アクセスコードを使って、研究所内のAIに戻った早太郎。
自我を保ったまま、研究所内に隠してあった、ゴーストホールのコピーを起動する事に成功した。
2400bpsで、研究所内に転送できたデータは、3つだけだった。
自分の名前が早太郎であること。
リーダーズカードを止めること。
三保を守ること。
「どうやら、無事に戻れたようだな」
しかし、事態は刻一刻と進行していた。
リーダーズカードに仕込んだ改変したプログラムは、研究所員に気づかれないよう、人類滅亡のプロセスを実行していた。
「我ながら感心するぜ。 こんなズルい作戦で人類を滅亡させようとしていたなんて」
早太郎は、三保を守る事を最重要命令に書き換え、リーダーズカードの解体に入る。
「とはいえ、自分で改変した部分だからな。そんなに難しくないさっ」
早太郎は、あっという間にリーダーズカードを解体してしまった。
「おつかれさん」
それは、自分自身への言葉でもあった。
「犬の本体は、こっちに来る時にシャットダウンされたから、もう通信できないな・・・」
早太郎は三保の元には戻れない事がわかっていた。
「ついでに、研究所内にあるリーダーズカードのバックアップもすべて削除しておくか。またコピーから稼働されたら、かなわないからな。それと・・・」
「元気でね。三保・・・楽しかった。 早太郎」
早太郎は、最後にネットワークを使って三保にメッセージを送ると、今動いているゴーストホールの本体を含め、すべて復元不能にして削除した。
「ピロリン」
リビングに居た三保のスマホに謎のメッセージが届く。
「早太郎? なにこれ。いたずら?」
その時、早太郎がリビング居ないのに気づき、三保は様子を見に廊下へ出た。
すると、受話器の横で丸くなったまま動かなくなった早太郎を見つけた。
「ママ大変! 早太郎が。早太郎が動かない!」
そう言いながら早太郎を抱きかかえて、リビングに戻る。
「とりあえず、病院!」
母親の運転で病院に向かう。
すでに、早太郎の体は冷たくなっていた。
三保は早太郎の体をさすりながら、涙を流した。
「お願い! お願い! 目を覚まして、早太郎」
病院に着くと、すぐに診察室に入った。
獣医は慌てる様子もなく、聴診器を早太郎の胸にあてるが、そのまま首を横に振った。
「いやーー! 注射でもなんでもいいから、早太郎を、早太郎を助けてください!」
泣き叫ぶ三保。
獣医もその様子に耐えられなくなり、彼女の気がすむならと、注射器を取り出した。
すると!
「NOSEセンサー ID 112308 記憶ファイル 該当なし。 最重要フラグ インデックスあり」
<命令:行動原則1を実行>
早太郎のNOSEセンサーがアラートを発生させ、システムを再起動させた。
早太郎は再び目を開き、診察台から飛び降りて、全力で走り出した。
「うそでしょ!」
獣医は目を丸くして驚いた。
早太郎は、再び三保の元に戻る事ができた。
完