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014 国家転覆

「アル兄さん……」


 ミーシャはそうつぶやきながら、森の道を歩んでいた。その手は逃げられないように、ケンネスによってしっかりと握られていた。ケンネスの大きくガサついた手に包まれたミーシャの手は小さく震えていた。


「他の男の名前を出すなよ」


 ケンネスが軽く皮肉めいた声で茶化す。ミーシャはうんざりとした顔で、ケンネスを見上げた。


「そう思うなら、おうちに帰してください……」

「それで帰せるんだったら端からミーシャちゃんのことを連れて行かねぇよ」

「うぅ……」


 ミーシャは涙をこらえて、下唇を震わせる。ケンネスはそんなミーシャを興味深げに眺めている。


「そもそも、アル兄さんはミーシャのこと探してるんですか?」


 突然、リオネルが二人に横から口をはさんだ。

 ミーシャはリオネルの意外な一声に思わず、「え?」と声を漏らす。


「だって、追いかけてくる気配もないですよ。普通もうちょっと」

「リオネル」


 リオネルの言葉をマーヴィンが遮る。その声は静かだが、確かな鋭さがあった。マーヴィンは青ざめてしまったミーシャの肩に手を置き、そっとささやく。


「気にするな、ミーシャ。アルはきっと探してる」


 マーヴィンの声は穏やかで、ミーシャの心のこわばりを解いてくれるようだった。しかし、それでもミーシャの不安は消えず、うなずくことしかできない。

ケンネスはその様子を鼻で笑う。


「ちょっと、ミーシャちゃんのこと甘やかしすぎじゃないですか?」


 マーヴィンは突っかかってくるケンネスに眉を顰める。


「何が言いたい?」

「つまり、もう少しミーシャちゃんに現実を教えてあげた方がいいんじゃないですか?」

「そんな必要はない」

「だって、彼女も共犯者になるんですよ?」

「ならない」


 ミーシャは穏やかではないその話に、思わず顔をあげる。そして、か細い声で問いかけた。


「共犯者って何の話ですか?」

「なんでもないんだ」

「なんでもないわけありません!」


 ミーシャはごまかそうとするマーヴィンをピシャリと一括する。すると、マーヴィンはしゅんと黙り込んでしまった。


「俺たちはエルビアータ王国を破滅させ、アゼリア王国を復活させること。それが目的だ。つまり……国家転覆を企んでるってことなんだよ」

「国家転覆……」


 ミーシャは茫然と、言葉を繰り返す。運命を変えるためとは聞いていたが、まさか。驚くミーシャにケンネスはニヤリと笑って言葉を続けた。


「ミーシャちゃん。君もそれに一枚かむってわけ」

「……国家転覆に!?」


 ミーシャはさっと青ざめる。そして薬指にはめられた指輪をとっさに外そうとするが、どういうことか、引っ張っても外れない。


「う、運命を変えるとかは聞いてましたけど、国家転覆なんて、私知りません! ま、マーヴィン」


 ミーシャはマーヴィンを責めるように睨みつける。マーヴィンはバツが悪そうに目を逸らした。


「ならない。俺がミーシャを誘拐したんだ。ミーシャが責められることはない」


 そう言って、マーヴィンは黙って歩を進める。ミーシャもその後を追おうとするが、ケンネスがその手をひいた。


「何ですか?」


 ミーシャは苛立ったようにケンネスを睨みつけるが、ケンネスはただ楽しそうに笑うばかりだった。


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