目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第5話 行動原則その2

早太郎がやってきて数年が経ち、二人はすっかり仲良くなっていた。


 早太郎の人類滅亡計画は、三保の言い付けを守る事で徐々にその道筋が細くなっていき、その為の行動もめっきり減っていたが、長期スパンで計画は進んでいた。


「早太郎~! 出かけるよ~!」


 今日は日曜日。


 朝早くから、三保がケージを持ってきた。


 ケージに入れられ、車にのって出かける。

 今日はNOSEセンサーのアラートはない。初めての場所に向かうようだ。


 2時間ほど車にのって、大きな公園にやってきた。


 車のドアが開くと、NOSEセンサーから、大量のデータが送られてきた。


「なんだ!これは。」


 大量の臭いデータを分析する早太郎。


「犬が、50匹 いや 100匹はいるぞ」


 そこは、犬のイベント会場だった。沢山の犬がいるのに驚く早太郎。


「ここはいったい何なんだ!」


 アップテンポな曲がかかるイベント会場。

 早太郎は、しばらくケージに入れられたまま、会場の傍で待ての指示に従っていた。


「つづいては、三保と早太郎のペアです!」


 アナウンスが会場に響き渡ると、早太郎はケージから出してもらった。


「いくよ!早太郎」


 三保がそういうと、手に黄色いディスクを持っていた。




 行動原則その2 捕まえる事


 早太郎は、そのディスクを見ると、捕まえずにはいられなかった。

いくら人類滅亡を企む犬であってもROMに刻まれた行動原則には逆らえない。


「はやく! はやく投げて! 三保!」


 早太郎は、三保に拾われてからすぐに、フライングディスクで遊ぶのを教わっていた。


 早太郎の行動原則、走る事、捕まえる事、撫でられた人の言う事を聞くこと。

 これらすべてに合致するディスクキャッチは、早太郎の得意技になっていた。


 競技開始の笛がなり、ストップウォッチがスタートする。


「早太郎。レディ!」


 三保がそう言うと、ディスクを右手と左手で交互に持ち替えながら三保の腰のあたりを2周させる。その間に、早太郎は走り出す。


 1投目! 三保のスローイングは正確だ。早太郎は素早く着地点に移動する。


 ジャンプ!


 空中で早太郎がディスクをキャッチする。


「わーーーーー!」


 会場から歓声があがる。


「早太郎。カム!」


 三保が両手を広げる。 全速力でディスクをくわえたまま戻る早太郎。


 三保にディスクを返すと、すかさず走り出す早太郎。


 この競技、ディスクを投げる三保にも高いレベルが要求される。三保は散歩以外でもディスクを投げる練習を毎日していた。


 三保が2投目を投げる!


 ディスクが投げ出された瞬間、早太郎はその様子を見逃さない。


「ディスクの初速 17.265m/s 回転数 425.163rpm 仰角 ∔1.133° 方位角 348.12°」



 早太郎の演算は並みのコンピュータを凌ぐ。 いや、それは早太郎がAIの脳だからではない。本来犬というものは人間が知らないだけで、これくらいの計算をやっているのだ。


「ヒゲセンサー検出値。 風速 2.455m/s 方位 123.35°」


 瞬時に演算結果を割り出す。


「2.321秒間、ディスクは上昇。そこから下降、1.522秒後、地面に着地。ジャンプポイントは・・・」


 早太郎は、ディスクの着地ポイント手前2mへ走って止まる。その時間、わずか2.5秒


 ジャンプ!


 今日1番のハイジャンプを決め、予定していた3次元空間でディスクをキャッチする。


「ナイス!」


 三保が叫んで両手を広げる。


 早太郎が全速力で走り三保に飛びつき、ストップウォッチが止まる。


「いい子だねぇ。早太郎~ よくやったよ~」


 そう言って、三保は早太郎の頭をいっぱい撫でた。


 夕方・・・三保と早太郎の名前がスピーカーから流れる


「タイムトライアル。 優勝は、三保&早太郎ペア!」


 三保は満面の笑顔で、早太郎と表彰台にあがった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?