾が紛れもない本物だったからだ。書くまでもないことだが、弐本に兎の耳と尻尾を持つ人間はいない。

 ついでに言うと、私にもいつの間にか耳と尻尾がついていた。私はバニーに転生したのだ。この時は借りたバスローブを着ていて、布を纏っているというだけで随分と安心した。

 とりあえず、弐本で死に、気が付くとこの世界にいたのだとアナに説明する。アナは疑うどころか、私の話を聞いて興奮した。

「えっ、それって転生じゃん! 超すごくない!? すごいすごい!」

 彼女は一通り騒いでから、私に色々なことを教えてくれた。この国の名前がプログラスだということ。バニーとしての生き方。寝る時も起きる時も常にレオタードに網タイツを穿くこと。

 私は絶望した。

 一日中、いや死ぬまでバニーガールでいないといけないなど地獄ではないか。それとも、周りが全部バニーなら恥ずかしくな……やはり恥ずかしいだろう。

 そんなことを私が思っていたら、レオタードが嫌で国を出たバニーもいるということだった。

「私のお姉ちゃんもそうなの。それで、これから探しに行こう。冒険に行こうって思ってたらあなたに会ったの。バニーガールが嫌なら、一緒に冒険に行く?」

 一も二もなく私は頷いた。バニーガールは嫌だった。だって、私は貧乳だ。耳と尻尾は生えても胸は大きくならなかった。

 私達はプログラスを出発した。次の国――マーチンまではバニー服しかないからそれで我慢することになる。

 バニーガールの衣装をばっちり着用し、私とアナは旅に出た。そして、一日も経たないうちに、私は狼に襲われて死亡した。アナは無事だったと思う。狼に体を食べられながらも、彼女が逃げる姿は確認できた。

 二度目の死を体験した私は、意識を取り戻した時、寒さで凍死するのではないかと思った。私の体は、葬儀屋でドライアイスに囲まれていた。

 慌てて起き上がった後のことは皆さんも周知のことだと思う。

 ――私は、弐本に戻ってきた。


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