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悠(男性側)視点

幼馴染ってのはいつからを幼馴染っていうんだろうな。

小学校?幼稚園?それ以前?

俺の場合は文句無しで幼馴染だ。なにせ物心ついた時から一緒だ。


「おはよう」

「あ、おはよう」


今日も窓越しに幼馴染とあいさつする。

あいつが幼馴染の鈴木優。そして俺は鈴木悠。

図ったように同じ名前だけど偶然らしい。


窓越しに、と言ったけど俺の部屋の窓は隣の家の窓と密接している。

……いや、ほんと。なんで自分の部屋から隣の家の窓をノックできるんだよ。

でも窓なんて作らずに壁でよかっただろと思うことはない。


「って馬鹿、いつも言ってるけどちゃんとカーテンしめて着替えろ」

「え、だって見てるの悠くんだし」


すぐカーテンを閉める。そう、優は女の子だ。

黒髪ロング前ぱっつんのいかにもおとなしそうな見た目と性格なのに巨乳。

男子の間でもトップクラスの人気がある。


昔から優は平然と俺の前で着替えるけど

少しは恥ずかしいとか思ってほしい。

たしかに一緒にお風呂に入っていた時期もあるけど今は体つきも違う。

大きくなったおっぱい、キュッとしまったウエスト、きれいな形のお尻。

それが目の前で惜しげもなく晒されるのに耐えられる訳がない。

こっそりオナニーのおかずに使っているのは内緒だ。


「今日も暑いねぇ」

「そうだな」


いつも玄関先で待ち合わせしている。


「はい、お弁当」

「ああ」


いつものように優からお弁当をもらう。

母親曰く「昼食代出すのももったいないし作るのも面倒」だそうで、

優がまとめて作ってくれることになったそうだ。

ただ優が作ると人参を必ず混ぜるのは勘弁してほしい。

止めてくれと言っても必ず入れてくる。へんな所で頑固だ。


「たまには私に炒飯作ってほしいな」

「わかった、また今度な」


優はたまに俺の炒飯を要求する。

他の料理は優に全然勝てないけど炒飯だけは自信がある。


料理を最初に始めたのは俺だった。

優においしいものを食べさせたいという一心だったな。

見様見真似の慣れない手つきで炒飯を作った。

調味料の分量間違えて辛かったし焦げてもいたけど

優が「すごくおいしいよ」といってくれた時は感動した。


その後、練習を重ねてまともな炒飯を作れるようになった。

それを食べた時の優の満面の笑顔は今も忘れられない。


でも優が料理を覚えるとすぐに俺より上手くなった。

味付け、盛り付け方、手際の良さ、どれをとっても上。

優にはそんな意識はないだろうけど、

格の違いを見せつけられた気分だった。

だから俺は炒飯に特化することにした。

それなら優に少しは追いつけたから。


「そろそろ部長が決まるね」

「誰になるだろうな」

「悠くんだったりして」

「ないな」


俺と優は美術部だ。

優の似顔絵を描きたくて入部したんだったな。

俺が入部したら優も入ってきた。

優はあっという間に上手くなって、

県のコンクールで何度か金賞を取っている。

俺は優秀賞が一度だけだ。

線の繊細さと色使いの鮮やかさが特徴で綺麗な絵だ。

とても俺には描けない。


一度優から「私を描いてくれないかな?」と言われたけど、

俺の技量ではきっと優の綺麗さを表現できない。

だから「もっと大きくなったらな」と誤魔化した。

いつかもっと絵が上手くなったら優を描きたい。



雑談をしながら一緒に登校する。


優はあいかわらず半歩後ろに下がって付いてくる。

これでも昔よりましになったものだ。

昔は「悠くん、悠くん」と言いながら後ろを付いてきていた。

そんな優を守ってやるのが俺の役目だった。

それがいつからだろうな、優が一人で何でも出来るようになった。

もう俺の庇護なんていらない、むしろ俺が助けてもらうことの方が多い。


「おは」

「おはよう」

「相変わらずいつも仲いいな」

「ほんと、ほんと」


教室につくと幼馴染の智人と麻衣が声をかけてきた。

智人は文武両道で顔も良い完璧超人みたいな男だ。

麻衣は姉御肌でみんなのおかんみたいな女、

こいつを敵に回すと女子の半数以上が敵に回る。

……優も才色兼備でこの中では俺だけが普通だ。


「兄妹みたいなもんだからな」


智人ならともかく俺は優と釣り合わない……。

幼馴染だから一緒にいられるだけ。

その距離感を間違えてしまうときっと優に引かれるだろう。


「まああんたたちよく似てるしね」

「どこがだよ」

「私なんて悠くんとは全然……」


俺なんて優とは比べ物にならねぇよ……。


そんな話をしながらそれぞれの席につく。

さて今日の一時間目はっ、と。

すると智人が小声で話しかけてきた。


「なんでも一緒に始めるんだから恋愛も一緒に始めたらどうだ?」

「それが出来たら苦労しねえよ」


遠くでニコニコ笑いながら麻衣と話している優は日に日に美人になっている。

小さいころからいつも一緒だった。

何か始めるのもいつも一緒。

でもすぐあいつの方が上手くなる。

必死に努力しても追いつくことすらままならない。

幼馴染という点しか取り柄がないのに好きになってもらえるとは思えない。


昼休みは智人と一緒に屋上で食べている。

暑いと思われて避けられてるけど、

風がけっこう来るし日陰もあるのでそこまで悪い環境でもない。


「また愛妻弁当か。うらやましい」

「麻衣に頼めよ」

「あいつが作るタマか?絶対面倒だとかいうぞ」

「まあな」


智人と麻衣は付き合っている。

美男美女カップルで有名だ。

智人から告白してあっさりOKもらったらしい。

うらやましい限りだ。

俺も優と付き合いたいよ……。


「あ、悠くん」


俺と智人を見つけると小走りで近づいてくる。

こういう仕草も人気の一つだ。


「今日の部活は行くの?」

「ああ」

「なら一緒にいこうね」

「わかった、わかった」


放課後、一緒に部室に向かう。

部室につくと顧問が来ている、珍しいな。


「えー、来期の部長を決めました」


あ、それで来てたのか。誰になったかな。


「来期の部長は鈴木さんね」

「えっ、私?」


優が驚いている。まさか優が選ばれるとは。

実績的には問題ないけど性格的に選ばれないと思っていた。

でもまずいな。

優は人を仕切ったり交渉したりすることに慣れていない。

それをフォローできる人間が副部長になるかは分からない。

……俺がやるしかない。


「俺が副部長に立候補していいですか?」

「ん、構わんぞ。他に立候補はあるか?」


誰も出てこない、当たり前だ。

本来順当に実力がある人物を顧問が選ぶんだ。

自分から立候補、それも実力が劣る人間がするなんてまずない。

しかも本来選ばれるだけの実力がある人間が立候補しても勝てないだろう。


「鈴木くんにお願いしたいです」

「なら決定ね。W鈴木で部長と副部長よ」


優なら俺を選ぶからだ。

優の性格的にあまり交流がない人よりなじみのある人を選ぶ。

だからもし智人が立候補しても同じように選んだと思う。


「わかってた」「あーあ、やっぱり幼馴染特権かよ」「実力もないくせに」


小声で文句を言っているのが聞こえる。

たしかにその通りだ。俺の実力じゃ副部長になんて選ばれない。

優に選んでもらったから副部長になれただけだ。


「ありがとう、悠くん。私一人じゃ心細くて」

「そうだろうと思ったよ」


それでも優の助けになりたかった。

その結果として俺が何を言われても構わない。


・・・


部活が終わって優と一緒に家に帰っている。


「明日からはテニス部の合宿なの」

「大変だな」

「お弁当は作れないね……」

「気にすんな」


常に一緒のことをしているわけじゃない。

テニス部にはいっているのは優だけだ。

俺が始めたわけじゃなく優が率先して始めたんだ。

優から聞いたときは

(あの優が大きくなって……)

とお祖母ちゃんみたいな気持ちになったもんだ。


・・


部室の鍵の管理は原則部長が行う。

ただ部長の優が合宿でいない間は、

副部長の俺が部室の鍵を管理している。

加えて後輩数人が昼休み・放課後・休日と部室を使いたいと言うので、

今週はずっと部室にいることになった。


そして昼食の時間、購買で買ってきたパンを部室で食べる。

何となく屋上に行く気にならなかった。


「珍しいっすね。パンすか」


後輩の澪から声をかけられる。

澪はちょっと茶髪のショートで活発な女の子だ。

そしてなによりおっぱいが大きくて優といい勝負ができる。

よく動いてよくおっぱいがゆれるので男子からも人気が高い。

たまたま絵の指導をしたことがきっかけで仲良くなった。


「優が明日まで合宿でな。なので明日もパン決定だ」

「……明日土曜日なのに作ってもらう気だったんすか?」

「そういえばそうだった」


いつも作ってもらっていたから忘れてた。

優はこういうときも作ってくれるんだよな。


「作ってもらうことに慣れすぎっすよ」

「本当にそうだな」

「……優先輩と付き合ってるんすか?」

「そんなわけ無いだろ」


いつかは付き合いたい。でも俺が釣り合うかは……。


「なら明日はあたしがお弁当作ってきていいっすか?」

「え」

「優先輩いないですし」

「そうだけど」

「幼馴染ってだけでお弁当作らされるのって嫌だと思うんすよ」


たしかに……。

今まで当たり前のように作ってもらっていたけど、

わざわざ俺の分だけ作ってくれてたのか。

俺の母親から頼まれたにしても、

そこまでやってもらってるのは迷惑だったな……。


「あたしは先輩にお弁当作りたいっす」


・・・


部活から帰宅後


優が帰ってくるのは明日か。

そう思っていると窓がノックされた。


「悠くん……」

「あれ?合宿は明日までじゃなかったのか?」

「学校の都合で今日までになったの」

「そうなのか」


だとするとまずい。

優にお弁当いらないって言わないといけない。

そう言おうとした時に、もっと衝撃的な言葉が優の口から出てくる。


「悠くん、私……デートに誘われたの」


とうとう来てしまった。優のかわいさを考えれば遅いぐらいだ。

でも……俺が何か言っていいのか……?


「いいんじゃないか?一度ぐらいデートしてみるのもさ」

「悠くんはいいの?」


いい訳ないだろ……。

でも付き合ってもないのに「デートしないでくれ」なんて言えるわけがない。


「俺が決めることじゃねーし」

「そう……かな。ちょっと考えてみるね」


嫌だ。考えないですぐ断ってくれ!!そう言いたい。

でも……優からすればただの幼馴染の俺が言うことじゃない……。


「あ、しまった。あの、優……その、タイミングが悪いんだけど」

「どうしたの?」

「明日美術部に行くけどお弁当いらない」

「珍しいね、どうしたの?」


言うのは気まずい……。まさかデートの話とかぶるなんて……。


「いや……後輩に澪っているだろ。彼女がお弁当を作ってくれるって……」

「え……」

「いや、お前が合宿でいないから作ってあげようか?って言われて……」

「そう……わかった」

「じゃ、じゃあまた明日な」

「うん、バイバイ」


優がデート……。他の男と……。

その場面を想像したくないのに想像してしまう。

そのまま眠れない夜をすごした。


・・・


次の日のお昼、屋上で澪と昼食だ。


「はい、どうぞっす」


二段重ねのお弁当箱だ。

中を開けてみると一段目は炊き込みご飯。

二段目は玉子焼き・唐揚げ・ハンバーグ・とんかつ。

みんな好きなおかずだ。

しかもどれも出来合いの品じゃない。手作りだ。

きっと夜の内から準備してくれたんだろう。


……でも優なら玉子焼きともう1品ぐらいで野菜を入れてくるな。

栄養バランスが偏るからといって。きっと人参も混ぜるだろうな。

前なんかハンバーグに刻んで混ぜてきたよな。

「きのせいだよー」ととぼけていたのがかわいかった。


「先輩、どうしたっすか?」


澪から声をかけられる。

しまった、考え事をしていて澪を見ていなかった。


「おいしかったっす?」

「ああ、すごくおいしかった。これはいいお嫁さんになるな」

「いやぁ、お嫁さんなんて照れるっす」


いやんいやんという仕草をしているのはかわいい。

自分のかわいさを理解しているからこそ出来る仕草だな。

優もやったらかわいいだろうに絶対しないんだよな。

自分のかわいさを理解してないんだろう。

一度無理にでもやらせてみようかな。

そんなことを考えていたから澪の決心に気づかなかった。


「先輩が好きっす。次もお弁当作ってきていっすか?」


突然の告白。軽い口調だけど顔は真剣だ。

すごくかわいい。でも……。


「ごめん……もう作ってもらっても食べられない」


やっぱり優が好きなんだ。

澪と付き合ったとしてもさっきのように優と比較してしまう。

それは澪に対して非常に失礼だ。いや、最低と言っていい。


「そっすか……」

「すまん」

「先輩と優先輩、二人とも好意に気づかないあたり、似た者同士っすね」

「それはどういう……」

「失敗を恐れて勝負する前から諦めるのが先輩の主義っすか?」


何も言い返せない。まさにその通りだった。

優から直接何か言われたわけじゃないのに諦めていた。


「ほら、後は片しておくので先輩はさっさと行ってください」


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悠が去った後


「ずるいっすよね、生まれたときから一緒とか勝てるわけないじゃないっすか」「不戦敗より戦って負けるほうがいい、でも……勝ちたかったっす……」

「ふええーーん」


大きな泣き声が響く。

そんな彼女が優に振られた彼と付き合うことになるのはまた別のお話。


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そうだ、このままじゃいつまで経っても告白なんて出来ない。

全てで追いつけなくても優が望む部分だけ追いつけば良い。

そしてそれは優しかわからない。

自分で前に進まないと先はわからない。


窓をノックする。


「優……」

「悠くん……」

「優、お前に言いたいことがあるんだ」

「私も悠くんに言いたいことがあるの」



「「I love 優(悠)」」



「「……」」

「「ぷっ、あはは」」

「どうしておんなじなんだよ」

「悠くんこそどうしてそれなの?」

「そりゃあ優に対しての告白なんだからこれしかないだろ」

「私もこれしか思いつかなかったの」


幼馴染だから一緒にいてくれるんだと思ってた。

あくまで幼馴染としての「好き」なんだと。

でもそうじゃなかった。


「智人くんと麻衣ちゃんの言ったとおりだったね。似た者同士って」

「さすが幼馴染だな」

「ねぇ、そっちに行っていい?」

「いいぞ、ただしちゃんと玄関からな」


その間に部屋を片付けておこう。

ぶっつけ本番で告白って感じで何も準備してなかった。

けっこう時間がかかったけどまだ優は来ない。

どうしたんだろうか。

あ、ようやく優が来た。


「どうした?遅かったけど」

「うん、悠くんのお母さんと話してたの」

「ああ、なんか気づいてそうだな」

「そうだね、泊まっていきって言われたよ」

「モロバレじゃねぇか」


なんで優が来ただけでそこまでばr……あ、優の姿めっちゃ気合入ってる。

お風呂上がりのいい匂いもする。

極めつけは俺のあげたハイビスカスの髪飾りを付けている。

特別な時しか付けないことは親も知っている。

これは誰がどう見てもわかるわ。


「悠くん……」

「優……綺麗だ」

「ありがとう、悠くんもカッコいいよ」


どちらからともなく目を閉じて唇を合わせる。

しっとりとした唇で弾力がある。

これがキス…。


すぐに優が唇を離してこちらの目を見てくる。

優が直接言わないけど何かを欲しがる時の目だ。


・・・


いろいろあった後。


駄目だ、気持ちよすぎた。ちょっと休憩。

ベッドに寝転ぶと優が俺の腕を枕にして懐に来た。

昔っからこの体勢好きだよなぁ。


「優?」

「嬉しいの、ずっと妹扱いだと思ってたから」

「昔はたしかにそうだったよ。でも今は女の子として好きだよ」

「むー、私はずっと男の子として好きだったよ」

「そうなのか!?てっきり幼馴染的な好きだったと思ってた」

「着替えも見せてたのに全然反応してくれないし」

「わざとだったのかよ、お前俺がどれだけ我慢したと」

「我慢せず襲ってくれることを期待してました」


いやいやいや、女の子が言っていいセリフじゃないだろ!?

というか、女として見てるなんて言ったらドン引きされると思ってた。

優に勝てる部分なんてない。ただ幼馴染ってだけなんだから。


「俺なんて何をやっても優に勝てないしいつか見捨てられると思ってた」

「そんなこと思ってたの!?」

「ほら、副部長に立候補した時も周りからはさんざんに言われたんだぞ」

「全然知らなかった……」

「それぐらい俺と優じゃ差があるんだよ」

「そんなことないよ。他の人が何を言ってもそれは私が決めることだよ」

「そうだな。それに仮に差があっても埋めればいいんだ」


勝手に決めつけて諦めるんじゃなくて、

きちんと向き合わないといけないんだ。


「悠くん……」

「愛してるよ、優。結婚……しような」

「うん……私も愛してるよ。ふつつか者ですがよろしくお願いします」

「こちらこそ不甲斐ない男ですがよろしくお願いします」

「「ははは」」


次の日の朝、全裸でコーヒー飲もうとしたら

大事な部分にこぼしてえらいことになった。

幸い優は足にこぼしたと思ってくれたようなのでよかった。


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週明けの月曜日、

手を繋いで登校する二人を見て智人と麻衣が状況を察する。


「ようやくくっついたか」

「ほんとようやくだね」

「はたから見てたらどう見ても両思いのくせにな」

「本人以外はみんな知ってたね」

「雨降って地固まるか」

「雨側の子はかわいそうだから残念会を開こうと思うの」

「……ちゃんと二人の気持ちは慮ってやれよ」


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こうしてふたりのゆうはようやく自分の気持ちを言うゆうことが出来ました。

めでたしめでたし。


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