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「――我が国の未来の為、これは世継ぎである貴方の使命でもあります。分かってくれますね?」


 説明を一任されたエルロットが話を終えてそうエリスに問い掛ける。


「……そんな、元はリリナに来た縁談で、私は王子からすれば邪魔者でしかないのに。王子はそれで納得しているのですか?」


 しかし、どうしても納得のいかないエリスは黙っていたアフロディーテへ問い掛ける。


「リリナには好きな時にいつでも会えるという条件を付けたら、エリスとの結婚を了承してくれました。だから問題は無いの。貴方はシューベルト王子の機嫌を損ねず、常に笑顔で暮らしていればいい、それだけで何不自由無い暮らしが送れるのよ? 素晴らしい事じゃない。タリムもきっと、娘の貴方の幸せを喜んでいるわよ」


 白々しい笑顔を向けながら、思ってもいない言葉を並べ立てるアフロディーテ。


 エリスはその笑顔で、全てを悟ったのだ。


 アフロディーテは厄介者である自分をこの国から追い出したいが為と、愛するリリナを手離したくないが為に自分を差し出すのだと。


 勿論断りたいエリスだったけれど、これはもう決定事項。


 父であるタリムが亡くなったその日から味方であった者は次々に辞めさせられ、肩身の狭い思いをしていたエリスにとって、断る事は出来ないと知っているからこそ、


「……分かり、ました……謹んでお受けいたします」


 そう答えるしか道は無いと全てを諦めてしまったのだ。



 エリスが縁談を承諾するや否や彼女の気が変わるのを恐れてか両家の間では、あれよあれよと話が進み、二ヶ月も経たないうちに挙式まで終える事になった。


 まさに電撃婚とも言えるシューベルトとエリスの結婚は、国内外でもかなりの話題になった。


 ただ、シューベルトの噂が噂だけに、誰もがエリスに同情していたし、周りはこれが政略結婚である事も分かってはいたが、それを口にするものは誰も居なかった。



 挙式を終え、夫婦となったエリスとシューベルトだが、二人の寝室は別々で、顔を合わせる事すら、一日に一度あるかどうかという間柄だった。


 そんな二人が共に寝起きしたのは、初夜の一度きり。


 処女だったエリスを無理矢理犯す形で欲望の赴くままに抱いたシューベルト。


 事が済み、彼女の身体を労る事すらせず、『妻になったくせに、夫である俺を満足させる事も出来ない女に用は無い。今後俺が誰と寝ようが文句を言う筋合いは無い』と吐き捨てて以降、エリスには指一本触れていない。


 そんなシューベルトは結婚してエリスという妻が居るにも関わらず、別宅に気に入った女を住まわせたまま結婚前と変わらず夜な夜な女を部屋へ連れ込んでは、朝まで楽しんでいた。

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