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「そんな……」

「まあ、噂は噂でしか無い……な」

「そうですよ……そんな、実の父親と弟がお兄さんを手にかけるだなんて……」


 そう口にしつつ、エリスは思う。


 もし今のギルバートの話が本当だとして、シューベルトが既に人一人を手にかけているのだとしたら、自分を殺す命令を誰かに下したとしても何とも思わないのではという事だ。


「血が繋がっていようが無かろうが、何らかの邪魔になるならその存在を疎ましく思い、この世から消すという選択をする事もあると、俺は思っている」

「…………」


 そんなギルバートの言葉に、エリスは返す言葉が見つからなかった。


 実際身内に殺されかけたエリスだからこそ、何も言えなかったのだ。


「エリス、お前はこのままで良いのか?」

「え?」

「きちんと真実を知り、自分の居場所を取り戻すべきでは無いのか?」

「……出来る事ならば、そうしたいです……だけど、私は何も出来ない……私には、何も無いから……」


 ギルバートの言う通り、何故自分は殺されなければならないのか、それ程までに、シューベルトやリリナ、アフロディーテに恨まれているのか、そして、出来る事なら離婚をして父や母が愛したルビナ国へ帰りたい――それが、エリスの一番の望みだった。


「大丈夫だ、お前は一人では無い。俺が居る。必ずお前の力になると約束しよう」

「ギルバートさん……何故あなたそこまで、私に親切にしてくださるのですか?」

「それは…………俺が唯一愛した女に、よく似ているからだ」

「そう、だったんですね」


 ギルバートの話を聞いたエリスの胸は、何故かチクリと痛んだ。


 けれどそれには気付かないフリをする。


「……それではギルバートさん、お願いします、どうか私に力を貸してください。私は何故自分が殺されなければならないのかという理由を知りたいし、奪われた大切な居場所を、取り戻したいです」

「分かった。ならば俺は、必ずお前の助けになる。何があっても、お前を守り抜くと誓おう」

「ありがとうございます…………あの、今の私は何も出来ませんが、もし、全てが片付いて無事に自国へ戻る事が出来た暁には、必ず何かお礼をさせてください」

「そんな物は必要無いが、お前がそれで満足出来ると言うならば有難く受けよう」

「はい!」


 愛する自国の為に政略結婚をして、幸せとまではいかなくても、不自由無い暮らしを送るはずだったエリス。


 しかし約束とはまるで違っていて、夫には疎まれ、幽閉され、ほぼ自由の無い毎日を送らされた挙句、突如命を狙われ逃げ出す羽目になった。


 そんなエリスの前に現れた、人が苦手だというギルバート。


 傭兵をしながら生計を立てている彼は恐らく強いのだろう。


 何があっても守り抜くと誓いを立てたギルバートを信じ、全てを預けたエリス。



 こうして、成り上がりの復讐劇は静かに幕を開けたのだった。

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