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お狐さま物語
水都
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年09月03日
公開日
45,577文字
完結
両親を亡くした樫ノ木ことはは、親戚のうちで暮らすことになる。
しかし、そこは「お狐さま」と呼ばれる不思議な家で・・・

第1話


「行くとこがないなら、うちに来なよ」


お母さんのお葬式の日、初めて会った叔父さんにそう言われた。



物心つく前にお父さんが死んじゃって、ずっとお母さんと暮らして来た。

でもそのお母さんも先月死んじゃった。私の小学校卒業を待たないで。


お葬式にはお父さんの方の親戚が来てくれて、私の今後を話し合った。

どこの家も子供がいたり仕事があるから、私を完全に引き取ることはできない。

数ヶ月ごとに親戚の家を転々とすることに決まりかけた。


でもお葬式に、お母さんの弟2人がきてくれた。私から見ると叔父さんだ。

お母さんに兄弟がいるっていうのは聞いてたけど、会うのは本当に初めて。

家に来るよう言ってくれたのは、お母さんのすぐ下の弟・千里せんりさんだった。


そして卒業式の次の日、私は電車に乗ってお母さんが生まれ育った家に向かってる。

窓の外に流れる山がどんどん近づいてくるのにしたがって、お客さんはどんどん降りて行く。

ついに、車両には私1人。


『次は終点、狐ヶ峰きつねがみね村駅。狐ヶ峰村駅です。お忘れ物にご注意ください』


アナウンスが聞こえて来て、私は網棚に上げてたリュックを下ろした。

リュックのチャックが少し開いていて、そこからするんと1枚のカードが滑り落ちる。


「うわっ、危ない危ない」


慌てて拾い上げて汚れをはらう。

桜の花のカード。病院のベッドで、お母さんが最期にくれた桜の花を押し花にして作ったもの。

お母さんの形見だ。


今度はリュックの奥に入れて、しっかりチャックを締める。

電車がガタンと止まって、ドアが開いた。


『ご乗車ありがとうございました。終点、狐ヶ峰村駅。狐ヶ峰村駅です』



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