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013 マーヴィンと愉快な仲間たち


「落ち着け、リオネル」

「いいえ、落ち着いていられません。マーヴィン様、これは一体どういうことですか?」


 必死になだめようとするマーヴィンの声にもかかわらず、リオネルは水色の髪を振り乱し、怒りに燃えた瞳で、マーヴィンに詰め寄った。


「その少女はなんなんですか? それに、このひどい傷……」


 リオネルが険しい声で尋ねると、マーヴィンの背後から、赤毛のロングヘアを揺らしながら、ケンネスがふざけた調子で現れた。

 ケンネスは指でマーヴィンの脇腹の傷を軽くつつく。


「うっ、や、やめろ、ケンネス!」

「王子が悪いんですよ。ずっと待ってたのに、全然来ないんですから~」


 ケンネスはケタケタと笑い、手を止めない。マーヴィンは思わずケンネスを睨みつける。


「やめてくださいよ、ほんの戯れじゃないですか」


 ケンネスは震えるふりをし、おどけて見せながら、マーヴィンの傷口を手早く治療していく。

 マーヴィンはぼんやりと治療を受けながら、ぽつりと言葉を漏らす。


「ありがとう。お前たちにはいつも助けられてるよ」

「いいんですよ、王子……」


 ケンネスの言葉を受け、マーヴィンは小さく頷く。


「よくありません!」


 なにやらいい話風の雰囲気を放つ二人を遮って、リオネルは声を荒げた。そして、再びミーシャを指さす。


「ケンネスが騙されても、私はそうはいきませんよ。あの少女は、一体何なのですか!」


 リオネルの鋭い指摘に、ミーシャは恐怖に駆られ、無意識にマーヴィンの背後へと身を隠す。その瞬間、マーヴィンは反射的に彼女の肩に手を添え、「大丈夫だ」と優しくささやいた。

 その声は不思議なほど穏やかで、ミーシャの心に少しの安堵をもたらす。


「彼女はミーシャ……俺が、誘拐してきたんだ」

「ゆ、誘拐!?」


 マーヴィンの言葉に、リオネルは驚愕して目を見開く。


「誘拐って、彼女はエルフじゃないですか! 一体どこから」

「話はあとだ。……ミーシャ。俺たちと一緒に来てくれないか?」


 マーヴィンは膝をつき、ミーシャの手を取る。それはあの、誓いのキスの再現のようで——。ミーシャは思わず顔を赤くする。


「でも、私、魔法が使えないし」

「いいや、君はその指輪を使って見せたじゃないか。俺たちには、その力が必要なんだ」


 ミーシャはマーヴィンの視線に射抜かれ、口ごもる。


「……あれは……」

「頼む……」


 マーヴィンの視線は熱い。けれど、指輪をどう使ったかもわからないミーシャは返答に窮していた。

 リオネルはその様子を困ったように眉をひそめ、眺めている。とてもじゃないが、見ず知らずのエルフを連れていく気にはなれないのだろう。


「でも、私、どうやって指輪を使ったのかわからなくて」

「俺たちは一度も使えなかった」


 ミーシャはそれでもうなずこうとは思えない。

 だってアルが、ミーシャのことを心配しているだろうから。


「アル兄さんが、待ってるはずだから」


 そうつぶやいたミーシャの体がふわりと宙に浮かぶ。

 ケンネスがミーシャを抱きかかえたのだ。


「きゃっ!」


 ミーシャは思わず声をあげる。しかしケンネスはミーシャを下ろさない。


「どうせ誘拐してきたんでしょう。このまま連れていきましょうよ」


 そう言うと、ケンネスはズンズンと道を進み始める。


「あ、おいケンネス!」


 マーヴィンの叫びもケンネスには届かない。

 ケンネスは固まるミーシャの顔を覗き込み、にやりと笑う。


「なんだ、意外とかわいいじゃん」


 ミーシャは体を強張らせたまま、運ばれていくのだった。


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