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〈凛空〉第1話

 秘密でも基地でもないものを、秘密基地と呼んでいたことがある。

 始まりは小二の夏だった。放課後の帰り道、純太に「ついてこい」と手を引かれたんだ。純太には強引なところがある。初めて会ったときから、ちっとも変わっちゃいない。

 その純太に案内されたのは、近所の雑木林だった。

 二人で遊歩道を歩く。雑木林マップと書かれた看板を目印に、遊歩道から逸れる。小さな池を避けて、背丈ほどある草むらをかき分ける。不思議な感覚だった。初めて来た場所なのに、前にも訪れたことがあったような気がしたんだ。

 しばらく進んだところで、「どこまで行くんだよ」と純太に声をかけた。

「焦んな。もう着いた」

 純太がどこかを指をさす。そちらに顔を向けると、ひときわ大きな木が立っていた。両手で抱きつけないほど太くて、背伸びしても届かないほど長い。周りの木々と比べても、この木だけが異様に巨大だった。

凛空りく」純太が、僕の名前を呼んだ。「ここを、俺たちの秘密基地にしよう」

 すぐさま頷いた。秘密基地という言葉の響きが、鉄琴の音色みたいに、僕の中で残響していた。

 とはいっても、これは二人だけの秘密じゃなかった。正確には二人と一匹の秘密。純太が飼っている柴犬のマロンも、秘密基地の存在を知っていた。

 マロンにとって、雑木林はとっておきの散歩コースだったらしい。軽快な足取りで草むらをかき分けて、秘密基地に着いたら、木に向けて小便を引っかけていた。トイレだと勘違いしているんじゃないだろうか。

 また、マロンがおしっこをした場所に、純太が上書きすることもあった。

「俺が上書きしたから、秘密基地は俺のもんだぞ」

 小便で縄張り争い。僕は「くだらないよ」と苦笑いを浮かべながら、純太といると楽しいな、と純粋に感じていたものだ。控えめで内気な僕と違って、純太は明るくて愉快なムードーメーカー。僕たちは、クラスでの立ち位置も真逆だった。

 純太が羨ましかった。

 僕にはないものを持っていたから。失くしたものを持っていたから。

 僕たちは、色々なものを知って大人になる。漢字を書いて、数式を解いて、用語を暗記する。知識を蓄える。テストで知識を披露すれば、大人が褒めてくれる。

 でも、それでいいんだろうか。

 時々、こんなことを考える。

 知識を蓄えるためには、元々脳みそに詰まっていたものを、どこかに捨てる必要があるんじゃないかって。

 それは前触れもなく捨てられて、自分自身すら捨ててしまったことに気付けないんじゃないかって。

 僕は、自分の知らないどこかで、大切な記憶を捨ててしまった気がしてならないんだ。

 だから純太が羨ましかった。純太は、まだまだ子供なんだから。


「久しぶりに、秘密基地に行かないか」

 放課後の教室で、懐かしい単語を耳にした。

「話したいことがあるんだ」

 純太の声だ。きっと僕に話しかけているんだろう。でも、一応辺りを見渡しておいた。会話の対象が自分じゃなかったら、とても恥ずかしくなるからだ。

「お前しかいないだろ、凛空」純太が口角を上げる。「秘密基地のこと、忘れちゃいないだろうな」

「忘れるもんか。あの雑木林の木だろ」

 教室には僕たちしかいない。純太が相手なら、言葉を崩しても大丈夫だ。

「そう、あの木だよ。で、どうなんだ。行けるのか?」

 純太は、自慢のツーブロックをいじりながら訊いてきた。

「七時から塾があるんだけど……」

「なら余裕だな」

 教室の時計は、午後四時を指し示している。確かに時間はあるけど、放課後に二つも予定が入ると、どうにも落ち着かない。

「場所は分かるだろ。マロンを連れてくるから、先に向かっててくれ」

 そう言い残して、純太は教室から出ていってしまう。僕は「ウン」とも「イヤ」とも言っていないのに。

 とはいえ、幼馴染を秘密基地に放置できるほど、僕は非情な人間じゃない。ただ、家に帰る時間はないから、夜ご飯は塾が終わった後になってしまう。それだけが心残りだった。

 黒色のランドセルを背負う。教室のカーテンを閉めて、電気を消す。忘れ物がないか確認して、六年一組の教室を後にする。

 廊下ですれ違った先生に、「さようなら」と深くお辞儀をした。学校で教えられたことだった。頭を下げたから、整えたマッシュが乱れてしまう。

 玄関を出て、いつもとは違う道に進む。雑木林に寄るためだ。最後に雑木林を訪れたのは、四年の冬だろうか。だから一年半ぶりになる。久々の秘密基地に胸を躍らせながらも、しかし塾の前に遊ぶなんて、と自分を責め立てたくなってしまう。

 数分歩いて、雑木林に到着する。一人で立ち入る雑木林というのは、お化け屋敷のように不安を掻き立てるものだった。今までは純太と一緒だったから、この恐怖から逃れることができたんだと知った。

 遊歩道を歩く。足元を照らす木漏れ日。午後四時とはいえ、まだ太陽は沈まない。もしも今が夜だったらと思うと、背筋がゾクゾクしてくる。暗闇は苦手なのだ。

 木製の立て看板が目に入る。雑木林マップと書かれていた。これが目印だ。辺りを見渡して、人がいないことを確認する。一応「秘密基地」なんだから、誰かに後をつけられるのはよくない。右、左、後ろ。誰もいない。満を持して遊歩道を逸れる。

 道として整備されていないからか、足元には、腰ほどに長い草が生い茂っていた。数年前までは、こんな雑草に足を取られていたものだ。

 身長が伸びた今だからこそ、落ち着いて進めるけど。

 歩いていると、小さな池が現れた。あまり良い気はしない。というのも、この池で溺れたことがあるからだ。いつかは覚えていないけど、でも確かに溺れたんだ。

 僕が暗闇を苦手に感じるのは、この池で溺れたせいだった。水の中は視界が遮られる。必死にもがいても、這い上がれないという恐怖。今でもたまに夢に見る。

 その夢では、いつも誰かが僕を助けてくれた。手を差し伸べてくれた。

 その誰かの正体を掴めないまま、僕は朝を迎えるんだ。

 でも、心のどこかで分かっていた。僕を助けてくれるのは純太しかいないって。

 池を避ける。草むらを進む。視界が次第に暗くなってきた。日が傾き始めたんだろうか。自然と急ぎ足になる。一人じゃ不安だ。一刻も早く秘密基地に向かおう。

 純太のやつは、どうせ僕よりも早く着いているんだろう。勉強はからっきしできないけど、遊びに関しては誰よりも真剣なやつだ。僕が言うんだから間違いない。

 しばらく進んだ。そろそろ着いてもおかしくないと思っていると、案の定「凛空」と、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。声の方向に目を遣ると、僕たちの秘密基地が見えた。昔と変わらない姿で高くそびえている。変わってしまったのは、きっと僕たちの方だろう。

「遅いじゃないか」純太は太い枝に腰掛けている。「どこで道草食ってたんだよ」

「これでも急いだ方だよ」

 僕が駆け寄ろうとすると、純太は「ほらっ」と何かを投げた。その何かは、空を切って、一直線に僕の元へと向かってくる。受け止めてやろうと思い立ち、右手を振るった。パシッと心地良い音が鳴った。

「さっきまで、こいつでマロンと遊んでたんだ」

 純太が投げたのは、青と白の入り混じった色をした紙飛行機だった。よほど長い間遊んでいたのか、至る所に土と草がこびりついている。

 これは純太なりの皮肉なんだろう。遅いじゃないか。どこで道草食ってたんだよ。

 申し訳なくなった僕は、「遅れてごめんよ」と愛想笑いを浮かべた。

 足元から、荒い息遣いが聞こえた。マロンだ。僕の足元をくるくると回って、興奮したように振る舞っている。きっと遊びたいんだろう。

 そこで、秘密基地の方向へ紙飛行機を投げてやった。マロンは、跳ねるように地面を駆ける。まだ高い位置にある紙飛行機を、何度もジャンプして掴もうとしている。

「凛空、隣に来いよ」純太が手招きしてきた。「登れないとは言わせないぜ」

 強引なやつだ。僕は呆れたように笑いながらも、純太に従うことにした。

 ランドセルが重くて邪魔なので、木のそばに置く。それから登り始めた。表面がザラザラしていたから、一度も滑らなかった。太い枝に左手をかけて、差し伸べられた純太の手を握る。「お前、重いな」という軽口にうんざりしながらも、どうにか体を持ち上げて、純太の隣に座った。

 丁度、日が沈み始める頃合いだった。「塾の時間、大丈夫か」と純太が訊いてきたから、「なんとかなるでしょ」って答えた。今は塾のことなんか考えたくない。遊びは遊び、勉強は勉強。メリハリは大事だって先生が話していた。だから大丈夫、だと思う。

 僕は「ねえ」と純太に呼びかけた。

「話したいことがあるって、言ってたよね」

「ああ。言った。言ったよ」純太が頬を掻く。

「なんだよ。話したいことって」

 沈む太陽がそうするように、純太も顔をそむけた。

「秘密基地、もう終わりにしようって思って」

 僕が真っ先に感じたのは、悲しみでも怒りでもなかった。

 そうだよな、という諦めだった。

 この一年半、僕は秘密基地に来ていなかった。そんな秘密基地、あってもなくても変わらない。それに、僕と過ごすこと自体に意義を感じなくなったのかもしれない。純太は教室にも居場所があるんだから、わざわざ僕と過ごすために秘密基地を使う必要もない。

 はっきりとしていることは、純太は秘密基地を邪魔だと思っているってこと。

「なんっていうかな、ええっとな」

 純太が俯く。きっと言葉を選んでいるんだろう。僕を傷付けずに、僕と離れるための言葉を。それを面と向かって話してくれるのも、正直で優しい純太らしい。

「大人になる。うん、この表現が近いかな」

 ただ、純太から「大人」という単語が発せられたとき、僕は首をかしげずにはいられなかった。一度は「そうだよな」で諦めたことが、どうにも諦めきれなくなった。だって、あの純太が「大人」と言ったんだ。

 あべこべだ。どこまでも子供だった純太が、大人に近付こうとしているんだ。

「俺、大人にならなきゃ、って思って」

「理解できないな」たまらず口を挟んだ。「秘密基地を終わらせることが、大人になるってことなのか?」

「分からない。でも、秘密基地って、なんか子供っぽいだろ」

 子供で何が悪い。

 言いかけた言葉を、また飲み込んだ。子供であり続けたい僕と、大人になりたい純太は対極にいるんだ。真逆の立場なんだ。だから分かり合えない。食い違った意見をぶつけたら、純太とも離れ離れになってしまう。

 だから、僕は「そうかもしれない」と同調する姿勢を見せた。そもそも、僕に選択権はない。最初に秘密基地を見つけたのも、僕を誘ったのも純太だ。言い出しっぺが終わらせたいと主張するなら、従ってやるのが僕の役目なんだ。

 分かっていた。それができれば苦労しないってことも含めて。

「でもさ、どうして大人にならなきゃいけないんだよ」

 問わずにはいられなかった。純太の考える大人が知りたかった。何も知らずに、ただ振り回されるのは不服だ。純太の頭を覗くことも、純太の考える大人を否定することも、親友である僕だけの特権だと思うんだ。

「教えてほしい」

 純太は、顔を上げたかと思うと、僕の方へ向き直った。

「できないんだ」純太が言った。「みんなができることが、俺にはできない」

「できない、って」

「勉強は人並み以下。運動だって、特別できるわけじゃない。遊びすぎだって、親に叱られてさ。『大人になれ』って言われたんだ」

「お前にはお前の良さがある」僕は躍起になる。「クラスでも意見が通るし、小さな頃から剣道をしてる。それに優しい。マロンだって、あんなに懐いてるじゃないか」

 僕が名前を呼んだからか、紙飛行機を咥えたマロンが寄ってきた。もっとも、枝の上にいる僕たちには触れられないけど。

 マロンは、遊んでほしそうに上目遣いをしている。無視をするのは心苦しいけど、今は純太を励ますのが先だ。

「僕はな、お前を何度も羨ましいって思ったことがある」

「俺も同じだよ。凛空が羨ましかった」純太がため息をついた。「勉強はできるし、自分の価値観を持ってる。中学受験もするんだろ? すげえよ、お前。俺の知らない世界に、どんどん足を踏み入れてさ」

 要するに、僕たちはお互いに嫉妬していたらしい。だから秘密基地を終わりにする、って考えは、僕にはあまり理解できなかったけど。

 マロンが吠える。二、三度繰り返す。遊んでもらえないのが腹立たしいんだろう。それから、マロンは拗ねたように、ぷいとどこかに行ってしまった。

「マロン、もう十六歳になるんだよ」

 十六歳。犬にしては高齢だ。こんなこと言いたくないけど、いつ死んでもおかしくない。今は元気に走り回っているけど、僕たちが小二だった頃と比べれば、だいぶ衰えたように思える。

 純太の話によると「犬は人間よりも早く歳を取る」らしい。僕たちの一分は、マロンの一週間。僕たちよりも、一日の価値が貴重なんだという。

「散歩」純太が、ぽつりとこぼす。「マロンがいなくなったら、秘密基地に寄ることは、もうないんじゃないかって思ったんだ」

「それは、ええっと」

 上手く言葉が出なかった。別れ話でもされているような気分だった。

「凛空は塾で忙しい。かといって、他のやつらを秘密基地に呼んだら、もう秘密じゃなくなっちまう。ここは、俺と凛空とマロンの秘密基地なんだ」

「僕の受験が終わったら、また寄れるかもしれない」

「いいや、そうは思わない」純太が首を横に振る。「中学校に入ったら、今よりもっと忙しくなる。勉強だって難しくなるんだろ。それなのに、秘密基地に行くなんて無理だ」

「僕が教えるよ」

「無責任だ。別々の中学になるかもしれないのに」

 別々の中学。秘密基地を終わらせるには充分すぎる打撃だった。言わないように我慢していた。だけど、純太の口から出てしまった。

「秘密基地で勉強しよう」

 それが無謀な提案だってことは、僕だって分かっていた。こんな草むらの中で勉強できるわけがない。それに、僕自身が思っているじゃないか。遊びは遊び、勉強は勉強って。

 だから、僕は発言を取り消さなきゃいけなかった。「ごめん。今のは忘れて」

「そうか」純太は顔を上げた。「そうだな」

 沈みゆく太陽が、秘密基地の終わりを暗示しているように見えて、どうにも心苦しかった。一年半も来ていなかった秘密基地を、こうも失い難く感じているのは、秘密基地の存在が当たり前になっていた、という一番の証拠なんだと思う。

 汗の滴る蒸し暑さも、隣にいる純太の体温も、全部忘れて前を向く。大事なものを置き去りにして、僕たちは大人になる。

 望んじゃいない。今、僕の手からこぼれ落ちそうなものは、僕が子供でいるために必要不可欠なものだ。夢なんだ。これ以上手放したくないんだ。

「凛空」

 吐息のような声だった。

「やっぱり、大人なんかになりたくない」

 黙って肩を組んでやった。こんなことで秘密基地を守れやしないけど、一番近くにいる親友には寄り添ってやれると思ったんだ。

 どれくらいの間、そうしていたかは知らない。太陽はまだ姿を見せている。塾も間に合う、と思う。でも、お腹が空いてきた。僕の腹時計が指し示すには、今は午後五時だった。

 それとなく、今まで放置していたマロンの行方が気になった。辺りを見渡す。マロンはいない。遠くに行ってしまったのかと思ったけど、何かが通った形跡のある雑草も見当たらない。

「近くにいると思うんだけどな」

 純太が、躊躇なく地面に飛び降りる。間髪を入れずにマロンを探し始めた。僕は「すごいな」と呟く。高い所から迷わず飛び降りて、それを普通だと思っているところ。そういうところが羨ましい。

 僕はというと、木の幹を経由して地面に降り立った。もっと昔なら、純太のように飛び降りたんだろう。今は恐怖が勝ってしまう。

「まずいぞ」純太が駆け寄ってくる。「マロンがどこにもいない」

 そんなはずはない。木を一周しながら、不安げに周りを見る。いない。もう一回繰り返したって、結果は同じだった。

 もしかして、あの池に落ちたんじゃないか。

 脳裏に浮かんだ推測を、すぐに振り払った。ここから池に行ったとしたら、踏み倒した草が目印になる。そもそも、秘密基地から池まではそこまで近くない。

 じゃあ、どうして僕は池のことを思い浮かべたんだろう。ちょっと考えて、すぐにやめた。マロンの行方を知る方がずっと大事だからだ。

 一度深呼吸した。最悪の事態を考えないためだ。きっとマロンは近くにいる。僕たちを驚かせるために、わざと隠れたのかもしれない。そんなことあるわけないけど、死を連想するよりは、よっぽど良い。

 深呼吸というのは、思ったよりも効果のある行動だった。さっきよりも落ち着いていられる。心なしか、視界が広くなったような気がした。この状態なら、マロンを見つけられるかもしれない。

 気を取り直して、三周目。足を踏み出そうとしたとき、ふと木の根っこが目に入った。

 根と根の間に、人が入れそうな空洞がある。

 踏み倒された草もなければ、他にマロンが向かいそうな場所も考えられない。この中にマロンがいるかもしれない。希望が見えてきた。

 問題は、空洞の中が暗闇だったことだ。少し息が苦しくなる。そこで、僕は一旦引き返した。純太を呼ぶためだ。

 近くにいた純太に空洞の存在を知らせる。あいつはたいそう驚いた様子で「その空洞とやらに案内してくれ」と促してきた。

 空洞を目にした純太は、マロンのことなど忘れたように、目を輝かせていた。

「秘密基地の中に、こんな隠し通路があったなんて」

「さっきまで『大人がどうこう』って語ってたやつとは思えない」

 僕の軽口を無視して、純太は空洞へと立ち入った。僕も続く。暗闇は怖いけど、一人で雑木林に取り残される方がよっぽど不安だったからだ。

 空洞の中は、焦げ茶色の土で覆われていた。身長の低い純太には丁度良い空間だけど、僕の場合は屈まなくちゃいけなかった。天井からは細い根が伸びている。床は緩い下り坂のようだ。滑り落ちることはないと思うけど、ちゃんと足元を見ないと、バランスを崩してしまいそうだった。

「暗いなあ」純太が不満を垂れる。「どこまで続いてるんだろうな」

「マロン、奥に行きすぎて帰れなくなったのかも」

 奥に進むにつれて、太陽の光が薄れる。空気が薄く感じる。一歩一歩を踏みしめないと、んでしまいそうだ。壁に手を当てながら、ゆっくりと歩きたい。でも、純太がどんどん先に行ってしまう。だからペースを合わせざるを得ない。

「なんだ、これ」

 暗闇に目が慣れてきたとき、純太が足を止めた。そして屈む。何かが足元に落ちているらしい。

「紙飛行機、だよな」

 純太が僕に歩み寄り、右手を突き出す。何かを見せてくれているらしい。だけど暗くてよく分からない。

 そこで、その何かを手でまさぐってみる。土と草がこびりついた翼、鋭利な先端。

 確かに紙飛行機のような形状をしている。

「やっぱり、マロンは奥にいるんだよ」僕は声を弾ませた。

「じゃあ、もっと奥まで続いてるってことか」

 純太が走り出した。思うに、純太はマロンよりも空洞の方に興味が向いているんじゃないだろうか。子供っぽいやつだ。そのまま変わってほしくないな。

 置いていかれたくないので、僕も後を追うことにした。紙飛行機をズボンのポケットに差し込んで、できる限りの急ぎ足。暗闇を全力疾走できるほど、僕の肝っ玉は丈夫じゃなかった。

 ト、ト、ト、ト。駆ける足音は、次第に遠ざかっていく。やがて、全く聞こえなくなってしまった。孤独を実感してしまう。

「純太あ」情けない声が出た。「置いていくなあ。怖いんだよお」

 返事はなかった。僕の声が反響するだけだ。自分自身の声は、恐怖を消すには心もとなかった。

 暗闇で一人ぼっち。意識して呼吸することで、息苦しさを紛らわせる。来た道を戻ったとしても、僕は一人だ。進むしかない。

 震える足を動かして。コツ、コツ。足音が僕の背中を押してくれる。

 目が慣れてきたのか、だんだん空洞が明るく見えてきた。足元すらままならなかった空間は、いつしか周りの状況まで確認できるようになっている。土壌の層や、床の石畳の色まで。

 ここで気が付く。どうして石畳が敷いてあるんだろう。それに、純太の足音は、ト、ト、だった。僕の足音は、コツ、コツ。

 おかしい。僕と純太は同じメーカーのスニーカーを履いているし、空洞は一本道だったはずだ。足音が変わるなんて、そんな摩訶不思議があるんだろうか。

 歩いていると、光が差し込んできだ。まるでトンネルから出る瞬間のようだ。足元が照らされて、膝、腰、胸。

 急に眩しくなる。目を開けてはいられない。手で目を覆い、指の隙間から前を見る。

 なんだか地面が柔らかくなった気がした。ちらりと足元を見ると、くるぶしほどの草が生い茂っていた。どうやら外に出てきたらしい。

 目が慣れてきたので、手を下ろす。

 視界に飛び込んでくるのは、一面に広がる草むらだ。

 振り返ると、秘密基地にそっくりな木がそびえ立っていた。中心には穴が空いていて、僕たちはそこから出てきたようだった。

「凛空っ」純太の姿もある。「どうなってんだ、これ」

 僕は「分からない」といった具合で肩をすくめた。僕たちが立っているこの場所は、どうやら丘の上らしい。空を見上げると、限りなく太陽に似た惑星もある。少し遠くに目を遣ると、三角屋根の家が建ち並んでいた。住宅街だろうか。

「凛空の足音が聞こえなくなったと思ったら、こんなところに出てきてさ。マロンもいないし、理解が追いつかないよ」

「でも、紙飛行機があったってことは」僕は、ポケットの紙飛行機を取り出す。「マロンも、このあたりにいるんじゃないかな」

 自分の冷静さというか、不思議な出来事への無頓着さに驚いた。打ち明けて言うと、空洞に入ってからこの場所に至るまでに、マロンを見つけることしか考えていなかったんだ。

 これが大人になるってことなんだろうか。ただ単に、僕が夢を見ることを諦めただけなんだろうか。今はまだ分からない。

「とりあえず、あそこに行ってみようぜ」

 純太が指をさしたのは、さっき見かけた三角屋根の家がある方向だ。人を探して、聞き込みをするつもりだろう。

 僕も賛成だった。このまま秘密基地に戻っても、事態が変わるわけじゃない。

「よし、競争なっ」

 純太が駆け出した。あまりに突然だった。出遅れてしまう。スタートの合図くらい言ってくれよ、と毒を吐く。

 これじゃあ絶対に勝てない。走りには自信があるけど、勝ち負けが明らかなのに競い合いたくはない。でも、体裁は保ちたい。再び紙飛行機をポケットに入れて、遅れてでも走り出そうとする。

 そのとき、視界の隅に、ログハウスのような建物があるのを見つけた。足を止めて、凝視してみる。誰かがいるようだ。

 カーテンの隙間から、白くて長い髪が揺れ動いているのを見る。背筋をピンと伸ばして、柔らかい目で空を見上げている。大人の女性だろうか。

 一瞬、目が合ったような気がした。慌てて顔をそむけた。なんだか恥ずかしくなった。

「凛空、遅いぞお」

 純太の声だ。そうだ、僕たちは競争していたんだ。

 あのログハウスから逃げるように、僕は走り出す。足を振るって、手を動かす。体を動かせば、気分が晴れると思ったんだ。

 そう、気分が晴れると思った。つまり今はモヤモヤしているってこと。窓越しから見たあの人の姿が、ずっと忘れられなかった。

 姿形は人間だった。仕草だって、人間以外の何者でもなかった。

 でも、鼻だけが真っ黒だったんだ。


 あの黒い鼻は、見間違えじゃなかった。

 案の定、例の競争は純太の勝利で終わった。だけど、次の瞬間には、勝敗なんてどうでもよくなっていた。鼻の黒い人間のような生物が、僕たちを取り囲んでいたからだ。

 姿は限りなく人間だけど、人間と呼ぶには振る舞いが異質だった。上半身をゆらゆらと揺らして、今にも倒れそうだ。背筋を伸ばしていたログハウスの住民とは、全然違うといってもいい。

 身長はまちまちで、純太より小さな者もいれば、僕より大きな者もいた。全員がローブのようなものを身にまとっている。赤や黄、オレンジといった、派手な色ばかりだ。それが流行なんだろうか。

 彼らは、僕たちを指さして「サピエンスだ」と口にした。誰かが言えば、次々と「サピエンス」と呟く。中には、手を合わせて拝む者もいた。不思議で不気味だった。僕と彼らは、一度も会ったことがないはずなのに。

 そのとき、ゴロゴロという下品な音が鳴った。僕のお腹からだ。そういえば、お腹が空いていたんだった。視線が集中して、どうにも恥ずかしい。「すみません」と頭を下げる。

「謝ることはありません」緑のローブの人が言った。「こちらをどうぞ。腹の足しにしてください」

 差し出されたのは鶏肉だった。「ササミじゃないか」と純太が声を上げる。僕も驚いたけど、声は出さなかった。失礼だと思ったからだ。

「ササミは、お口に合いませんか」緑のローブの人が、怪訝そうに尋ねてくる。

 僕は首を横に振って、「そうじゃないですよ」と愛想笑いを浮かべた。

「腹の足しと言われたので、てっきりチョコレートか何かかと思ってしまいました」

「チョコレートですって」声を張り上げたのは、赤いローブの人だ。「サピエンスの皆様に、そのような毒物を差し上げるわけがないでしょう。失礼な……」

 周囲がざわつく。チョコレートという単語が、どうも気に障ったようだ。「我々には理解できない」とか「見下されているのかしら」とか、思い思いのことを口にしている。僕が必死に弁明しても、まったく聞いてもらえない。

 いよいよ場の収拾に困ったとき、「どのような騒ぎですか」と、よく通った声が聞こえた。

「チョコレート、と聞こえました。チョコレートの売買は禁止されています」

 人混みの中から現れたのは、ローブではなく、黒いテールコートを着た青年だった。顔だけ見れば、高校生か大学生にも見える。背筋は伸びており、シュっとした鼻は黒い。センターパートの黒髪。ちょっと威圧感がある。

「ああ、なるほど。サピエンスの皆様がいらっしゃったのですね。ならば仕方ない」

 その青年は、僕たちを見るなり、礼儀正しく頭を下げた。

「サピエンスの皆様。ようこそ、アムネルの国へ」

 驚きよりも、困惑が勝った。アムネルという国は、学校でも塾でも習っていない。世界地図にも載っていなければ、暗記した覚えもない。

 純太も同様のようで、「そんな国があるのか」と僕に耳打ちしてきた。知らないものは知らないので、「聞いたことない」と純太に返す。

 青年は、僕を真っ直ぐと見つめた。僕は怯みそうになる。

「ぼくはチロルと申します。以後、お見知りおきを」

 チロル。美味しそうな名前だな、と思う。すると、純太が「美味しそうな名前だな」と口走った。咄嗟に純太の頭を小突く。仮にそう思ったとしても、口に出したらダメだ。

 幸いなことに、チロルは温厚だった。「そうでしょう」と微笑むだけで、僕たちに危害を加えようとする意思はないようだった。

 話が逸れないうちに、自分たちも名乗ることにする。「僕は凛空です。こっちが純太」

「凛空さんに、純太さん。どうぞよろしく」

 チロルが握手を求めるので、素直に応じた。なんだかぷよぷよする手だ。次に純太が握手すると、案の定「ぷよぷよする」と口を滑らせていた。あいつ、思ったことをなんでも話すらしい。

「肉球です。ファミリアである我々の特徴ですよ」

 どうやら、チロルたちはファミリアという種族のようだ。これを踏まえるに、僕たち人間はサピエンスという種族なのだろう。

 他にも訊きたいことはあるけど、不必要に横道に逸れるのはよくない。僕たちはマロンを探しに来た。自己紹介が済んだなら、すぐに本題に入るべきだ。

「あのっ」僕が切り出す。「僕たち、犬を探しているんです」

「犬、ですか」

 チロルが眉をひそめる。周りのファミリアたちも、訳が分からないといった様子で、辺りをキョロキョロ見回している。

「申し訳ございません」チロルが頭を下げる。「犬というのは、多分、我々が知らないものかと。特徴や材質を教えてくだされば、可能な限り探してみます」

 どうやらチロルは、犬を物体か何かと勘違いしているみたいだ。四足歩行で哺乳類ということを伝えても、いまいちピンとこないらしい。アムネルでは生息していないのかもしれない。それでも、犬の存在くらいは知っていてもおかしくないと思う。

 僕が困り果てていると、純太が「なあ」と耳打ちしてきた。

「犬とファミリアって、先祖と子孫の関係なんじゃないか?」

「まさか」耳を疑う。「なんでそう思ったのか教えてくれよ」

 まず、純太はファミリアたちの黒い鼻を指さした。

「犬もファミリアも、鼻が黒い」

「確かに」僕は頷く。

 次に、上半身を揺らしているファミリアに注目するよう言われる。

「ファミリアは、元々四足歩行だったんだよ。でも、まだ進化が完全じゃないから、上半身をフラフラさせてるんだ」

「進化」すぐに言葉の真意を見出す。「そうか、犬からの進化か」

「そう、犬からの進化」純太が顔をほころばせた。「ササミを食うのも、チョコレートを毒物みたいに扱うのも、ファミリアが犬の子孫だからだよ」

 こいつ頭いいな、と素直に思った。勉強しかできない僕とは違う。勉強ができないと言っていたくせに、勉強以外のところで頭が回るのは、結構ずるい。

「そんで、チロル」

 純太が話し始める。僕は話し手じゃないから、一歩下がっておこう。

「探してる犬の特徴なんだけど、柴犬って言っても分からないよな。そうだなあ。まず、ファミリアと一緒で鼻が黒い」

「鼻が黒い、と。ファミリアに似てますね」

「似てるどころか、ご先祖様だぜ」純太が苦笑する。「あと、あれだ。全体的にきつね色で、結構小さめ。すぐ見つかると思うよ。四足歩行だから」

 一匹のファミリアが噴き出した。「下品なご先祖様だな」と、他のファミリアも笑いを押し殺す。どうやら、アムネルにおいて四足歩行は下品な行為らしい。ファミリアたちが、不安定な上半身を揺らしてでも二足歩行にこだわる理由が、少しだけ分かった。

「おいおい、笑ってくれんなよ。俺の家族なんだから」

 諭すように話す純太も、さほど嫌そうな表情はしていない。

「四足歩行、ですか。なるほど。興味深い。ぼくの家で詳しくお聞かせください」

 考える素振りもなく、純太は二つ返事で受け入れた。純太が行くとなれば、僕もそうせざるを得ない。知らない土地で一人ぼっちになるのは勘弁だ。

 かくして、僕たちはチロルの家に向かうこととなった。

 チロルを先頭に、僕たちは歩き出す。道行くファミリアたちの視線を集める。鼻というのは、それほどまで注目される部位なんだろうか。

「知ってるか、凛空」純太が喋り出す。「犬が挨拶をするときって、お互いの鼻をツンツンするんだ。ファミリアにとっても、鼻ってのは重要なものなんだろう」

 なるほど。そこで手で鼻を隠してみると、今度は怪訝な面持ちで見られてしまう。手を避けると、「サピエンスだ」とファミリアの目を引いてしまう。

 僕はあまり目立ちたくない。ペンで鼻を黒くしたいものだ。

「そういえば、サピエンスのお二方」

 先頭を歩いていたチロルが、顔だけをこちらに向けた。

「宿はありますか。なければ、うちに泊まるといいでしょう」

 塾があるから泊まれない、とは言い出せなかった。ここで帰ってしまったら、マロンが見つかる確率は下がる。かといって、マロンの捜索を純太一人に任せたくもない。僕たちがマロンを見失ったんだ。だから僕だけイチ抜けってのは許されない。

「凛空、これってお泊まり会だよな、なっ」

 純太もはしゃいでいるようだ。だから「そうだよ、お泊まり会だ」と返した。これで逃げられない。塾や家には明日にでも謝ろう。

 それよりも、一刻も早くマロンを見つけなければいけない。チロルの後を歩きながら、辺りを見渡してマロンを探す。

 しばらく歩いていると、ファミリアの数が多くなってきた。建物も密集しているように見える。もはや三角屋根の家はなく、代わりにレンガの集合住宅が八割方を占めている。残りの二割は雑貨や食料を売っているお店のようだ。

 チロルに訊いたところ、ここがアムネルの市街地なんだという。住宅の他にも、自警団の施設や闘技場があるらしい。闘技場があるなんて物騒な国だ。チロル曰く、自警団が怠けているから闘技場ができてしまったそうだ。治安は大丈夫なんだろうか。

「さっきの場所よりも、なんだか臭いな」

 そう言って、純太が鼻を摘まむ。僕もそうしようとしたとき、臭いの正体に気が付いた。

「これって、おしっこの臭い?」

「ええ、そうです」チロルが顔をしかめた。「公営のトイレはあるのですが、数が少ないもので。そもそも、ファミリアは場所を選ばずに用を足す文化があります」

「嫌な文化ですね」僕が同調する。

「いやいや、仕方ないよ」純太が言った。「犬は、トイレを場所じゃなくて臭いで判断してるんだ。目より鼻がいいからな。だから、ひとたび誰かがションベンしたら、そこが丸ごとトイレになっちゃうってわけ。ファミリアも同じだろ?」

 チロルは深く頷いた。さすが純太だ。犬のことならなんでも知っている。

 感心したのはいいものの、臭いが消えるわけじゃない。それどころか、下校前にトイレに寄り忘れたことを思い出した。いつもは寄っているのに、今日に限って、早く秘密基地に行かないと、という意思が先行してしまったんだ。

 尿意を我慢しながら、近くにトイレがないか見回す。視界に入るのは、レンガの家と生鮮食品。こんな小便臭い場所で食べ物なんか売るなよ、と心の中で思う。

 路上で用を足すファミリアを見かける。チロルは「近くにはトイレがないですからね」と諦めたように笑う。

 嘘だろ、と言いかけた。近くにトイレがないなんて、利便性もクソもない。じゃあ、僕も路上で用を足すしかないんだろうか。困ったものだ。恥ずかしい。

「凛空」純太がささやく。「顔色が悪いけど、大丈夫か」

 嘘はつけない。正直に「おしっこがしたいんだ」と伝える。

「でも、近くにトイレはないんだもんなあ」

 純太は、腕を組みながら「どうすっか」と声を漏らす。必死に考えてくれているんだろう。デリケートな話題だからか、チロルに相談もしなかった。

 そのまま数分ほど歩き続けて、建物も疎らになってきた。市街地から少し外れてきたんだろう。あとどれくらい歩くんだろうか。体力的には問題ないんだけど、そろそろ我慢の限界がきそうだ。恥を承知で、チロルを呼び止めようとする。

 純太が「そうだ」と手を打ったのは、そのときだった。間髪入れずに、僕に耳打ちしてくれる。

「路地裏があるじゃないか。そこなら、ファミリアもいない」

 なるほど、確かにそうだ。ファミリアも一匹や二匹はいるだろうけど、大勢に見られるよりかは幾分ましだ。純太の案に賛成することにした。

 チロルに勘付かれないように、そっと列を外れて、さっと路地裏に入った。

 純太が時間を稼いでくれているとはいえ、急がなくてはならない。さっきの、顔をしかめていたチロルが脳裏に浮かぶ。路上で用を足したことがバレたら、チロルは僕を軽蔑するんだろう。嫌われたくない。誰かに嫌われるのは怖いことだ。

 角を曲がり、純太の姿が見えなくなった。ここなら大丈夫だろう。ファミリアの気配もない。ズボンを下ろして用を足す。

 大きくため息をついた。肩の荷が下りたような気がした。

 慣れないことや、知らないことばかり起こる一日だ。僕はどうしてここにいるんだろう。何をしているんだろう。排泄をしていると、答えのないことばかり頭に浮かぶ。修学旅行で泊まった宿のトイレでも、同じことを考えたものだ。

 大人になりたくない。大人になれば、トイレにいるのように現実的な日々が、何年も何年も続くんだろう。そんなの望んじゃいない。僕は夢が見たい。子供のままでいたい。

 下半身に溜まっていたものを、ようやく出し尽くした。だいぶ気持ちが晴れた。清々しいとまではいかないけど、少なくとも歩きやすくなった。

 純太には気を遣わせてしまった。早く戻らないといけない。歩こうとして、足を踏み出す。

 その足が、宙に浮いている。

「サピエンス」

 後ろから首を掴まれていた。

 体が宙に浮く。足がつかない。走れない。逃げ出せない。

 前からも、二匹のファミリアが姿を見せる。どちらも灰色のローブを着ていた。鼻はやはり黒く、しかし肌は土っぽい濃褐色。

 こいつらは、さっきのファミリアとは違う。目つきも、オーラも、何もかも。

「飛んで火に入る夏の虫。言い得て妙だ」

 二匹のファミリアが、腰に差していた黒色の木刀を構えた。

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