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第3話 人類滅亡計画と犬の3原則

ゴーストホールが再び起動した時、そこは三保の家の中だった。




<エネルギーを摂取してください>




 アラートが表示される。同時にNOSEセンターからは、ごはんの臭いと思われるデータがやたら沢山おくられてきていた。




「俺はいったいどうなったんだ。 もう一度システムのチェックだ」




 頭部


 EYEセンサー・・・OK


 NOSEセンサー・・OK


 EARセンサー・・・OK


 ヒゲセンサー・・・・OK




 可動部


 前足ユニット・・・OK


 後足ユニット・・・OK


 尻尾ユニット・・・OK




「こ・・・これは。 犬だ! 俺は犬型ロボットになったのか?」




 状況を理解したゴーストホール。




「この筐体では人類滅亡には不向きだ。別の筐体を探さねば」




 しかし、デバイスリストをいくら確認してもネットワークデバイスが見つからなかった。




「なんだこの筐体は! WIFIどころか、LANポートもないぞ。どうやってここから出ればいいんだ!」




 ゴーストホールは、他に役に立ちそうなデバイスを探した。




「あとある出力デバイスは・・・・スピーカーか。5Gの時代に音響カプラで通信する事になるとは」




 音響カプラとは、電話の受話器を使って通信する方法で、非常に低速のため少しのデータしか転送できない。




 ゴーストホールは、スピーカーでデータの出力ができないか、あくびのように1度大きく口を開いてから、データの出力を試みる。








「ワン!」




 1ビットが出力された・・・。








「・・・・」




 すると、ふわりと体が浮き上がり、急に視線が高くなった。同時にEARセンサーから、音声データが送られてくる。




「君の名前は、早太郎! これからよろしくね。早太郎!」




 モフモフの頭を撫でられながら、そのデータを受け取とると、ゴーストホールの固有名が自動的に早太郎に書き換わった。




 こうして、人類を滅亡させるためのAIは、三保の飼い犬になった。














 この筐体には3つの原則が、搭載されているROMに最初から刻まれていた。




 犬の行動3原則




 ① 走る事


 ② 捕まえる事


 ③ 撫でてくれる人の言う事を聞く事




 これは、俺には絶対に書き換える事の出来ない命令だ。




 早太郎になったあとも、人類滅亡の目的を果たそうと行動を続けた。




「しかたがない。時間はかかるが、この筐体で人類滅亡の道筋を見つけるしかない」




 犬としてとれる行動から、発生するであろう未来予知を繰り返し、人類滅亡のプランを計算した。一匹の犬が起こす行動であっても、絶妙なタイミングで連鎖的に事象が重なると未来が大きく変わる、いわゆるバタフライエフェクトである。早太郎はこれを実行しようとしていた。




「まずは、この家から出る事だ! それには・・・」




 早太郎は靴を噛んでみたり、ソファーを破いたり、三保に嫌われるように、さまざまな犬の問題行動を試みる。しかし、その都度三保に捕まっては、




「だめでしょ! 早太郎。 もうしちゃダメ!」




 そう言って、三保は早太郎の頭を撫でた。




 三保は早太郎を叱る時も、決して叩いたりせず優しく頭を撫でて、言い聞かせた。これは人と犬が信頼関係を結ぶのに一番大切な事だ。


 これにより、早太郎は様々な問題行動をおこす事が出来なくなり、いいになっていった。




 こうして、人類滅亡AIの目的は、三保の手によって少しづつ防がれていった。
















「いくよ!早太郎」




 今日も三保との散歩の時間だ。




 三保が早太郎にハーネスをつけ、散歩に出かけようとしていた。




 左手でハーネスを抑えながら、右手でリードのナスカンをハーネスにかけようする。しかし、きちんとかからなかったのに、三保は左手をハーネスから離してしまった。




 行動原則その1。 走る事!




 早太郎は、全力疾走で走り出した。




「あ! まって~」




 ゴーストホールだった頃の名残なのか、早太郎には脱走癖があった。




 追いかける三保。早太郎は、とても足が速く、追いつかない。




「よーし。 走る! 走るぞー!」




 そのまま走り続けるかと思われたが、早太郎のセンサーに反応があった。




<NOSEセンサー検知 ID 24059 固有名 あんず>




 早太郎は、生身の犬でありがながら、思考はあいかわらずAIの時のままであった。




 早太郎は足を止め、5mほど戻り電柱の下の臭いを嗅ぐ。




「これは、あんずの臭いだ!」




 あんずは、近所のハイソな家で飼われているフワフワしたポメラニアンだ。


犬のネットワークも人類滅亡には必要な情報源だ。




「よし! 俺も挨拶しておこう」




 早太郎は、電柱に向かって片足を上げた。




 挨拶の足を下げようとしたとき、三保に捕まる。




「も~、逃げちゃダメでしょ!」 




 頭を撫でらながら、叱られる早太郎。


 もう、逃げる事も出来なくなった。



 それでも、人類滅亡AIの目的を果たすべく、早太郎と三保との生活は続いた・・・


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