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第49話 魔法決闘!

クラヴェウス家と因縁のあるスクド家に会いに行く…。

そう決めたのだから、急ぎたいのは山々だけれど、授業は通常通り出席しなければならないのも事実である。


一応、学生だものね。

それに、サボっているとおばあ様に告げ口をされたら、元も子もない。


幸い、今日の予定はすべて、達成できそうだ。


提出しなければならない課題もないはずだし…。

一度、寮に戻ろうかしら。


「始まるわよ!」

「どっちが勝つだろうな!」


すれ違う同級生達の会話が耳に入り、大勢の生徒達が浮足立っているのに気づいた。


何かあったかしら?


そんな風を考えていた矢先、由緒ある学院の壁に敷き詰められたレンガが揺れた。

それもかなり激しく…。


この世界はありがたい事に地震という概念はなかったと思っていたのだけれど…。


とはいえ、マゴス復活が近いのだから、地割れなどの天変地異が起きてもおかしくはない。

しかし、その不安はすぐに消えていく。

広場の方で大きな歓声が上がるのが聞こえたからだ。


「どなたかが、魔法決闘マジックバトルをしているようですね」


何事もないように隣を歩いていたシエラが語った。


「このご時世に珍しいわね。魔法決闘だなんて…」



魔法決闘――


文字通り、魔法を使って戦闘を行う行為をさす言葉である。


通常は一対一だが、二対二で行われたり、それ以上の人数で団体戦を行ったりもする。

この世界ではよく知られた、いわゆるスポーツだ。

とはいえ、魔法を扱う技術に乏しい者が増える昨今、まともにバトルする者は稀である。


「この学院に入学してから、一度も見た事ないわ。てっきり、廃れたと思っていたのだけれど…」

「私もです」


シエラと二人で首を傾げる。


一体誰が?


あけ放たれた窓の向こうに空を舞う無数の岩と炎の渦がぶつかり合う光景が目に入る。


ああ、これはおそらく、殿下とハーランが戦っている。そう直感した。


忘れていたわ。魔法決闘はゲーム内で95%の確率で発生するイベントだったじゃない!

でも、肝心のマニエルがいないのに…。


少しのいら立ちが胸をかすめていった。





学院は魔法を扱うための施設が充実している。広場に設置された結界発生魔具もその一つである。

四方を取り囲む小さな球体はそれぞれを結びつけ、大小さまざまな空間を作り出す。

その中は一種のコートとなり、魔法が辺りに散らばらないようになっている。

そのため、周囲に集まった大勢の観客たちに魔法による攻撃が届く事はない。


興味を惹かれ、広場へと足を向ければ、戦いを見守るミルトンがいた。


「ああ、姉さん。来たのか」


先日の帰省から、弟の態度はかなり柔和された。

そのまなざしも家族に向けるそれへと変わった気がする。


なんだか、むずがゆいわ。


「すごい騒ぎね」

「そりゃあ、殿下とハーランが戦っているからね」


やっぱりね。


限られた陣地の中で、二人の青年が相対していた。


まるでゲーム画面を見ている気分だわ。


「殿下が最近、学院の空気が悪いって嘆いておられたからさ。景気づけに派手な事をやろうって話になって…」

「そう…」


学び舎にはおなじみの催し物は今年も開催されていない。皆、何とは言わないが、マニエルが亡くなった後、さらに暗くどんよりした物に変わった気がする。


それもそのはずよね。

だって、マニエルは正真正銘のヒロイン。


学院の歴史の中に埋もれ、久しくお目にかかっていない文化祭や魔法スポーツ競技を復活させるのは彼女だったのだから。マニエルをバカにした多くの生徒達も知らないのだ。亡くなった少女こそ、世界に光をもたらす存在だったのだと…。


私以外、誰も…。

悔しい。悔しいよ。ゆいな…。


「で、魔法決闘をしているってわけね」


それでも、何事もなかったかのように軽口を叩いた。


「発案者が殿下だとくれば、学院側もすぐOKするしな」


教師陣も学院長も王室には頭が上がらないものね。


岩石砲グラフォスオブス!」


パトリック王子が地面に手を置き、大声で宣言した途端、魔法陣が浮かび上がる。

その背後に無数の鋭く尖った岩が出現した。


この世界に生まれて数年。

魔法の形態はかなり複雑かつ、多様性に満ちている物であるとは知っている。

属性という言葉では言い表せないけれど、ゲームの知識だけを抜粋して語るなら、主要キャラ達はそれぞれ分かりやすい魔法の形態が設定されていた。


パトリック王子が得意としたのは土に属する力。そんな彼が畑仕事に魅せられるのは自然な流れだったのかもしれない。ただ、彼の魔法は土いじりのような柔らかく自然的な安らぎをもたらす物ではなく、岩石のような固くゴツゴツしたものを形成する事に特化していたと記憶しているけれど…。


目の前の光景を見れば、その設定が受け継がれているらしい。


炎剣ファイヤーソード!」


自らの元へと飛んでくる岩の刃をその剣で薙ぎ払っていくハーランはさすが騎士の風格だ。

研ぎ澄まされた鋼の剣には微量の炎が纏われている。

彼に与えられた才能は炎を操る力だ。戦いに特化したその魔法はそこらの貴族では太刀打ちできない。平民の中から誕生した真の天才だと設定されていた。


「はあっ!」

「やっ!」


その後も、魔法や剣の応酬が続いていく。

そのたびに歓声が上がっていた。


さすが、攻略対象達。


モブとは違って魔法力はピカイチなのよね。


魔法決闘の勝敗は互角だろう。

ゲーム内ではマニエルへの好感度が高い方が勝利する。


でも、この勝負はどうなのだろう?


集まった生徒達は皆、興奮し、輝いていた。


無意識のうちにマゴスの闇に浸食され、喜びが薄れていた生徒達を救うのはマニエルだったのに…。


世界は彼女がいなくても回り出している。その事実にとても寂しくなった。


「危ない!」

「えっ!」


突然、耳元で切羽詰まった弟の声にハッとした。


目の前まで炎に焼かれ真っ赤に染まった岩屑が迫っていた。


とっさの事に体が動かない。

恐怖で背筋や足先が冷たくなっていく。


心拍数が上昇し、息が苦しい。


避けられない!


ソフィアは衝撃にそなえた。

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