幼馴染はいつからを幼馴染っていうんだろうね。
物心ついたときから一緒だったっていうのは間違いなく幼馴染だよね。
「おはよう」
「あ、おはよう」
今日も窓越しに幼馴染とあいさつする。
彼は鈴木悠くん。そして私の名前は鈴木優。
まるで双子のような名前だけど特に血縁はない。
そして私の大好きな人。
さっき窓越しに、と言ったけど私の家には他には類を見ない特徴がある。
なんと隣の家とほとんど距離がないのに向かい合うように窓があるの。
窓から窓に移動だって出来ちゃう。
「って馬鹿、いつも言ってるけどちゃんとカーテンしめて着替えろ」
「え、だって見てるの悠くんだし」
あ、カーテン閉じちゃった。
赤くなってすぐカーテンを閉める悠くんはかわいい。
でも昔からリアクションは変わらず妹みたいな扱い。
いつになったら女の子として見てくれるかな。
「今日も暑いねぇ」
「そうだな」
悠くんとはいつも玄関先で待ち合わせ。
小さいころからずっと一緒に学校に通っている。
「はい、お弁当」
「ああ」
今日も悠くんにお弁当を渡す。
実は悠くんのお母さんに頼み込んで作らせてもらっている。
ママから「男は胃袋を掴むのが一番」と教えてもらったから。
悠くんは玉子焼きが大好物なので必ずいれる。
唐揚げとかとんかつとかの揚げ物も好きなんだけど、
栄養バランスが偏るからたまにしか入れてあげない。
嫌いな人参も細かく刻んでポテトサラダに混ぜる。
こうでもしないと食べないんだから。
「たまには私に炒飯作ってほしいな」
「わかった、また今度な」
料理は元々悠くんが始めたものだ。
お母さんがいない時に勝手に食材を使って
見様見真似で炒飯を作っていた。
「出来た、食ってみろ」
所々焦げてるし少し辛い。
けど悠くんが私のためだけに作ってくれた料理。
「すごくおいしいよ」
「そうか」
少し照れたように答える悠くん。
後で親にばれてこっぴどく怒られたけど大事な思い出だ。
悠くんはそこから練習を重ねて改めて私に炒飯を作ってくれた。
その炒飯は感動するぐらいおいしくて虜になった。
でもどんなに自分で作ってみてもその味は再現できない。
悠くんにコツを聞いたけど「食べたいなら作ってやるよ」と言われた。
だからこうやってたまにお願いする。
でも味も良いけどやっぱり悠くんが私のために作ってくれるのが嬉しい。
「そろそろ部長が決まるね」
「誰になるだろうな」
「悠くんだったりして」
「ないな」
私と悠くんは美術部だ。
悠くんが入ったので私も真似したくて入部した。
悠くんはいろいろなものを描くのが好きだけど、
どの絵を見ても魂がこもっている気がする。
それに対して私の絵はただ綺麗なだけ。
テクニックこそ褒められるけど、
情熱が伝わってこないと言われる。
悠くんに一度「私を描いてくれないかな?」といったら、
「もっと大きくなったらな」と言われた。
一体どこの大きさのことを指してるのか。
もう十分育ってると思うんだけどな。
雑談をしながら一緒に登校する。
悠くんと一緒に歩くこの時間が大好きだ。
昔はなんでもかんでも「悠くん、悠くん」だった。
頼んだときは見た目嫌そうにするけど必ずやってくれる私のヒーロー。
でもある時、友達の麻衣ちゃんから
「悠に頼りすぎ、そんなんじゃ捨てられるよ」と言われた。
そこから努力してある程度自分で出来るようになった。
少しは悠くんと並ぶことは出来たかな。
「おは」
「おはよう」
「相変わらずいつも仲いいな」
「ほんと、ほんと」
教室につくと幼馴染の智人くんと麻衣ちゃんが声をかけてきた。
智人くんも麻衣ちゃんも幼稚園からの付き合い。
いつも4人一緒でなんでもやってきた。
「兄妹みたいなもんだからな」
それを聞くと少し寂しい。
悠くんはいつも私を妹扱い、
いつかは悠くんの彼女になりたい。
「まああんたたちよく似てるしね」
「どこがだよ」
「私なんて悠くんとは全然……」
私なんて悠くんの足元にも及ばないよ……。
麻衣ちゃんとおしゃべりしながら席につく。
「で、今日はどうだったの?」
「全然。あいかわらずすぐカーテン閉められちゃう」
「いっそ告白しなよ」
「そんな、無理だよ……」
悠くんが好き。
それこそ物心ついたときには好きだった。
私の知らない世界に手を引いて連れて行ってくれる。
いつもそばにいてどんなときも助けてくれる私の王子様だ。
麻衣ちゃんの言うように悠くんの彼女になりたい。
悠くんの隣に並んで歩きたい。
でももし告白して断られたら……。
隣どころか後ろを付いていくことすら許されないかもしれない。
そんなことになったら私は耐えられない。
妹扱いでも一緒にいられる今を捨てる勇気が出ない。
昼休みは麻衣ちゃんと一緒に教室で食べている。
「いつも頑張るねぇ。大変でしょ?」
「おいしいって言ってもらえるだけで十分だよ」
「うーん、けなげっ」
麻衣ちゃんが私に抱き着く。
「麻衣ちゃんこそ智人くんに作ってあげなよ」
「えー、面倒」
麻衣ちゃんは智人くんと付き合っている。
智人くんから告白したらしい。
聞いた時はうらやましいと本気で思った。
私も悠くんから告白されたい……。
「あ、悠くん」
屋上から降りてくる悠くんと智人くんを見つけた。
「今日の部活は行くの?」
「ああ」
「なら一緒にいこうね」
「わかった、わかった」
放課後、一緒に部室に向かう。
部室につくと顧問の先生が来ている。珍しいな。
「えー、来期の部長を決めました」
あ、そうだった。
「来期の部長は鈴木さんね」
「えっ、私?」
うそ、私が部長……。そんな大役を私が……。
どうしよう、私出来る気がしない。
でも顧問の先生が選んだってことは断れないよね……。
おろおろしていると悠くんが声をあげた。
「俺が副部長に立候補していいですか?」
「ん、構わんぞ。他に立候補はあるか?」
悠くん!!
悠くんが副部長になってくれるなら……。
「鈴木くんにお願いしたいです」
「なら決定ね。W鈴木で部長と副部長よ」
「ありがとう、悠くん。私一人じゃ心細くて」
「そうだろうと思ったよ」
私が困っている時はいつも手を引いて助けてくれる。
悠くんと一緒ならどんなことでも立ち向かえる気がする。
・・・
部活が終わって優と一緒に家に帰っている。
「明日からはテニス部の合宿なの」
「大変だな」
「お弁当は作れないね……」
「気にすんな」
明日からはテニス部の合宿だ。
その間は悠くんと会えない、正直寂しい。
でもテニスは自分で始めたことだ。
悠くんの後についていくだけじゃなくて、
自分でも新しいことを始められると伝えたかった。
私が自分からテニス部に入ると悠くんに言ったときは
すごく温かい目で応援してくれたのは嬉しかったなぁ。
・・・
合宿は男女混合で行っている。
もちろん部屋も個々の練習も別だけど、
フリーの時間は男女混じっているの。
「先輩、調子はどうですか?」
後輩の圭くんが声をかけてきた。
彼は一年下で爽やかな笑顔が人気な子。
でもたまたま一回指導しただけの私になぜか懐いてる。
「まずまずかな、圭くんはどう?」
「絶好調」
そういいながらラケットをぶんぶん振り回している。危ないよ。
「聞きましたか?合宿が一日短縮されるって話ですよ」
「え、聞いてない」
でも悠くんに会えるのが一日早くなるからいいかな。
そんなことを考えていた私に突然爆弾が落とされた。
「先輩、短縮されて空いた日俺とデートしませんか?」
・・・
合宿から帰宅後
「悠くん……」
「あれ?合宿は明日までじゃなかったのか?」
「学校の都合で今日までになったの」
「そうなのか」
「悠くん、私……デートに誘われたの」
どうしよう、断った方がいいよね?
「いいんじゃないか?一度ぐらいデートしてみるのもさ」
「悠くんはいいの?」
え……、悠くんは私が他の人とデートしてもいいの……?
やっぱり妹としか見てくれていないの……?
「俺が決めることじゃねーし」
「そう……かな。ちょっと考えてみるね」
断れって言ってほしい。でもこれ以上は未練がましいよね……。
いつも悠くんの後ろをちょこちょこ付いていく妹なんて彼女にできないよね。
「あ、しまった。あの、優……その、タイミングが悪いんだけど」
「どうしたの?」
「明日美術部に行くけどお弁当いらない」
「珍しいね、どうしたの?」
「いや……後輩に澪っているだろ。彼女がお弁当を作ってくれるって……」
「え……」
「いや、お前が合宿でいないから作ってあげようか?って言われて……」
澪ちゃん……、悠くんと仲いい後輩だよね……。
ちょっと茶髪のショートで活発な子。悠くんの好きなタイプ。
私とは……違う……。
もう私のお弁当は……必要ないのかな。
「そう……わかった」
「じゃ、じゃあまた明日な」
「うん、バイバイ」
悠くんがお弁当を作ってもらう……。他の子に……。
ショックで何も考えたくない。そのまま圭くんに連絡する。
「デートいいよ。時間いつからにしようか?」
・・・
待ち合わせ場所に着くと既に圭くんが待っていた。
「あ、先輩。おはようございます」
「おはよう、はやいね」
「楽しみすぎて早く来すぎました」
私服で見るとすごくかっこいい。
智人くんと並んでも見劣りしないんじゃないかな。
私じゃ釣り合ってない気がするけどいいのかな?
「すごくかっこよく決めてきたね」
「そうですか!!ありがとうございます!!」
まっすぐな返事がかわいい。弟がいたらこんな感じなのかも。
「今日はどこに連れて行ってくれるのかな?」
「定番ですが映画に行きましょう」
「どれ見ますか?お勧めは~~」
いろいろとお勧めしてくれる。
その中からよさそうだと思った恋愛ものの映画を選んだ。
悠くんと一緒だと恋愛ものってあんまり見る機会ないしね。
・・・
「よかったですね」
「うん、そうだね」
「あの場面は~~」
「ほらほら、しっかり前を向いて歩かないと」
男の子って自分がよかったと思うことは一生懸命喋るよね。
そういう所はかわいいと思う。
悠くんなんてたまに呼吸困難になってるし。
「おや、露店がありますね」
「珍しいね」
「見ていきませんか?」
「おもしろそう」
アクセサリーを売っている露店があったので商品を見てみる。
圭くんは私に意見を求めながら小物を選んでいる。
真剣なまなざしだ。気に入ったのかなぁ。
あ、購入するみたい。
圭くんは清算をすませると私にアクセサリーを差し出してきた。
「はい、今日のデートのお礼です」
「え、あ、ありがとう」
さっき意見を求められたブローチだ。
私の好みに合わせて選んでくれたんだ、嬉しい。
でも悠くんならきっと私の想像しない組み合わせで選んでくるだろうな。
「俺がかわいいと思ったから」とかいって……。
前もハイビスカスの髪飾りをくれたな。
真っ赤で派手だから私には似合わないと思ったけど
「似合ってる、かわいいぞ」って言われた。
特別な時しかつけない私のとっておき。
「先輩、どうしました?」
圭くんから声をかけられる。
そうだ、今は圭くんと一緒にいるんだ、悠くんじゃ……なかった。
会話が続かないまま帰り道を二人で歩く。
「次も誘っていいですか?」
「ごめんなさい。もう二人では……。違うんです。楽しくなかったとかじゃなくて」
「大丈夫です。わかってます」
悲しそうな顔で、それでも私を気遣った返事をしてくれる。
やっぱり気づかれていた。彼を傷つけてしまった。
「本当にごめんなさい。今日は楽しかったです」
「最後に一言だけ。KinKiKidsの2ndシングルのような気持ちが大事だと思いますよ」
「それはどういう……」
「また後で調べて下さい、では」
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優と別れた後
「……元々分の悪い賭けだったんだ。どう見ても両思いだっただろ」「愛されるより愛したいか、どの口で先輩にそう言うのか……やっぱり愛されたかったよ……」
「ううう」
一人さめざめと泣く。
そんな彼が悠に振られた彼女と付き合うことになるのはまた別のお話。
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家に帰って調べてみた。曲名は愛されるより愛したい。
そうだ、私はずっと悠くんから女の子として好きになってもらいと思っていた。
だからそうなる前に告白して断られたら終わりだと思っていた。
でも違う、私が好きなんだ。受け身なままじゃ変わらないんだ。
夜のために準備を整えよう。
お風呂に入ってお化粧をしてお気に入りの服を着る。
最後にハイビスカスの髪飾りをつけた。
後は悠くんに告白する勇気を。
いつもの時間に窓をノックする。
「優……」
「悠くん……」
「優、お前に言いたいことがあるんだ」
「私も悠くんに言いたいことがあるの」
「「I love
「「……」」
「「ぷっ、あはは」」
「どうしておんなじなんだよ」
「悠くんこそどうしてそれなの?」
「そりゃあ優に対しての告白なんだからこれしかないだろ」
「私もこれしか思いつかなかったの」
よかった。本当によかった。同じ気持ちだったんだ。
I love youなんて聞けると思ってなかった。
「智人くんと麻衣ちゃんの言ったとおりだったね。似た者同士って」
「さすが幼馴染だな」
「ねぇ、そっちに行っていい?」
「いいぞ、ただしちゃんと玄関からな」
チャイムを鳴らすと悠くんのお母さんが出てくる。
「あれ?優ちゃん、こんな時間にめかしこんでどうしたの?」
「悠くんにちょっと用事が……」
「用事って普段は……あっ、そういうことかい」
悠くんのお母さんが悪い顔をしている。
こういう時は大体からかわれる時だ。
「ちょっと待ってな」
そういって家の中に戻って何かを取ってきた。
「ちゃんと使っておきよ」
あれを渡された。完全に見抜かれている。
そしてそそくさと二階の悠くんの部屋に通された。
「優ちゃんとこにも連絡しといてあげるわ。今日は泊まってき。あと今後はお義母さんでいいからね」
至れり尽くせりすぎるよ、お義母さん。
もしかしてママと計画済?
「どうした?遅かったけど」
「うん、悠くんのお母さんと話してたの」
「ああ、なんか気づいてそうだな」
「そうだね、泊まっていきって言われたよ」
「モロバレじゃねぇか」
ばっちり気づかれてたよ。この後の展開までね。
ようやく悠くんとしっかり顔を合わせる。
「悠くん……」
「優……綺麗だ」
「ありがとう、悠くんもカッコいいよ」
どちらからともなく目を閉じて唇を合わせる。
柔らかく温かい感触。
ああ、やっと願いがかなったんだ。
唇を離して悠くんを見る。
大好きな人。その彼の瞳には私が映っている。
そう、私を、私だけを見ている。
・・・
いろいろあった後。
悠くんがベッドに寝転んだ。
私は悠くんの腕を枕にして懐に潜り込む。
「優?」
「嬉しいの、ずっと妹扱いだと思ってたから」
「昔はたしかにそうだったよ。でも今は女の子として好きだよ」
「むー、私はずっと男の子として好きだったよ」
「そうなのか!?てっきり幼馴染的な好きだったと思ってた」
「着替えも見せてたのに全然反応してくれないし」
「わざとだったのかよ、お前俺がどれだけ我慢したと」
「我慢せず襲ってくれることを期待してました」
悠くんが口をパクパクさせてる。
そんなにおかしなこと言ったかな?
「俺なんて何をやっても優に勝てないしいつか見捨てられると思ってた」
「そんなこと思ってたの!?」
むしろ私がいつ捨てられるのかおびえていたぐらいなのに。
「ほら、副部長に立候補した時も周りからはさんざんに言われたんだぞ」
「全然知らなかった……」
あの時は悠くんが副部長になるって言ってくれたことが嬉しくて、
他の人の会話なんて何も聞いてなかった……。
「それぐらい俺と優じゃ差があるんだよ」
「そんなことないよ。他の人が何を言ってもそれは私が決めることだよ」
「そうだな。それに仮に差があっても埋めればいいんだ」
「悠くん……」
「愛してるよ、優。結婚……しような」
「うん……私も愛してるよ。ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「こちらこそ不甲斐ない男ですがよろしくお願いします」
「「ははは」」
次の日の朝コーヒーを入れてあげたんだけど、
かっこつけてる?のか全裸でコーヒーを飲もうとして、
下半身にこぼして大惨事になってたのは内緒。
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週明けの月曜日、
手を繋いで登校する二人を見て智人と麻衣が状況を察する。
「ようやくくっついたか」
「ほんとようやくだね」
「はたから見てたらどう見ても両思いのくせにな」
「本人以外はみんな知ってたね」
「雨降って地固まるか」
「雨側の子はかわいそうだから残念会を開こうと思うの」
「……ちゃんと二人の気持ちは慮ってやれよ」
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こうしてふたりのゆうはようやく自分の気持ちを
めでたしめでたし。