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さよならのマテリカ
阿部狐
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年09月02日
公開日
121,626文字
完結
子供のままでいたいと願う凛空(りく)と、早く大人になりたがる純太(じゅんた)。二人は森林公園にある大木を秘密基地としていた。
ある日、純太が飼っている柴犬のマロンが、大木の空洞へと入り込んでしまう。その空洞は、鼻の黒い人間のような生物――ファミリアが住む、アムネルの国へと通じていた。
空洞に消えたマロンを見つけるため、二人はアムネルの国へと迷い込んでいく。

〈凛空〉プロローグ

 紙飛行機で空を飛びたかった。

 こんな夢を掲げたのは、いつだっただろうか。少なくとも、漢字や足し算を覚えるよりも前だ。物心がついたときには、既に思い描いていた夢のような気もする。五歳の頃には、僕はとっくに夢追い人だった。もっとも、五歳以前のことが思い出せないだけに過ぎないけど。

 僕には大量の夢があった。入道雲を食べたかった。海をオレンジジュースにしたかった。悪を打ち砕くヒーローになりたかった。紙飛行機で空を飛びたかったのも、その一つ。

 十二歳になった今、夢はほとんど諦めている。雲は水蒸気だから食べられない。海をジュースにするのは不可能だ。

 ヒーローは、僕じゃなくたっていい。純太じゅんたの方が似合っている。

 小学校で、あらゆることを学んだ。知識を蓄えた。現実を知った。そのたびに、僕の夢は音を立てて砕けた。粉々になって、二度と戻らなくなった。

 それでも、紙飛行機で空を飛びたかった。無理だと分かっていても、受け入れたくなかった。夢を諦めることで、現実に近付くのが怖かった。現実を知ることで、夢を忘れたくなかった。

 大人になりたくなかった。子供のままでいたかったんだ。

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